第13話 部屋探し②
社長の用意した営業用の車に私達は乗り込むと、事故物件があるマンションまで案内された。
最寄りの駅から徒歩五分のマンションで、外装は想像していたのとは違って古惚けたものではなく立派な外観を保っている。
「なかなか良いところですね。本当にここが家賃二万円なんですか?」
「この立地条件なら、普通は二十万円弱からが相場だよ。都市部やその沿線にもなると六十万円ぐらいが相場だ」
それを聞いた私は今から向かう物件が相当危ないものだと再認識する。
シャールは大丈夫だと言っていたが、彼女の指示で途中スーパーに立ち寄って線香を購入してもらった。
「まさか、そんな線香で鎮めるつもりか?」
「ええ、事故物件の源泉をこれで祓うつもりですよ」
「おいおい、冗談はよしてくれ。そいつは無理だ」
社長の問いにシャールは平然と答えるが、予想通りの返答に社長は呆れた表情で否定する。
話によると、この物件は事件後に高名な祈祷師を招いてお祓いを執り行ったらしい。
しかし、生贄で亡くなった信者の家族達の怨念が強過ぎて完全に祓うことはできなかったようで、祈祷師は怨念の力を抑え込むための札を貼って対処したようだ。
以降、しばらくは管理会社が定期的に祈祷師から札を購入して貼り返る作業をしていたが、その管理会社も潰れてしまい、色々なところを巡り回って最終的に今の社長のところに行き着いたそうだ。
そして、事故物件の噂を聞き付けた動画配信者が興味本位でこの物件を借りていた時期があったらしいが、動画生配信の数日後に行方不明。
それどころか、その視聴者も立て続けに行方不明。
「札の交換をしようにも当時の祈祷師とは連絡が取れなくなり、改めて他の祈祷師や坊さんにお祓いを依頼したが、現場に足を踏み入れた時点で青ざめた顔を浮かべて逃げて行った。そいつ等の話によると、今貼られている札の効力はまだあるようだが早急に対処しないとヤバいらしい」
そういう幾つかの要因が重なり、社長はこの物件をお勧めしなかった。
なるほど、線香だけでどうにかしようとするシャールを止めようとする社長の心情も理解できる。
「悪いことは言わない。ここは諦めて他の物件にした方がいい」
「今のお話を聞いている限りだと、放置すればいずれこの周辺は大変な災厄に見舞われるでしょう。そうなる前に、誰かが止めないといけない」
「君にそれができるって言うのか?」
「ええ、もしダメなようでしたら見捨ててもらって構いません。そのかわり、怨念を祓うことに成功したら家賃二万円で住まわしてください」
私達の身を案じて社長は再度引き留めようとするが、シャールは引き下がらない。
身元を証明する物がない私とシャールはこのような特殊な物件を見つけるしかない。
(私も何かできればいいのだが……)
情けない話だが、私は祈祷師のようなお祓いをする能力がない。
一方、ダークエルフは独自に編み出した呪術的な力を行使することができると噂を聞いたことがある。
もしかしたら、シャールなら本当にどうにかできてしまうかもしれない。
「この子達の保護者として私も傍で立ち会うから、危ないと思ったらすぐに避難させるわ」
市川も社長に頭を下げてお願いすると、私もそれに倣って後に続く。
「はぁ……分かったよ。俺としても事故物件をどうにかしてくれるのなら助かるからな」
私達の粘り強さに根負けした社長は溜息を漏らすと、事故物件のある部屋まで案内してくれた。