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第19話【本郷ルリ子という女】



《6月14日(金)PM14:00》


 "総員、揃っているか?"


 遠隔で指示を出す男の名前は田呂歳史郎(たろさいしろう)。SMOoDOのSランクエージェントである。


 今回、某所に集まった本作戦の総動員数


 自衛隊及び特殊部隊員700名


 戦闘専門Bランクエージェント50名


 戦闘専門Aランクエージェント25名


 戦闘専門Sランクエージェント10名


 合計785名…国内での出動員数であれば、無論最大規模である。


 そして目の前にそびえ立つのは、人知れず存在している廃刑務所。


 "報告では…かなりの数のディストートが潜伏していると聞いている。特にB〜Aの化け物揃いだ。諸君らの実力を信じている…犠牲者を最小限に抑え、奴らを組織ごと叩き潰す。それでは、所定の位置にて各隊、現時刻をもって行動に移れ!"


 田呂の合図で各隊一斉に動き出す。先陣を切るのはAランクエージェント達、次いでSランクエージェント、自衛隊員・特殊部隊、そしてBランクエージェント達が後方を守る布陣だ。


 相手はディストート達が集って形成された組織だ。報告通りならば…SMOoDOがかねてより重要討伐対象としていた【イエティ:ディストート】が首領の座に就いているというのだから、これだけの動員数も納得…いや、むしろ足りないくらいだろう。それだけ凄まじい力を秘めているのである。


 前に突き進む総員達。一瞬の油断が命取りになる修羅場。


 この廃刑務所はかつて、国内最大級の規模を誇った刑務所だった。そんな場所にたむろしているのだから、国としてはたまったものではない。




───────────────────────────



 しかし、総員は意外な事に、誰一人として欠けることなく最深部までやってきた。


 "おかしい…聞いていた話と違うぞ!?ここには100体以上のディストートが居ると聞いていたが…。"


 そうなのだ。巨大な組織であると聞いていたため、ここに来るまでに、半数以上の犠牲者が出るのを想定していた。


 だが現実は…犠牲者どころか、ディストートがまだ1体も姿を見せない。


 "油断するな!我々を安心させて攻め込む作戦なのかもしれん…!"


 田呂の指示でいよいよ最深部までやってきた総員。ここまで誰一人欠けることなくである。


 流石の異常事態…何が起こっているのか誰も分からないまま、イエティ:ディストートのいる最深部のドアを開けた!


 "総員、突入!"


 一斉に駆け込み、陣形を取る一同!


 しかし、そこには─────。


 "な…なんだこれは…!?"






 そこには、たくさんのディストートの死体で作られた山がそびえていた。とてつもない数だ…100どころか、その倍の200体は居ると思っていい。


 更によく見ると、どいつもこいつも組織のデータベースにあったBランク以上のディストート達だ。




 それが一体なぜ─────!?



 「あそこです!誰かいます!」


 "なに!?誰だ!"


 何段もの階段の上に存在する1つの玉座…クルクルと回る仕掛けになっているその椅子に…後ろ向きだが誰かが腰掛けている。


 "貴様誰だと聞いている!大人しく指示に従い、こちらを向くんだ!"


 田呂の呼びかけに玉座に座っている人物が応じて、ゆっくりと座ったまま、総員の方を向く。


 そこに座っていた人物を見て、その場にいた全員が言葉を失いフリーズした。


 そんな彼らに構うことなく、座っている人物が口を開く。









 「本来ここに座る予定だった奴が言ってたよ…部下がサイズを間違えて作っちまったんだと。それでテメーの図体が収まんなかったらしくてな、結局観賞用にしちまったらしい。」


 その人物を見て田呂が言う。


 "貴様…い、いや!貴方のようなお方が一体…一体なぜここにおられるのですか!?お、お前たちも何を突っ立っている!この方はSMOoDOの誇るΩランクエージェントの一人…!"






















 "本郷ルリ子様その人だぞ!"



挿絵(By みてみん)








 「なぜって…そりゃオマエあれだよ。轟木のおっさんから「このままだと大量に犠牲者が出るから様子を見てきてくれ」って言われたからだろーよ。」


 "と、轟木総司令官が…ですか!?"


 「…202。202だ。田呂、オマエこれ何の数字かわかるか?」


 "202…ですか?"


 「…ここに転がってるディストートの数だ。うち158が危険度B、44が危険度A、オマエ785人全員殺す気だったのかよ。」


 "ぜ…全個体がB以上だったと…ま、まさか…!"


 「ありえねーってか?実際問題そうだったんだよ。オマエの想像だけで現場を作り上げるな。それにほら…よっ!」


ポイッ


どむんっ!


ごとーんごとんごとん…


 玉座に座っているルリ子が片手で何かを投げる。白い物体は空中を舞い、総員の前に転がり落ちる。田呂が映っているモニターを持った男の前で止まったそれを見た全員が再びフリーズ。










 「イエティ:ディストートの頭だぞ。危険度はSだ。」


 "え、S!?バカな!イエティ:ディストートの危険度ランクはAのはずでしょう!"


