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第2話 目覚めると……

 懐かしい夢を見た。

 前世で男子高校生だった時の制服を纏い、その隣には幼馴染で彼女だった皆川泰子(みながわやすこ)と並んで歩いているのだ。

 泰子は私の顔を見ながら、何か楽しそうに語り掛けてくるが声は聞こえない。

 それだけで私の心は懐かしさで満たされそうになり、思わず手を伸ばして頭を撫でようとしたが、辺りは白い煙に包まれて現実へ引き戻された。


「くっ!?」


 覚醒した第一声は頭痛で思わず頭を抱えてしまった。

 頭には包帯が巻かれ、思考もしっかりしているし、手足も自由に動かせる。


(生きているのか……)


 信じられないことだが、あの状況下で私は助かったようだ。

 ここはどこなのだろうか。

 状況を確認するために周囲を見渡すと、どうやら私はフカフカの毛布に被さってベッドの上に寝ていたようだ。

 エルフ軍の駐屯地にでも運ばれたのだろうか。

 駐屯地の一角を野戦病院として解放し、戦地から怪我人や死体が運ばれるのは珍しくない光景だ。

 それにしては私以外に誰も怪我人はいないし、まるで静まり返った個室の病院だ。

 いまいち、状況が呑み込めない私はベッドから起き上がると同時に、部屋の外から誰かが入って来た。


(何なんだ? この人は……)


 巡回のエルフだと思ったが、どうやら違う。

 目の前にいるのは黒スーツに派手なネクタイを締めた人間の女性だ。

 まさか、彼女が私を助けたくれたのか。

 いや、あの燃えさかる炎の中で意識を失いかけていた私を抱えて救ってくれたのは人間ではなかった筈だ。

 私の記憶が確かなら、それは――。


「おっ、目が覚めたようだね。えっと、英語だとWoke up」


 私は驚いて言葉を失ってしまった。

 彼女が喋ったのは異世界転生後で習得した言語ではなく、前世で聞き慣れた日本語と発音が悪い英語だったのだ。

 この異常事態に、私は今になって色々と気付かされた。

 部屋の天井には照明の電灯、窓辺からは夜とは思えない人工的な照明の輝きが一面に広がっている。

 私は異世界転生後で習得した言語でここはどこなのか訊ねたが、彼女は困惑した様子だった。


「参ったな、英語じゃないぞ。ちょっと待ってね……翻訳アプリで日本語に変換っと」


 何か懐から取り出して準備を始めると、今度は十八年ぶりに日本語で訊ねてみた。


「ここはどこで、貴女は誰ですか?」


「おっ! 君は日本語が喋れるのか。ここは都内の病院で、私は市川京子(いちかわきょうこ)よ」


 会話はできたが、理解はできなかった。

 市川と名乗る女性は安心したように、私の質問に答えてくれたが、逆に私は不安が募る結果となってしまった。

 私はしばらく無言で市川と名乗る女性を見つめていると、彼女は何を勘違いしたのか頬を赤く染めて冗談を交える。


「君のような可愛い女の子に見つめられたら、その気になっちゃうぜ」


 市川は元気よく親指を立てながら、明るい表情を向けてくる。

 おそらく、不安そうな顔をしている私を励ます意味合いで振る舞っていたのだろう。


「とりあえず、意識もハッキリしているし怪我の具合も大したことはなさそうだ。何か飲み物でも買ってくるよ」


 市川はそう言うと、私に軽く手を振って部屋を出て行く。

 頭が混乱しそうな状況に、これは夢なのではないかと頬を軽くつねって見るが、頬の痛みと頭痛が同時に私を襲う。


(やはり現実だ……)


 こうなったら、先程の市川という女性から詳しく情報を聞き出すしか今のところ手掛かりはない。

 私はベッドの上に座り込むと、彼女が戻って来るのを待ち続けた。

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