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第28話 二人を狙う影

 静まり返った夜空の下で、小さな足跡が響き渡る。

 約束の時間にはまだ早かったが、待ち合わせ場所には一人の若い男が立っていた。


「やあ、元気そうじゃないか」


 こちらに気付いた若い男は軽く手を振って見せると、無邪気な笑顔で出迎えてくれた。


「貴方は相変わらずですね。お互い、追われる立場である事を忘れてしまいそうだ」


「ははっ、私は子供の頃から鬼ごっこの類は嫌いではありませんでしたからね。現状をそれなりに満喫していますよ」


「はぁ……貴方のような胆力が欲しいところですよ。私は見つかったら一発アウトの鬼ごっこも嫌ですし、怖い鬼に見つからないために、かくれんぼを継続しながら貴方を支援するつもりです」


 久々に再会した筈なのに、無駄口を叩けるぐらいの余裕が健在で羨ましい限りだ。


「有難いねぇ。そう言ってくれる仲間はもう君しか残っていないからね。君だけが頼りだよ」


 若い男は両手でこちらの手をギュッと握り締める。

 このダメ男全開なオーラを纏っている感じが、それがこの男の本性でない事は重々承知している。


「貴方にとって、仲間と書いてビジネスパートナーでしょうに。私よりゼータが生き残っていた方が色々と都合よかったでしょう?」


「まあ……否定はできないですかね。でも、一番『価値』のある仲間は君だけですよ」


「それはどうも。お世辞でも嬉しい限りです」


 両手を払い除けると、すぐ近くにある自販機で二人分の缶コーヒーを購入する。

 昔、彼に淹れてもらったコーヒーを飲んだ事があったが、それはとても美味しかったと記憶している。


「どうぞ。落ち着いたら、貴方が淹れてくれたコーヒーをまた飲んでみたいものです」


「ありがとう。でも、こうして君とコーヒーを飲み交わす日がまた訪れるなんてね」


 空を見上げながら感傷に浸っている若い男に、ここへ訪れた目的を果たすため二枚の写真を提示する。


「その二人が今回の標的です。ご確認を……」


「ほぉ、エルフとダークエルフですか。ファンタジーな色合いが強い組み合わせだ」


「エルフはミスティア、ダークエルフはシャールです。いずれも前世の記憶を所持しており監視は続けますが、あまり期待しない方がよろしいかと」


「まあ、気長にやろう。『ルール』を守って、今は鬼ごっこを楽しもうじゃないか」


 あくまで前向きな志向を崩さない若い男に、正直縁を切ってしまおうかと思うことは何度もあった。

 だが、結局はこうして協力的な姿勢を見せてしまい、この男が掲げる『ルール』を守って目的を達する姿を見てみたい願望があるおかげで、縁は切れずにいる。


「せいぜい、一人で楽しんでください」


「うーん、つれないなぁ」


 用件を済ませると、若い男に踵を返してその場から立ち去ろうとする。

 一人残った若い男はもらった缶コーヒーに目を移すと、殆ど口にしないままゴミ箱に捨てる。

 狂気の目を宿したまま、目的を果たさんがために――。

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