第2話【アンナがパンクでやってくる】
《5月20日AM08:45》
職員室を出て、今日からお世話になるクラスに向かう。この学校は4階建ての建物が2棟あって、5年生のフロアはその2棟目の2階。職員室は1棟目の1階だから…結構大きい学校だな。
廊下を歩いていると隣にいる先生がコチラを見て笑いながら口を開いた。
「みんなびっくりするだろうなぁ!転校生なんて!」
やたら声がでかい…年は30代前半といったところだろうか。オレンジのジャージを着て、いかにも体育会系っぽいこの人がどうやら私の担任らしい。
「俺のことは上義って呼んでくれ!アゲヨシ先生!」
「はーい。」
私が緊張しないように気を使ってくれているのか…まあ、こんなの全然緊張しないが。
教室に向かうまでのほんの数分…ずっとこんなふうにガンガン話しかけられたら…ちょっとウザい。
「アゲヨシ先生。」
「おう!なんだ?」
あなたのクラスでは1人に対して全員でイジメが行われているようですが気づかれていますか?
と本当はいいたい気持ちを抑えて取り敢えず…この人から見た自分のクラスの印象でも聞いとくかな。これがとにかく大事。
学級委員長だのなんだの言ってるけど…やはりクラスの本当のリーダーは最終的に意思決定権の担任教師に行き着く。
それを分かっているから、子どもは言うことを聞く。
「どんなクラスですか?私…人見知りするから。先生が客観的に見てどう思うか聞いときたい。」
「ん〜…そうだなぁ⋯みんな元気でいいクラスだぞ!たまに元気すぎてトラブルもあるが…いやほんと、まだ1ヶ月しかたってないんだがな!ハッハッハ!」
「へー。賑やかですね。」
「おう!だから晴家もすぐに友達できると思うぞ!」
「ハハハ。タノシミダナー。」
冗談でもきついよ。あんな奴らと友達になんかなりたくないね。それに私、友達作りに来たんじゃなくて…。
それにしても…うちの組織はどこから情報を拾ってくるのだろうか。毎度毎度よくターゲットの潜伏している場所を調べ上げてくるものだ
「さ!着いたぞ晴家!まずは先生が軽く紹介するから、その後で自己紹介してな!」
「はい。」
ガラッと教室のドアが開く。それまで騒がしかった教室がまるで時間でも止まったみたいに静になる。
まあ先生が来たらこんなもんか…どこの学校も。なんというか心の奥底に怒られたくない恐怖心があるのかもね。
いや、今日は私がいるから特別静かなのか?知らない人間が自分たちのコミュニティに突然入ってくる感覚…確かにちょっと警戒するかも。
「よーし!みんなも気になってると思うが、今日からこの5年2組に新しい仲間が加わることになりました!」
「さ!晴家!」とでも言いたそうな熱い視線で私のことを見て、背中を叩くアゲヨシ先生。すっごいニコニコしててちょっと暑苦しい…。
「長崎県から来ました…晴家安成です。11歳です。好きなことはゲームしたり漫画読んだり…まあ本ならだいたい好きです。あと映画も。よろしくお願いします。」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!
