第10話 本題へ
温かい料理に舌鼓を打ちながら、私とシャールはお腹を満たしていく。
エルフに異世界転生してからは森の恵みである木の実や果物を口にするぐらいで、しかもダークエルフと紛争状態だったこともあって、食糧の配給は厳格に規制されていた。
それはダークエルフであるシャールも同様で、二人の盛り付けられていた皿はすぐに空になった。
「良い食べっぷりだねぇ。他にもまだ注文する?」
「もう十分です。ごちそうさまでした」
市川が二人の美味しく食べている姿を感心しながら見ていると、気を利かせて追加注文を取ろうとしてくれたが、さすがに奢ってもらう立場であり、お腹も十分に満たしたので私は彼女の気持ちに感謝を述べた。
こんなに美味しい料理を満足に食べられたのは前世以来だ。
食後のコーヒーが運ばれて来ると、市川は本題に入ろうとしていた。
「率直に聞きたいんだけど、君達がこの世界へやって来た経緯について話してもらえないかな?」
「昨日も話しましたが、私はその辺りの詳しい経緯は気絶していたので分かりません。シャール、その辺りの事情を教えてくれないかな?」
まずはどうやって、あの異世界から前世のこの世界へ戻れたのか。
一番気になっていた疑問を市川は投げかけると、私もこの世界へやって来た経緯を知りたい一心でシャールに眼差しを向ける。
シャールは神妙な顔でコーヒーカップを手に取って口にすると、彼女は言葉を選びながらあの日に起こったことを語り出した。
「あの時、偶然倒れている君を発見して助け起こした。炎に囲まれ、逃げ道はどこにもなかった。旧友と感動的な再会も束の間、絶望的な状況にもうダメかと諦めかけたところに、ぼんやりと白く輝く閃光が目の前に現れたの」
「ちょっと待って」
市川がシャールの言葉を遮ると、彼女は私とシャールを交互に見る。
てっきり、白く輝く閃光について訊ねるのかと思ったが、彼女が疑問に思ったところはそこではなかった。
「ミスティアちゃんから聞いていたけど、君達エルフとダークエルフは紛争状態だった。敵同士の関係だったのは昨日のミスティアちゃんを見たら一目瞭然だったし、旧友と感動的な再会ってどういうことかな?」
私とシャールは旧友どころか敵対的な関係。
それは昨日の私がシャールに向けた殺意で二人の関係が証明されている。
「それは……」
「簡単な話ですよ。私と彼女は前世からの友達だったってことですよ」
シャールとの関係性に改めて問い質されると、私は口をつぐんでしまったが、シャールは包み隠さず事実を口にする。
「前世からの友達って……まさか、君達は元々この世界の住人だった?」
「ええ、その通りです」
新たな真実を知った市川は口を開いたまま、驚きを隠せずにいる。
シャールは淡々とした口調で述べると、再びコーヒーを口にして落ち着いた表情を覗かせる。
「実物のエルフとダークエルフに出会えただけでも凄いことなのに、これは俗に言う異世界転生者ってことだよね?」
「その見解で間違いないと思います」
私は観念して異世界転生者だと認める。
正直、前世との私とシャールの関係は誰にも知られたくはなかった。
前世で交通事故に遭った原因は私にあり、あまり触れられたくはない過去なのだ。
暗い表情で俯いている私に気付いたシャールが助け舟を出して話の続きをする。
「もう逃げ場がないと悟った私は白く輝く閃光に身を投げて、気付いたらあの病院前に辿り着いていました。それ以降のことは市川さんが知っての通りです」
シャールは話を締め括ると、私の頭を優しく撫でてくれた。
それはまるで、君のせいじゃないよと無言で語りかけるような気がしてならなかった。