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第26話 魔法

 パンフレットの折り鶴を気にしながら、私は市川と夕食作りの手伝いをしていると、玄関先の扉が開く音がした。


「あっ、起きていたんだね。京子さんも、いらっしゃい」


「お邪魔しているわよ。もう少しで作り終えるから、ミスティアちゃんも手伝ってくれて助かったわ。シャールちゃんと適当にくつろいでいていいわよ」


 市川は気を利かせて、私をシャールとリビングのテーブルに向かい合わせて座らせる。


「どこに行ってたんだい?」


「ちょっと散歩にね。本当は君と揃って散策したかったけど、布団で気持ち良く眠っていた君を起こすのは悪いと思ってね」


「あんなことをしなければ、私も行ったのに」


「ふふっ、ごめんなさい。今度、ゆっくり一緒に散歩しましょ」


 私は頬を膨らませて文句を付けると、シャールは子供をあやすような感じで私に笑顔を振り向ける。

 シャワーでの出来事が鮮明に蘇ると、あんな真似は二度としないようにと私は念押して注意する。

 まあ、彼女の性格から考えてあまり効果がないのは分かっているが――。

 そして、私は席を立って問題のパンフレットの折り鶴をシャールに見せた。


「あら、可愛らしい折り鶴ね。君が作ったの?」


「いや、折り鶴は京子さんだよ。実はこれについて何か悪霊とか憑いていないか調べてもらいたいんだ」


 私は詳しく経緯を説明すると、シャールは折り鶴を手に取って見せる。

 しばらく、折り鶴を見回した後にそれを広げてパンフレットも目を通すと、シャールはパンフレットを丸めてゴミ箱に捨てる。


「どこにでもある普通のパンフレットね。君が寝ぼけて夢でも見てたんじゃないかな?」


「そんな! あれは夢なんかじゃないよ」


 シャールが導き出した答えは私が求めていたものではなかった。

 いや、危険な悪霊が憑いていないのは結果的によかったが、私の身に起きた事は現実だ。


「この部屋に居座っていた悪霊は完全に祓って断ち切ったし、少なくとも霊が絡んだ事案じゃないわ」


「じゃあ、一体何が原因であんな事が……」


「長耳の影響で本調子じゃなかったって話はエルフやダークエルフではよくある話よ」


 確かに、長耳を触られて感覚が尾を引いて麻痺している事はある。

 しかし、感覚はもう万全に回復していたし、それが原因とは到底思えない。


「もしかして、私を驚かせようと仕返しのつもりかな?」


「いや、そんなんじゃないよ。本当なんだって……」


「まあ、そのパンフレットが私の目の前に現れたら信じてあげてもいいけどね」


 シャールは非現実的だと言わんばかりに先程ゴミ箱に丸めて捨てたパンフレットに目をやる。

 悪霊等の仕業ならありえる話だが、その可能性がゼロである事はシャールが一番理解している。


「さあ、この話はこれで終わり。京子さんのお手伝いを……」


 シャールは席を立とうとすると、視線を一瞬床に移して言葉を失ってしまう。

 それはゴミ箱に丸めて捨てた筈のパンフレットが床に落ちていたのだ。


「そういえば、君は前世から嘘を付くのが下手だったね。まさか、こんな形で思い出すことになるとは不覚だったよ」


「じゃあ、私の話を信じてくれるんだね」


「実際に君の言う通りの展開になったからね。問題はこれが一体どんな仕組みなのか」


 悪霊の類でなければ、狐にでも化かされているのだろうか。

 それなら、可愛らしい悪戯で解決できそうだが、この部屋に狐や狸のような化かす小動物がいる筈もない。


「考えられるとしたら、後は魔法しかないわね」


「それはちょっと突拍子のないような気がするけど、だってこの世界で魔法を扱える人なんていないよ?」


「私達を包み込んでこの世界へ飛ばした閃光の正体が誰かの魔法によるものなら、可能性は捨てきれないわ」


 シャールは原因を魔法と推察するが、私やシャールは魔法について専門ではないので断定はできない。


「じゃあ、あのパンフレットの持ち主だった営業マンの男が?」


「もしかしたら、魔法使いかその関係者かもしれないわね」


 思わぬ可能性に行き当たって、私とシャールは驚きを隠せないでいる。

 仮に推察通りだったら、元の異世界へ帰れる方法が見つかるかもしれない。


「あの閃光について何か情報を持っているなら、調べてみる価値はあるかもね」


 シャールは意気揚々とパンフレットを拾い上げると、ここへ訪ねて来た営業マンの探索を提案する。

 私もこのまま放置するのは釈然としないので、やはりすっきりと解決したい。

 二人の意見が一致すると、夕食の用意を整えた市川が機嫌よく料理を運んで来た。

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