小学生の拍手ってちょっとボリューム大っきいよね…まあそれだけ元気ってことだろうね。良いことだ元気なことは。元気なことはね。
「おう!じゃあ…アンナ!あそこの真ん中らへんの席…あそこがアンナの席だからな!タエコ!いろいろ教えてやれよ!」
どさくさに紛れて下の名前で呼び始めたことに関しては特にツッコまない事にして…。
なるほどこのクラスはあれだね。隣同士でペアを組んで生活するわけか…。
と言っても私が入って24になるわけで…じゃあこの1ヶ月1人あぶれてたんじゃんそれどーなの?って思うんだけど…。
真ん中の席と席の間のところを通って指示された通りの席に着く。視線が凄いね…まあ転校生なんてしばらくは注目の的だ。
休み時間…本読む時間ないだろうなぁこれ。質問拘束確定か。テンハラだぞテンハラ…あぁ、転校生ハラスメントね。
「えーっとよろしく…タエコちゃん?だっけ左を失礼。」
まずは私から挨拶を…礼儀として一応ね。ペアになるんだし距離は近づけなきゃ。私の挨拶を聞いて、オドオドした口調でその子が口を開く。
「う…うん…じゃなくて、はい。よ、よろしく…お願いします…。」
え、今「はい」って言い直したよね。なんで?あーまあそう言うことか…はいはいこりゃかなりアレだな。
しつけられてるな。
「忍耐心です…。」
弱々しく自己紹介してくれたその子…
朝、髪の毛引っ張られてた女の子だった。
よっぽどやられてるらしい…服もまだ朝なのに汚れてるし…可愛い顔なのに絆創膏と…ボサボサに荒れた髪の毛。シューズ濡れてない?コリャあからさま過ぎるね。
取り敢えずアゲヨシ先生…いやアゲヨシは気付いてて無視してるの確定。とんでもない教師だ。
「私は晴家安成…って今言ったから知ってるか。」
軽く微笑みながら言った私の顔を一瞬だけチラッと見てすぐに下向いちゃったその子の目は初対面のはずの私に対しても明らかに恐怖している。
自分の敵が1人増えたと思ってるらしい。
むしろ逆だ。もしこの子が助けを求めてきたら私は絶対に助けたい。
それか愛だ。隣人愛。
『いいか安成…お前は強い。だがその強さは自分の欲望のために使っちゃダメだ。倒すチカラを磨くな、助けるチカラを磨く者であれ。戦いに用いるチカラは、戦いを無くすためのチカラだ。』
師匠もそう言っていた。私の力は私のためじゃなくて、人々のためにこそ使うべきだと。
私が席に着くと普通に話し始めたアゲヨシ。もうこっちに意識は向けてない。それを確認して私は隣の席の女の子に…声をかけた。
「ねえ…タエコちゃん。」
それを聞いてまたこっちを見るタエコ。
そして今度はその視線を絶対に逸らさせないように服の袖を誰にも見えないように掴む。これテクニックね。
「私…転校してきたばっかりでまだ何もわかんないからいっぱい頼るね。」
「…は、はい。」
「だからさ…。」
そう。
だから…だから絶対に。
「だからタエコちゃんも、いつでも私のこと頼って。」
「え…!?え、あ…あの…はい。」
さて、この子のイジメに関しては、本当のこと言うと任務とはあまり関係ないんだけど…ほっとけないと言うか、私の性分だから。
で、この中にいるってことね…被害が大きくならないうちに手を打たないと…
絶対に逃さない。
☆次回予告☆
任務とは関係ない、クラスのイジメに立ち向かうアンナ。
多勢に無勢のこの状況、ひっくり返すことはできるのか!?
───次回!
第3話
【勇気ある闘い】!
恐れずに立ち向かえ!
【設定を語ろうのコーナー①】
☆晴家安成
《プロフィール》
◯出身地…長崎県・五島列島
◯誕生日…4月9日
◯年齢…11歳
◯身長…151cm
◯体重…44kg
◯好物…板ガム(梅味)、チミチャンガ、牛丼、刺身
◯好きな音楽…70〜90年代の洋楽
◯好きな本…聖書、漫画(特にアメコミ)、推理小説
《備考》
天然パーマのポニーテールが特徴的なエージェントの一人。すでに複数の任務をこなしているベテランらしく、幼いながらも考え方が落ち着いていて大人な面も。得意分野や特技等は不明。
家庭事情は不明ながらも、現在は任務の都合で各所を転々としている模様。彼女本人を巡って親族間で諍いがあったらしく、組織に保護された時には既に1人で暮らしていた。当時5歳であった。それまでどうやって生きてきたか組織でも把握できておらず謎が謎を呼ぶ存在である。【師匠】と呼ばれる存在がいたようだが…!?
その実力は組織内でも認められているようで結構有名人な様子。
なお私生活では非常に敬虔なキリスト教徒で毎週日曜日は教会へ礼拝に。暇な時間は本を読むか祈っていることも多い。