第19話 昔の彼女
今後の生活について色々と意見を出し合ったが、仕事については進展がないままだった。
「少しシャワーを浴びて来るわ。折角だから、一緒に入る?」
「い……いや、いいよ。ごゆっくり」
「あら、残念。振られちゃった」
私は頬を赤く染めて断ると、シャールは意地悪そうな笑みを浮かべて一人でシャワーを浴び始める。
(昔と変わってないな……)
お互い前世の事は理解している筈なのに、こんな冗談を言える彼女は昔のままだ。
幼稚園生の頃はお互いの家に遊びに行ったり、公園に出かけて砂遊びをしたりする幼馴染だった。
やがて小学校へ入学すると、お互いに距離を置いて一緒にいる時間は徐々に少なくなっていった。
元々、成績優秀で運動神経も良かった彼女は生徒達から頼れる存在であるのに対して、私は平凡な生徒だった事もあり、中学と高校に通う頃には殆ど会話もしなくなっていった。
そんなある日、帰り道で彼女と偶然鉢合わせる事があった。
別に家が近所で幼馴染なのだから不思議な事ではない。
私は何か喋ろうとかと思ったが、何も言葉が浮かばずに、遠い存在となった彼女を気付かないフリをしてすれ違った。
「ねえ、久々に今晩泊まって行かない?」
背後から彼女の声がする。
通行人は私以外に誰もいない。
何気ない泊まりの誘いに、一瞬私以外に誰かいるのではないかと錯覚してしまった。
私は足を止めると、後ろを振り返る勇気がなかった。
彼女の顔を見るのが怖かったのだ。
せめて、YESかNOの返答ぐらいはしたいと思ったが、逃げるように足早になって自宅の門を潜ってしまった。
優等生の彼女と凡人の私では釣り合わない。
これでいいんだと自身に言い聞かせながら、私は自室に籠ってベッドに飛び込むと、隣のベランダが開いて自室のベランダに誰かが飛び移った気配があった。
自室のベランダの窓が無造作に開けられると、そこには制服姿の彼女が立っていた。
「ふーん、久々に君の部屋に入ったけど、エッチな物とかあったりしないかなぁ」
彼女は私の部屋を見回しながら、主の許可なく物色し始める。
「ちょっと!」
思春期の部屋を勝手に探るなんて、どうかしている。
私は慌てて止めに入るためにベッドから起き上がると、思わず声を上げてしまった。
「ふふっ、やっと喋ってくれたね」
彼女は満足したかのように笑みを浮かべると、昔と変わらないままの彼女がそこにいた。




