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第27話 乾杯

「はいはい、お待たせ。さあ、召し上がれ」


 ぐつぐつ煮えた鍋が食欲をそそると、三人は食卓を囲んで鍋パーティーと洒落込む。

 最初は美味しく鍋料理を堪能していたが、酒を流し込むスピードが早い市川は顔を赤く染めている。


「二人はやっぱり可愛くてたまんないわぁ。ねえねえ、お姉さんと結婚しない?」


「そんなに飲んで大丈夫ですか。少しソファーで横になった方が……」


「あら、意外とミスティアちゃんは積極的ねぇ。ソファーに寝かせて抱いてくれるなんて」


 温かい鍋を摘まみながら、私は呂律が回らなくなっている市川を心配して介抱しようとすると、市川はお構いなしに私へ抱き付いて見せた。


(う……酒臭い)


 彼女の吐く息からはアルコールの臭いで、こちらもそれに当てられて酔ってしまいそうな勢いだ。


「うはぁ……柔らかくて気持ちいいわぁ。エルフの女の子最高~」


「はいはい、少しソファーで横になりましょう」


 酒で赤く染めた頬を私の顔に擦り寄せると、市川は最高潮のテンションで舞い上がり満足そうにする。

 これには私も参ってしまい、私の身体を散々触りまくったが、水を少々飲ませて、どうにか市川をソファーに寝かし付けることができた。


「あらあら、おつかれ。私もお酒を飲んで君に介抱してもらおうかしら」


「冗談じゃないよ。それに私達は未成年だろ?」


「前世から数えたら、私達は三十過ぎの大人よ。本来なら、君と酒を酌み交わしながら日常を過ごしていたかもしれないよ」


「それはそうだが……」


 あの事故がなかったら、もしかしたらシャールが語る未来が実現していたのかもしれない。

 シャールは空いているグラスに酒を注ぎ込むと、それを私に手渡して見せる。


「ほら、幼馴染と感動的な再会を祝して乾杯しましょう」


 互いのグラスに映り込むエルフとダークエルフの姿。

 過程はどうあれ、こうして一緒に再会できたのは奇跡的なことだ。


「ああ、そうだね。じゃあ、一杯だけ……乾杯」


 私とシャールは再会を祝してグラスを交わす。

 初めて口にする酒の味はよく分からず、市川のように美味く飲むようなことはできそうにない。


「あら、なかなか飲みっぷりがいいね。もう一杯いかがかしら?」


「いや、もういいよ。酒よりジュースの方がいいや」


「そう言わずに、もう一杯ぐらい付き合ってよ」


 シャールに煽てられるが、正直勧んで飲みたいとは思わない。

 お構いなしに私のグラスに新たな酒が注がれると、しょうがないなと彼女の申し出を受け入れる。


(あれ……)


 二杯目を飲み干した私は意識が混濁するような感覚に囚われ、立っていられなくなる。

 多分、酔っ払ってしまったのだろう。


「やれやれ、君に介抱してもらいたかったんだがな」


 残念な気持ちでシャールは私の背中を支えると、そのままお姫様抱っこをする形で私をベッドまで運ぼうとする。

 こうして、ささやかな鍋パーティーは解散となった。

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