第11話 本題へ②
「なるほどね。エルフとダークエルフに異世界転生して、再び前世の世界へ舞い戻った。その原因はシャールちゃんが見た白く輝く閃光に身を投げたから。その閃光って、魔法の類とかじゃないかな?」
「私は魔法については疎くて……シャールはどう?」
「正直、閃光の正体については見当もつきません。仮に誰かが発動させた魔法だとしたら、並の魔法使いではないでしょう」
市川の疑問に私は答えを持っておらず、シャールも白く輝く閃光について明確な答えを持ち合わせていなかった。
「うーん、不思議ね。神隠し的なものか、それとも二人の絆が奇跡を起こした結果なのか。ロマンチックな方を選ぶなら、やはり後者だねぇ」
実際、私とシャールは前世からの繋がりがある。
二人の想いが奇跡を呼び起こし、白く輝く閃光が二人を前世の世界へ誘った。
市川としては、夢に溢れたこちらの説を推したいところだが、結局のところ正体は謎のままだ。
もしかしたら、また私達の前に例の白く輝く閃光が現れる可能性もある。
「よし、君達のことについては大体分かったわ。色々と打ち明けてくれてありがとう」
「こちらこそ、こんな突拍子のない話を真面目に聞いてくれるだけでも助かります」
この世界で市川のような自分達がエルフやダークエルフであることや異世界転生したことを信じてくれる人間がいるだけで安心感を覚える。
現状では異世界へ戻る手段がないし、当分はこちらの世界で生活を送るしかない。
「最後に一つだけ確認させてもらってもいいかな? もし、元の異世界へ帰れる手段を確保できたら、君達はそれを利用して帰るつもりかい?」
「それは……」
市川は人差し指を立てて見せると、私は市川の問いに言葉を詰まらせてしまった。
あのエルフとダークエルフの紛争に身を置きたくないが、異世界に残した家族や友人達と会いたい気持ちもある。
それに、異世界へ戻ってしまったら、私とシャールは敵対関係に逆戻りして戦場で殺し合うことになるかもしれない。
「私は彼女と一緒なら、この世界だろうと異世界だろうと関係ありません」
シャールは毅然とした態度で市川の問いに答えると、私と肩を合わせてその親密さをアピールする。
意外な返答に私は驚きを隠せず、どのような反応を示せばいいのか分からないでいる。
「なるほどねぇ……少し意地悪な質問をしてごめんなさい。私もできる限りの協力は惜しまないから何でも言ってね」
市川はテーブルに両肘をつきながら考え込むと、二人の顔を交互に見合わせて謝り、私達に協力を申し入れる。
「ありがとうございます。市川さんの心遣いには感謝します」
「んー、京子でいいよ。市川さんって他人行儀だからね」
シャールは礼を述べると、市川は悪手を交わしながら下の名前で呼ぶことを求める。
「さて、ミスティアちゃんとシャールちゃんの住む場所を探さないとね。前世で恋人同士だった二人の愛の巣を探しに不動産屋へレッツゴーよ」
意気揚々と市川はテーブルから立ち上がると、二人の新たな門出を祝うように背中を押して見せる。
市川が会計を済ませている間、私達は店の外で待つことにする。
「賑やかな人だけど、ここまで私達の面倒を見てくれて有り難いね」
「そうね……」
傷付いた私達を助けてくれて、ここまで親身になってくれる市川には本当に感謝しかない。
それはシャールも同様なのだが、彼女は心の奥底で拭い切れない違和感を覚えていた。