 「まあほとんどAみたいなもんだったが。」


 そこまでいい終えると、ヒョイっと玉座から降りるルリ子。そのまま階段を降りて一同の目の前に仁王立ちする。


 「…オマエら全員、運が良かっただけだぞ。安心しろよ。上にはオマエらが自分たちで任務遂行したことにして報告してやっから。今日この場にアタシゃ…本郷ルリ子ぁ居なかった…そういうことにしとけな。じゃあな。」


 すると一同の真ん中を歩いて出ていこうとしたので、その場にいた全員が道を開ける。785人の人間が間をあけた事によって作られた道を悠々と歩いて、ルリ子はその場から立ち去った。









 彼女の後ろ姿が見えなくなるまで見つめていた一同、その時、沈黙を破り自衛隊員の1人が口を開く。


 「み…みなさん、気づきましたか…あの人…。」


 彼の言葉に全員が耳を傾ける。そして放たれた衝撃の一言が、全員の心を身体から抜き取ってしまう。


 「無傷でしたよ…あの人…!」


 その言葉を聞いて田呂が言う。


 "当たり前だ…あの方はSMOoDOが誇る最強のエージェント、Ωランクの一人…!その体の中には、直接D.B.Mが流れているのだから…!"


 「えぇ!?」と戦闘専門Sランクエージェントが驚く。それを気にせずに田呂が続ける。


 "あの方は昔、ディストートの襲撃に遭い、死にかけたことがあるらしいのだが…組織の創設者だった方と霞留博士の尽力により、一命を取り留めたのだが…それでも目覚めなかったルリ子様を助けるために、博士は一か八かの賭けでD.B.Mを肉体に投与した…その結果、本来であれば強い拒絶反応を示すはずのD.B.Mはルリ子様の細胞を飲み込み、強く結びついたのだ…!圧倒的な身体能力にD.B.M細胞からなるディストートへの対抗手段…202体ものディストートを相手に己の肉体のみで闘い、そして無傷で先ほど帰還されたのだ…!"


 田呂の解説に、言葉も出ない一同。しかし、勇気を出して特殊部隊の隊長が口を挟む。


 「肉体にD.B.Mを投与ですと!?そんな事が可能ならなぜ貴方がたはそれをしないのですか!」


 それを聞いて田呂が再び口を開く。


 "そう思うのも無理はない…実は組織内にはルリ子様ともう1人、体内に直接D.B.M細胞を持つエージェントがおられるのだが…当然ながら、その二人の話を聞いて、我も我もと500人以上のエージェントが自らの肉体にD.B.Mを投与した事件があったのだ…。"


 「そ…それで、そのエージェントたちはなぜこの場に来てくれなかったのですか!?彼らが来てくれていれば、更に任務遂行の確率は上がったはず…!」


 "500名全員がその場で死んだのだ!ルリ子様ともう1人の方以外…直接身体にD.B.Mを撃ち込んだ人間は1人残らず!"


 「なっ…なんと…!」


 "ルリ子様の場合、体の細胞をD.B.M細胞が包みこんでしまっている…つまり、赤い基本的なD.B.Mの性質しか持たないが、その分強力な身体能力を得たということだ。"


 「…そ、それで、そのもう一人と言うのは…?」


 "私も風の噂でしか知らん…が、もう一人のお方の場合は、自分の細胞とD.B.M細胞が共生しているという話を聞く…つまりルリ子様ほどの圧倒的な身体能力はないが、己の肉体の中に宿るD.B.Mの性質や量を、自在にコントロールできると…そのように伺っている。それに身体能力も、ルリ子様と比べると劣るというだけで、その方も基本的に己の肉体のみでディストートと闘っているらしい…!"


 「だ…誰なのですか!?そのもう一人というのは!」


 "あぁ…私も直接会ったことがあるわけではないが…確かその方の名前は…"






































───────────────────────────



《同時刻 小学校》


 「アンナちゃーん!今日掃除当番だよー!」


 「はいはーい。」























☆次回予告☆


 アンナ達の下へ可愛い来訪者!

 彼らの持ってきた衝撃のメッセージとは!?


───次回!


第20話


【なに言ぅてんねんコイツ】


 次回より、第2章スタートだ!

【設定を語ろうのコーナー⑪】


本郷(ほんごう)ルリ()


《プロフィール》


◯出身地…長崎県・五島列島


◯誕生日…2006年4月3日


◯年齢…18歳


◯身長…170cm


◯体重…65kg


◯3サイズ…B87W59H88


◯好物…焼肉


◯好きな音楽…Lovin' You Lovin' Me、誰かが君を愛してる


◯好きな本…聖書、バイク雑誌


《備考》


 対ディストート秘密結社組織SMOoDOにおいて、最強と呼ばれる10人のΩランクエージェントの1人。


 昔、事故で死にかけたが、霞留博士の決死の手術により、肉体にD.B.Mを打ち込まれて一命を取り留めた…が、その際に身体の中に注入されたD.B.Mが細胞と完全に同化してしまい、人間離れした再生力と身体能力を得た。


 博士お手製のバイク【トルネード1号】に乗り、ウルフカットを風にそよがせながら、赤いマフラーをなびかせ、颯爽と走る姿は非常に美しい。


 天真爛漫な烈女であり、情に厚く涙もろい優しい姉御肌。晴家安成とは組織内で一番仲良しであると言えるレベルで信頼し合っており、アンナからの救援要請には必ず応えて現れる。


 純粋に身体能力が高く、生身の状態でディストートと殴り合える丈夫な肉体を持つ。Cランクまでのディストートであれば手加減していても倒せる上、Bランクはもちろん、一般的には避難命令が出されるAランクのディストートとも生身で渡り合える。過去にはSランクのディストートを単身撃破しており、戦闘能力は非常に高い。


 無論、身体の中に直接D.B.Mが流れているため、彼女に触られるだけでディストートはダメージを受けてしまう。アンナと違って赤以外のD.B.Mを使用することはできないが、D.B.M細胞の爆発力が織りなす戦闘能力は組織内最強クラスである。

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