第9話 最良の物件?
「それにしても、二人は本当に可愛いなぁ。肌はスベスベでエルフやダークエルフって皆そんな感じなのかしら」
市川はテーブルに肘をつきながら、私とシャールを羨ましそうに見つめる。
「あまり意識したことはありませんが、皆こんな感じですよ。年齢を言い当てるのは難易度が高いかもしれません」
「そうね。個人差は多少あるかもしれないけど、ダークエルフも見た目で年齢を言い当てるのは難しいかも」
食事を注文し、待っている間は雑談に花を咲かせる。
私とシャールの間に敵意がないことは、今朝シャールが病室で市川に伝えており、勿論市川を含めた人間にも敵意がないことも伝えている。
本来なら、エルフ、ダークエルフ、人間が顔を揃えるだけでも奇跡的であり、こうして食事の卓に並ぶことはありえない光景だ。
「市川さんは若くて美人ですし、モテるんじゃありませんか?」
私は素直な感想を市川にぶつけたつもりだったが、当の本人は憂鬱そうな顔になって溜息を付く。
「モテたい……」
どうやら、禁句に触れてしまったようだ。
明るくて美人だし、人懐っこい性格の彼女ならモテるような気がしたが、私が思っているより現実は厳しいらしい。
「市川さんなら大丈夫ですよ。そんなに落ち込まなくてもチャンスは訪れますよ」
「友達にも似たような励ましを受けたけど、その友達は最近結婚して私は取り残されちゃった」
励ましの言葉を送ったが、傷口に塩を塗ってしまう結果となった。
これには私も参ってしまい、隣にいるシャールへ助けを求める。
シャールは仕方がないなと言わんばかりに、市川の手をそっと握って見せた。
「こちらに器量良し、気立て良しの最良の物件がございますよ。今なら、長耳触り放題のオプションも付けて夜のお供にいかがですか?」
「ほほぉ、なかなか良い物件ですな。長耳プレイもいいけど、個人的には着物の帯をほどいて、あ~れ~なんて悪代官プレイがいいわぁ」
私を優良物件として紹介するシャールだが、市川は顎をしゃくって舐め回す視線をこちらに向ける。
何となくだが、この人がモテない理由が分かったような気がする。
「ちょっと、勝手に私を出汁にして盛り上がらないでよ」
「あら、いいじゃないか。君も満更ではないのだろう?」
「か……からかわないでくれよ」
私は頬を赤く染めて顔を下に向けると、シャールと市川は可笑しそうに笑って盛り上がっている。