第17話 気になる
「それにしても、まさか本当にどうにかしてしまうとは思わなかったよ」
回収された札を一瞥し、信じられない様子で驚いている。
「では家賃の件は約束通りにお願いします」
「ああ、それは勿論だよ。並の祈祷師や坊さんも匙を投げていたのに、ひょっとして、お嬢さんは有名なエクソシストとかなのかい?」
「まあ……そんな感じですよ」
シャールの見た目から、外国人のエクソシストだと勘違いした社長に対してシャールは曖昧な返事を返す。
本当はダークエルフだと正体を明かすと色々と面倒なので、この対応で問題ないだろう。
「へぇ、そりゃ凄いな。それなら今後、事故物件はお嬢さん達に任せて管理してもらおうかな」
社長は冗談めかして言うと、快く部屋の鍵を手渡してくれた。
こうして、住む場所を手に入れた私とシャールは互いに頷いて喜びを分かち合う。
「いやぁ、住む場所が決まって良かったね」
「ありがとうございます。これも京子さんが親身になって付き合ってくれたおかげですよ」
「いやいや、私は大したことはしてないよ」
市川は私とシャールの間に入って軽く肩を叩くと、労いの言葉を贈る。
彼女が社長を紹介してくれなければ、この物件に住むことはできなかっただろうし、市川とシャールがいなければ勝ち取れなかった。
「おっと、そろそろ仕事に行かないと……今度、遊びに行くからね」
市川は腕時計を見ると、颯爽と走り出して私達に手を振りながらその場を後にする。
(賑やかな人だな)
私は頭を下げて見送ると、シャールも黙ったまま見送って市川がいなくなった事を確認すると社長に話しかける。
「京子さんって、普段は何をしている方なのですか?」
「たしか民間の警備会社に勤めているよ。俺が贔屓にしている雀荘によく顔を出している遊び好きの女さ」
「民間の警備会社ですか」
シャールは考え込むようなポーズを取ると、社長はさらに続ける。
「そういえば、ちらっと前職は警察官だって言ってたな。本人は水が合わなくて辞めちまったと笑いながら言ってたがな」
なるほど、先日私が病院で市川に取り押さえられたのもそれで納得ができた。
紛争で兵士として訓練を積んでいた私を警察官だった彼女なら取り押さえる術を持ち合わせていても不思議ではない。
社長も仕事を終えて駐車場の車に乗り込むと、それを見送って私はシャールと共に部屋へ入ってダイニングテーブルに向かい合って座る。
「京子さんの事を聞いていたけど、何か気になる事でもあるの?」
「ええ、少しね。京子さんはファミレスを出る前に私達を恋人同士って事を知っているようだった」
「恋人って、私達は幼馴染で旧友の仲であって、あっ……」
突然の恋人と言う単語に私はドキっとすると、シャールが気にしている事が分かってしまった。
私は思い返してみると、たしかに私とシャールは旧友である事は明言している。
だが、あの場で恋人同士だった愛の巣を探しに行くと市川は私達の背中を押してくれたのは覚えている。
「少なくとも、前世の素性までは明かしていなかった。幼馴染の男子高校生と女子高生だった事は一度も口にしていなかったからね」
「うーん……京子さんの性格からして、場を盛り上げるために言っただけかもしれないよ」
旧友との感動的な再会。
市川はそれを恋人同士のロマンチックなものと受け取ってしまったのかもしれない。
「でも、悪い人ではないよ。気になるようなら、今度訪ねてきた時に聞いてみたらどうかな?」
「そうね……君の言う通りだ。変な事を言ってすまなかったね」
まだ引っ掛かっている部分はあるようだったが、シャールはこの件にそれ以上の事は何も言わなかった。




