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第5話 身を染める

「まずは君の名前を窺ってもいいかな?」


「私はミスティア・シンガレット。エルフ族で今年十八歳になります」


「へぇ、意外ね。エルフって言うからには三百歳とかとんでもない数字が飛び出してくると思っていたけど、割と普通ね」


 簡単な自己紹介をすると、市川は私の年齢を聞いて少しガッカリしているように見受けられた。

 エルフの中には、実際に三百歳の者もいれば、それ以上の長寿のエルフも存在している。

 エルフ族全体で見れば、私はまだ幼い子供と変わらない。


「それじゃあ、ミスティアちゃんはどうしてこの世界へ現れたのかな?」


「それは私も知りたいところですよ。多分、そこで寝ているダークエルフが何か知っていると思いますが、素直に答えてくれるかどうか……」


 市川の疑問に私は答えられず、その答えの鍵を握っているのはベッドの上で眠っているダークエルフだ。

 長い間、エルフとダークエルフの紛争が続いており、たしかダークエルフは人間と関係は疎遠でエルフに至っては最悪なものだ。

 そんなこともあって、まともな会話が成立するとは思えないのだ。

 私はそのことを市川に伝えると、彼女は神妙な顔になって言葉にする。


「なるほど、ミスティアちゃんがダークエルフの彼女に襲い掛かろうとしたのはそういう訳だったのね」


「驚かせて、すみません。冷静に考えたら、自分のやろうとしていたことは人殺しです。市川さんが止めに入るのは当たり前ですね」


 どんな理由であろうと、私は宿敵のダークエルフを殺そうとしたのは事実だ。

 仲間だった遊撃隊の皆は私を残して壊滅。

 仲間を殺された恨みを晴らすために、私はすっかり一族のエルフとして身を染めていた。

 前世で男子高校生だった唐山仁(からやまじん)ではなく、エルフ族のミスティア・シンガレットに――。

 私の心はグチャグチャに踏み荒らされたような感覚に陥ると、市川は私の背中を優しく擦ってくれた。


「大丈夫……ミスティアちゃんは何も悪くないよ。こんな怪我をするぐらい、頑張ったんだからね」


 市川のその言葉が私の心に深く突き刺さる。

 望んでもいない紛争に身を投じて、怪我を負いながら死にかけた。

 彼女の優しい気持ちが心地良く、私は市川の懐に飛び込んで自然と涙がこぼれてしまう。


「辛かったです……できれば、こんなことはしたくなかったんです!」


 それは懺悔ともとれるものだった。

 私は嘘偽りなく泣きじゃくった声で本心をぶちまけると、市川は小さく頷きながら、私の言葉に耳を貸して背中を優しく擦り続けてくれた。


「ありがとうございます。みっともない姿を晒してすみません……」


「いいのよ。悲しくなったら、思いっきり泣いちゃってすっきりするのが一番だからね」


 しばらくその状態で心を落ち着かせた私は涙を拭って、市川に感謝を述べる。

 そんな私を市川は頭を撫でながら笑って見せた。

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