第20話【なに言ぅてんねんコイツ】
《2024年6月18日(火)13:00》
「ただいま。」
「ただいまです〜ライミさん。」
「はーい!2人ともおかえりなさい!」
今日は昼帰りだった。明日から金曜日までの3日間、毎年恒例の林間学校の準備で、5年生だけ早帰りなのだそうだ。
「よいしょ…っと!」
「ちょっとゆっくりしてから買い出し行っていい?」
「お昼ご飯できてるけど、お腹減ってない?大丈夫?」
「あー、じゃあ先に食う。」
「私もいただきます。」
「はーい!じゃあ手洗いうがいしてきてください。」
まあ買い出しと言ってもなんだ、別に遠足というわけじゃないから、雨具とか買いに行くだけだ。一応3日間天気は晴れだったけど。
まあそこそこにお腹も減ってるし、ご飯食べる前に手を洗いに行こうとしたその時───。
コンコンコンッ
「うわぁ!なになに!?アンナちゃん見てくんない!?」
「ベランダですね…私開けます。」
日差しが強かったので閉めていた左側のカーテンの向こうから窓をノックする音。恐る恐るタエコがカーテンを開くとそこに居たのは─────。
「かぁ!」
「あ、影狼のカラスだ。」
影狼のお友達のカラス君だった。カメレオン:ディストートの一件でお世話になった紫ポーチのカラス君。
「あら可愛い!」
「影狼君のカラスだ〜!おやつ用意するね!」
「お前が来たということゎ〜…何か持ってきてくれたな?」
「かぁ!」
「よ~し、良い子だ良い子だ…さて。」
カラス君の首にかかっているポーチからUSBを取り出す。これは組織からの伝言だな。後でパソコンで見るとして…ん?
「がぁ!」
「あれ、もう一匹いる。デカいのが。」
なんと紫ポーチ君の他にもう一匹、サイズが一回り大きいカラスがいる。
その背中には、結構大きめの箱が乗っかっている。
「こっちのカラスは箱…?」
「よしよし重かったろ…よいしょと。」
ピョンピョンと跳ねながらこちらにやってくるビッグカラス君。傷つけないようにビッグカラス君の背中から荷物を降ろしてやる。
恐らく霞留博士が何か作ったんだろう。私のもとにカラスをよこしてまで持ってこさせたのだ。何かしら任務に必要か、もしくは助けになるアイテムだと思うけど…。
「はーい!2人とも偉いですねー!おやつだよ!」
「かぁ!」
「がぁ!」
ライミちゃん手に乗ったおやつを嬉しそうに啄む2匹。私たちの手にすり寄って感謝の意を示すと、2匹揃って飛んでいった。
「さて、昼メシでも食いながらUSBを開きますか。
「了解〜パソコン持ってくるねぇ〜。」
さて…そいじゃ見るとしますか。
ライミちゃんが作ったチャーハンを食べながら、パソコンにUSBを挿し込む。
送付されたファイルを開くとそこに映し出されたのは…
"ごきげんよう諸君。"
髭を生やしたイケおじ。日頃肉体を鍛えているのか、ムキムキマッチョの身体をしている。が、そんな男が白衣を着ているというアンバランスさが微妙に笑いを誘ってしまう。
「…誰?」
そうか…タエコは知らないのか。だが、組織の人間として生きていくならば絶対に知っておかなければならない人物だ。
そろそろ教えてやっても良い頃だと思っていたので、さらっと答えた。
「霞留博士。」
「この人が霞留博士!」
"さて、かねてよりSMOoDOの諸君にお伝えしていた通り、私はD.B.Mのさらなる可能性を求めて、D.B.Mの性質を既存のものはそのままに、+1ポイントで何かしら別の効果を付与できないものかと研究していた。長らくお待たせしたが、ようやくそのうちの1つが完成した。お見せしよう。この青く輝く物質こそ、新たなる性質を持ったD.B.Mだ。"
"しかし実験の段階で、ある衝撃の事実が発覚してしまった。と言うのも、D.B.Mそのものの性質をいじる事は出来ても、諸君らの使っているD.B.M搭載兵器達の役割は結局本来のD.B.Mの持つ【ディストートの体組織に反発して破壊する】効果の範疇に留まってしまうんだ。"
"今回のこの青のD.B.Mの性質は速度に関係することなのだが、結局…諸君らの使っているナイフや弾丸が速くなっても仕方がないだろう…まあつまり、このD.B.Mの性質を変えるシステムを実際に使って得するエージェントやアシスタントは皆無ということだ!みんなすまない。"
"考えてみろ?青いD.B.Mの性質は飽くまでもD.B.Mの速度に関係するものだ。諸君らの使っている武器にD.B.Mは含まれていても諸君らの身体の中に直接D.B.Mがあるというわけではない。よってこの青いD.B.Mを搭載したナイフを使っても、実際に青い性質を持っているのはナイフだけだ。しかもナイフや弾丸の速度は使う人間の身体能力に左右される。つまり諸君らがこの青いD.B.Mが含まれている武器を使っても【ただ青く光っているだけ】と言うことだ。"
