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第30話 散歩②

「お待たせ」


 駆け足でシャールと合流した私は彼女に声を掛ける。


「おっ、やっと来たね。あんまり遅いから、この子と一緒に散歩するところだったよ」


 そんなに待たせたつもりはなかったが、シャールは私を待っている間に両手で黒猫を抱えながら話し相手をしていたようだ。


「へぇ、人懐っこい猫だね。触ってみてもいいかい?」


「ああ、構わないよ」


 私は両手を広げてシャールから黒猫を抱えると、柔らかくてモフモフした感触がたまらない。

 黒猫は目付きが鋭く目が合った瞬間ドキッとしたが、見知らぬ私に抱えられても嫌がる様子はない。


「君はどこから来たんだい? 首輪をしていないから、多分野良猫だと思うけど」


 優しく黒猫に語りかける私に対して、黒猫は沈黙を保ったままこちらを見つめて来る。

 猫らしい鳴き声もなく、可愛いけど仏頂面な黒猫だなと思いながら頭を軽く撫でてあげる。

 すると、黒猫は何を思ったのか、ぬるりと私の手元から離れると草むらの茂みに飛び込んでどこかへ行ってしまった。


「あらら、逃げちゃったね。もう少し触りたかったけど」


「そのうち、またひょっこりと現れるさ」


「仕方ない。こっちの猫っぽい耳をしている君で我慢するか」


 シャールは残念そうに私の頭を無造作に撫でようとする。

 妥協するぐらいなら、止めてほしいところなのだが。


「子供じゃないんだから、むやみやたらに……」


「別にいいじゃないか。減るものではあるまい」


 私の反論を無視して頭を撫でるシャールはお構いなしだ。

 その内、調子に乗ってまた長耳でも触られると思い、そうなってしまっては散歩どころではない。

 私はシャールの手を払い除けて、彼女のペースに呑まれないためにも先に歩き始める。


「ほら、行くよ」


「はいはい、仰せのままに」


 やれやれと言わんばかりに、シャールは私と並んで肩を寄せ合う。


「それにしても良い天気だ。デートにはもってこいの日だと思わないかい?」


「デートって……只の散歩だろ」


「私は散歩兼デートのつもりなんだけどね。デートって名目で君を誘っても、こうして素直に来なかっただろう?」


「それは……」


 私の性格を理解した上でシャールは敢えて散歩を前面に出して誘った訳だ。

 デートだと、変に意識して尻込みしてしまうのは分かっていたのだろう。


「一応、私は前世と違ってエルフの女だよ」


「そんなの関係ないわよ。君は昔から細かいことを気にするなぁ」


 いや、人間の男からエルフの女になったことは大きな変化である。

 どちらかと言うと、私が細かいのではなく彼女が大雑把なのだ。


「エルフとダークエルフがくっ付いてはいけないルールはこの世界にないよ。まあ、仮にあの異世界で君と戻っても、たとえルールを破る結果になっても私は君と一緒にいるつもりだよ」


「……相変わらずの理屈だな。でも、嫌いじゃないよ」


 過程はどうあれ、シャールの真っ直ぐな気持ちは十分に伝わって来る。

 お互い、エルフとダークエルフで宿敵同士の関係が馬鹿らしく思えてしまう。


「さあ、楽しいデートに出発」


「楽しい散歩な」


「やれやれ。君、そういうところだよ。細かい修正はなしだ」


 シャールはぐいっと私の腕を掴むと、人目を気にせずに街へ繰り出した。

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