第16話 成功
どんよりした空気が部屋全体に広がると、シャールは目を見開いて最後の仕上げに入る。
「穢れた魂よ! 神聖なる魂となって浄化せよ」
どうやら、唱えていたお祓いの呪文も完成したようで、シャールは高らかに叫んで見せる。
すると、先程シャールが撒いた小さな筒が反応し、部屋全体に広がるどんよりした空気を吸い込んでいく。
息苦しかった空気は次第に正常を取り戻しつつ、小さな筒にシャールが蓋をする頃には何事もなかったかのように部屋全体は静まり返っていた。
「ふぅ……無事に終了よ」
後には役目を終えた札が散乱し、線香の香りが微かに残っただけで、シャールはお祓いの儀式が完了した事を告げる。
「シャールちゃん、その……本当に祓えたの?」
「ええ、もう大丈夫ですよ」
市川は怖々と再確認するように訊ねると、シャールは小さな筒を懐に仕舞ってにこやかに答える。
念のため、私と市川は全ての部屋をチェックして回ると、とくに変わったところは見受けられなかった。
一番問題となっていた遺体を隠していた収納スペースも、私と市川は息を呑んで確認すると、あの嫌な空気も消え失せていた。
「本当に綺麗さっぱりしているわね。シャールちゃんのお祓いは効果ありってことが証明されて安心したわ」
「ええ、本当に凄いですよ」
市川はハンカチで額の汗を拭くと、緊張感も拭い去って安堵する。
私は改めてシャールにこのような力が備わっていたことに驚きを隠せず、無事にお祓いできたことに感心していた。
「ほらほら、私は部屋中に貼られていた札を回収するから、ミスティアちゃんはシャールちゃんと一緒に外で待機しているおっさんにお祓いが成功した事を報告して来なさいな」
「わ……分かりました」
市川に半ば強引に背中を押されて、私はシャールと共に部屋の外で待機している社長に事の顛末を報告する。
部屋に一人残った市川は部屋を見渡すと、天井に一枚だけ貼られた札を見つける。
「コレの出番はなかったか。まあ、最悪の場合は私が体を張って処理するつもりだったけどねぇ」
市川は楽しそうに独り言を呟くと、天井に手をかざす。
すると、天井に貼られていた札は彼女に呼応するように剥がれ落ちる。
そして、散乱した札を回収していくと、市川は何事もなかったかのように部屋を出て皆と合流した。




