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第4話 その子はダークエルフ

「その子に会わせてください」


「友達が心配なんだね。私が案内してあげるよ」


 私は褐色肌の可愛い女の子について、正体を確認しなければならないと焦っていた。

 市川はあくまで友達の安否を心配して面会すると思い込んでいる。


「さあ、立てるかしら?」


「ありがとうございます。一人で立てるので大丈夫です」


 市川が手を貸そうとしたが、私は頭痛のする頭を手で押さえながら自力で立ち上がる。

 部屋を出て、すぐ隣の個室に入ると先程の白衣の男とすれ違った。


「勝手に動き回るな。明日には精密検査もするんだから、大人しく戻って……」


「まあまあ、お友達が心配で見に来たんですよ。私も傍にいますから」


「……なるべく、早く戻るようにな」


 再び市川が間に入って(なだ)めると、白衣の音は付き合いきれんと言わんばかりに部屋を後にする。

 そんなことより、ベッドで寝ている奴の正体をこの目で暴こうとする。


(やはり……)


 悪い予感は的中してしまった。

 ベッドで寝ているのは宿敵のダークエルフだ。

 今は手当てされて、ぐっすり眠っている。

 目を覚ましたら、私や周囲の人間に危害を加えるかもしれない。

 それなら、この場で息の根を止めるしかない。

 武器になる物は患者着に着替えさせられて、何も持っていない。

 私はリンゴを剥いて使用したであろう果物ナイフを見つけると、それを握り締めてダークエルフに首筋に狙いを定めて命を奪おうとする。


「おや、友達のためにリンゴを剥くつもりだったのかな?」


 口調こそ柔らかいが、私の腕を押さえつけるような形で市川は果物ナイフを私から取り上げる。

 明らかに、私の意図を理解した上での行動だ。


「は……放してください! そいつを生かしていたら、大変なことになるんですよ」


「それはできない相談ね。これから人殺しをしようとする人間を野放しにするなんてできないわ」


 私は腕を振り払おうとするが、完全に取り押さえられる形になって身動きが取れない。

 これでも、戦闘の訓練は一通り習得している。

 一般人である彼女に遅れを取るようなことはない筈なのだ。


「私は人間じゃなくてエルフです。そこにいる女はダークエルフで、放っておいたら大変なことに!」


「エルフにダークエルフだって?」


「この長耳が証拠です」


「それって、コスプレ用の付け耳じゃ……」


 市川は私の長耳を確かめるように触ると、軽く引っ張って見せる。


「んっ……あまり強く引っ張らないで」


 私は懇願するように力が抜けて、その場にへたり込んでしまう。

 エルフやダークエルフは長耳を無造作に触られたり、引っ張られたりすると敏感に身体が反応してしまう種族だ。


「うそ……こんなの、夢でも見ているのかしら」


 付け耳ではなく、本物の耳であることを確認した市川は私とベッドで眠っているダークエルフを交互に見る。


「それじゃあ、君は本当にエルフでそこにいる彼女はダークエルフ?」


「そうです……」


 私は市川の疑問に力なく答えると、病み上がりと言うのもあって抵抗する力は残っていない。


「わ……わかったわ。とりあえず、お互いに情報を整理して確認しましょう」


 常軌を逸した状況に市川は眼前の光景を現実と受け止めるのに驚きを隠せないでいる。

 ダークエルフは今のところ眠っており、よく見ると私と同じように頭に包帯を巻いて怪我をしている。

 すぐに暴れだしたりはしないだろう。

 私は市川の提案を承諾して、話し合いに応じることにした。

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