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第20話 あの時のまま

 あの時は散々、部屋の中を物色されて大変だった。


「この漫画は面白そうだね。少し読ませてもらうよ」


 本棚から数冊の漫画を取り出すと、私の事はお構いなしに、しばらくベッドの上で横になりながら漫画を読み始めた。


(一体、どういうつもりなんだ……)


 部屋の主である私は傍若無人の彼女に困惑しながら、その様子を呆然と眺める事しかできなかった。


「そんなところに突っ立ってないで、こっちで一緒に読むかい?」


「ば……馬鹿言うなよ! ベッドで一緒になんて無理に決まってるだろ」


 漫画に視線を向けながら、私を手招きする彼女に私は声を荒げて拒否する。

 幼稚園児や小学生の頃なら何も考えずに受け入れられただろうが、幼馴染とはいえ、高校生の男女がベッドの上で一緒の空間にいるのは色々と意識してしまう。


「可愛い女の子の誘いを断るとは意外と硬派だねぇ」


「可愛い女の子は(みだ)らにベッドに誘うような事はしないよ」


「ふーん、その理屈だと私って可愛くないのか」


「いや、別にそんなつもりは……」


 私は困惑しながら、完全に彼女のペースに吞まれてしまう。

 彼女は昔から可愛いし、今はそれにプラスして凛々しい女性だ。


「ふふっ、君は昔から面白い子だね。からかい甲斐があるってもんだ」


 ベッドから立ち上がると、彼女は私に笑みを浮かべて見せる。

 そして、数冊の漫画を手にしながら先程のベランダに移って私の部屋から出て行く。


「漫画は借りていくよ。また今度、続きを読みに行くからね」


 彼女はそう言い残して、自分の部屋の中へ消えていった。

 そんな過去の記憶を思い出しながら、物思いに耽っていると、シャールはシャワーを浴び終えて来た。


「さっぱりしたかな……って、ちょっと! 何て恰好をしているんだ」


 私は何気なくシャールに声を掛けようとすると、思わず視線を背けてしまった。


「ご覧の通り、裸だよ。何か問題でもあるのかい?」


 何も纏っていないシャールは首を傾ける。

 そういえば、仲間内だったエルフの中にはお風呂の後に服を脱ぎ捨てたまま過ごしている者が大半だった。

 そんなエルフの生活習慣や文化に慣れない私は基本的に誰にも裸を晒すのはしたくないので、すぐに着替えてしまうのだが、他のエルフ達から見れば少々変わったエルフに見えていただろう。

 おそらく、ダークエルフも変わらないような生活習慣だったと思うが、シャールの場合は違った。


「もしかして、私の目の前にいる可愛い女の子のエルフちゃんはエッチな気分になっているのかしら」


「そ……そんなんじゃないよ! そんな恰好をしていたら風邪を引くよ」


 私は完全にシャールから目を逸らして反論すると、彼女は可笑しそうに笑って答える。


「ふふっ、予想していたような反応を見れて面白いね。やっぱり、君はあの時のままだね」


 あの時のまま。

 そう、私はエルフの少女になってしまったが、基本的に思考回路は前世と何ら変わらない。


「それが分かっているなら、ちゃんと服を着てよ」


「はいはい、分かりましたよ。全く、君は相変わらずの硬派だねぇ」


 やれやれと言わんばかりに、シャールは着替えるために部屋を出た。

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