"それなら普通に今までの武器で戦っても変わらないだろう…と言うことだ。つまり今までの研究は無駄に終わってしまったというわけだ。本当に申し訳ない。"
ピッ
「………。」
「………?」
「………(•▽•;)」
なに言ぅてんねんコイツ。
「…こういうことってしょっちゅうなんですか?」
そうか、私はともかくライミちゃんは組織に入って半年だし、タエコはこの人のことを知る由もないのか。
「しょっちゅうと言うか、この人が組織一番の金食い虫だよ。」
「えぇ…。」
「ただ、D.B.Mの発明とか色々功績も大きいから、みんな目を瞑ってるの。それでも今回の研究はディストート討伐に対して革新的な内容だったからそれだけ期待も大きかったんだけどね〜…。」
ライミちゃんの言う通り、この人は確かに天才で、組織への技術貢献度は計り知れない。そんな男がD.B.Mの新しい可能性を開拓する………今回の博士の研究は組織の未来を背負っていた。
これまではD.B.Mを使った様々な兵器の開発なんかがメインだったけど、今回はD.B.Mの性質そのものを改良する方向で色々と試してたらしい。
その結果がこれと。
「アハハ…なんか面白い人ですね。」
「まあ傍から見たらね、やってること面白いおじさんだからね…。」
まあこっちのUSBに関しては組織にいる人間全員に贈られるものだから…こんなもんだろう。
問題は…
「こっちだ。この箱。」
そう…おそらくは私にしか届いていないであろう箱の方である。
こういう時は大体、ディストート討伐任務で使える武器や道具が入っている。
先日タエコに使わせたディストート避けも試作品をもらったものだ。
例の1件で晴れて認可が降りたらしい。今や組織内で人気のアイテムだ。
「はいはい!カッター持ってきたよ〜。」
「ん。ありがと。」
カッターを入れて箱を開ける。そこそこ大きくて重い箱を開けるとそこには─────。
「…靴だ。」
「靴だね。」
「靴ですね。」
靴だった。
白地にカッコいいラインが入ったスタイリッシュな靴。
あとさっきのとは別のUSB。
持っているのもなんだから、早速履いてみる。
なるほど…スポーティーなデザインで軽くて動きやすい、なかなか良い運動靴だ。
「アンナちゃんカッコいい!」
「履き心地どお?新しい靴、買おうと思ってたけど…?」
「普通。」
というわけで送付されていたUSB内のファイルを再生。
ピッ
"あーあー…映ってるのか?"
「映ってるわ。」
"映っているぞとわざわざ指摘したアンナ。"
「なんでわかんだよ…。」
「この人すごい…」
「博士、アンナちゃんの声聞こえてるんじゃない?」
"恐らくこの箱を開ける前に、研究成果通達の動画を見ただろう。なのでいちいち説明し直すことはないが、まあそう言うことだ。"
「うんまあ…それとこれがどういう関係なの。」
"しかしアンナ。君に対しては先ほどの話は全てなかったことにしてもらって良い。身体の中に直接D.B.Mが存在し、なおかつ同じように体内にD.B.Mを持ちながらも、自身の身体の中の細胞が完全にD.B.Mに取り込まれてしまっているルリ子君と違って、身体の細胞とD.B.Mが共生している状態のキミに関しては…先ほどの青いD.B.Mの性能を完璧に使いこなせるはずだ。"
「え!?アンナちゃんって身体の中にD.B.Mが流れてるの!?」
「アンナちゃん言ってなかったの?」
「ごめんずーっと後回ししてたわ。」
"困った時にはその靴についているボタンを押すと良い。するとk"
プツン。
………………………………………………ん?
「え?」
「消えましたね…。」
「消えちゃった。」
マジかこの人…こう言う所でドジ踏むような人だったかなぁ。
研究のし過ぎで逆にボケ来てるのかもしらん…筋トレ以外では外も出らんやろうけんな…ちょっと心配になるわ。
「…つまり今後はこの靴を履いて生活しろってことか。」
「とにかく困ったらボタン押すってことしか分かりませんでしたね…。」
「まあ…アンナちゃんなら何でも使いこなすよ!」
「靴を使いこなすってなんなの?」
結局この靴がどういった代物かはわからん。博士の言う事をそのまま受け取るなら戦闘中に使うものなのだろう。
青いD.B.Mか…実際に使ってみるまではどうなるかわからんけど。
1番ベストなのは間違いなく【使わないで良い】事だろうし…まあ難しいことは実際に使ってみてから考えるか。
☆次回予告☆
林間学校の買い出しにやってきたアンナとタエコ。
そこで2人は運命の出会いを果たす───。
───次回!
第21話
【お前はドラウガス】
〘アンナ、タエコ、トモダチ!〙




