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第24話 奇妙な現実

 私は気分を変えようと起き上がり、洗面所で顔を洗う。

 冷たい水飛沫が良い刺激となり、次第に冷静さを取り戻していく。


(ふう……)


 タオルで顔を拭くと、そのままリビングのソファーに腰を下ろして気分転換にテレビを付ける。

 どうやら、気を失っている間に時刻は十八時に差し掛かろうとしていて、夕方のニュースが流れている。

 明日の天気はどうなるかなと軽い気持ちで眺めていると、私はある事に気付いた。


「あれ?」


 アナウンサーが今年の西暦を述べる場面に移り、それは私とシャールが前世の交通事故で亡くなった年だったのだ。

 異世界転生して十八年を過ごして、前世の世界へ戻って来た。

 普通に考えれば、あの日から十八年の年月が経っている筈だ。


「このアナウンサーの言い間違い……いや、そんな様子はない。じゃあ、私はまだ夢の続きを見ているのか?」


 試しに頬をつねってみたが、ちゃんと痛みが生じている。

 言い間違いでもなければ、夢でもない。


「そんなバカな話は……」


 私はソファーから立ち上がると、奇妙な現実を突き付けられて混乱している。

 十八年が経過した前世の世界だと思っていたので、市川や社長に今年の西暦が何年であるのか確認していなかった。

 この事実をシャールは気付いているのか。

 先程の洗面所へ向かう途中、彼女の気配はどこにもなかったので外出しているのはすぐに分かった。

 どうしたものかと思案している中、突然インターホンが鳴って誰かが訪ねて来た。

 シャールなら部屋の鍵も管理しているし、そもそも一緒に住んでいるので鳴らす必要もない。


「京子さんかな?」


 ここを訪ねて来る客は限られている。

 多分、市川だろうと思って私はよく確認もせず部屋の扉を開けると、そこには見知らぬ若い男が立っていた。

 よく見ると、ヨレヨレのスーツを着こなして年季の入った鞄を手に持っている。


「えっと……何の御用でしょうか?」


 迂闊に扉を開けた自身の失態を悔いながら、私は若い男に問いかける。

 こういうところがダメな部分だなと反省しながらも、私は気持ちを切り替えて目の前の若い男に対応する。


「突然すみません。実は私こういう者でして……」


 若い男は慌てながら、懐から名刺でも取り出そうとしたのだろうか、それが見当たらずにあたふたしている。

 鞄の中も確認しようとすると、手が滑って鞄の中身をぶち撒ける始末だ。


「ちょっと、大丈夫ですか」


「ああ……申し訳ありません」


 見兼ねた私は中腰になって鞄の中身を拾い上げる。

 申し訳なさそうな顔で若い男も謝りながら鞄の中身を回収していく。

 拾い上げた殆どは水道工事に関するパンフレットのようで、どうやらこの若い男は水道工事を勧めようとする営業マンと言ったところのようだ。


「はい、どうぞ。申し訳ないですが、水道工事は間に合っているので他を当たってください」


 拾い上げたパンフレットの束を若い男に手渡すと、私は一言添えてやんわり断りを入れた。

 水道工事をする金銭的な余裕はないし、現在置かれている状況を優先的に解決する事が先決なのだ。

 私は扉を閉めようとしてシャールの帰りを待とうとすると、若い男は何かを言いかけようとしたが、それを無視して私は扉を完全に閉めてしまった。


(やれやれ……)


 私は溜息をついて視線を地面に移すと、先程拾い上げたパンフレットが一枚落ちていた。

 すぐ扉を開けて突き返す事もできたが、それも面倒だったので私はパンフレットを拾ってゴミ箱へ入れようとした。


「こんな事に時間を割いている場合じゃないんだ」


 私は頭を抱えながら、ゴミ箱を背にして再びリビングのソファーに腰を下ろす。

 とりあえず、付けっ放しのテレビを消そうとリモコンを探すが、どこにも見当たらない。


「あれ? この辺にあった筈だが……」


 辺りを探し回るが、やはり見つからない。

 仕方なく、リモコンを介さずテレビを消すと、リビングのソファーにある物を見つけてしまった。

 それは先程、ゴミ箱に捨てた筈のパンフレットだった。

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