第25話 奇妙な現実②
この数日間。色々な事が起きて疲れているのか。
それとも、この部屋に残存している悪霊が憑いているせいなのだろうか。
私はもう一度、パンフレットを手に取って、それを丸めてゴミ箱に捨てて見せる。
そして改めてテレビのリモコンを探し始めると、今度は床に先程のパンフレットが無造作に置かれていた。
(嘘だろ……)
まるで、パンフレットが意志を持って私に何かを訴えかけているように現れる。
事故物件だった経緯もあり、やはりこの部屋に残存している悪霊の仕業だと考えるのが自然かもしれない。
残念ながら、私に悪霊を祓う術は持ち合わせていないので、外出しているシャールを頼るしかない。
気味が悪いのでテレビをつけっ放しに一旦外へ避難しようとしたが、ここでまた訪問者を告げる部屋のチャイムが鳴った。
先程の若い男かと思って、私は急いで玄関先の扉を開けると、そこにはスーパーの袋を大量にぶら下げた市川が立っていた。
「あっ、京子さんでしたか」
「あらあら、随分とテンションが低いわね。何だか声のトーンも下がって、シャールちゃんと喧嘩でもしちゃったの?」
「そういう訳ではないんですがね……」
見知った顔の市川が訪ねて来てくれたおかげで、幾らか落ち着きを取り戻せた。
私は市川にパンフレットの件を話すと、彼女は神妙な顔をしながらスーパーの袋を玄関先に置いて部屋の中に入って行く。
「幽霊のお祓いとか専門じゃないから断言はできないけど、嫌な気配とかはしないわね。人の気配も勿論ないし、部屋自体にも問題なさそうに見えるけど……これが例のパンフレットかしら?」
「ええ、そうです。ゴミ箱に捨てたと思ったら、いつの間にかテーブルの上にあったり床に落ちていたりして気味が悪いんですよ」
「ふーん……別に普通のパンフレットだけどねぇ。このパンフレットはどこで手に入れたの?」
「気の弱そうな営業マンの人が訪ねて、持っていた物ですよ。鞄からパンフレットの束をぶちまけて拾ってあげたんですが、どうやら一枚だけ残っていたようなんです」
「なるほどねぇ」
市川はパンフレットの表裏を見回すと、何もないことを確認して折り曲げて器用に折り鶴を作って見せる。
「まあ、悪霊だろうが生身の人間だろうが、ミスティアちゃんやシャールちゃんに危害を加えようとする輩は私が退治してあげるわ」
私を安心させるために市川が自信満々に親指を立てると、玄関先に置いていたスーパーの袋を取り出して鼻歌交じりに夕食を作り始めた。




