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第1話 プロローグ

 喉が渇く。

 焼け焦げた臭いが辺り一面に広がり、周りは火の海。

 三百年も続いているエルフとダークエルフの種族間同士の争いに巻き込まれて、遊撃隊の一員として私は戦場へ送られていた。

 私の名前はミスティア・シンガレット。

 不幸にも、前世で男子高校生だった私は友人と下校途中で交通事故に遭ってエルフのミスティア・シンガレットとして、異世界転生してしまった。

 今年で十八歳の誕生日を迎える私だが、追い詰められた私はその命が尽きようとしている。

 前世は交通事故で、転生後は焼死とは運に見放されたのか。

 仲間の遊撃隊であるエルフ達は既に力尽きて、生き残っているのは私だけだ。

 今頃、本隊は敵の主力部隊と苛烈な戦闘を繰り広げているだろうし、遊撃隊に援軍を送れるような戦力は残っていない。


(ここまでか……)


 死を覚悟した私は樹木を背にして、盛大な炎に身を焼かれるのを待つしかなかった。


(あの子はどうしているのかな)


 私は、ふと前世で同級生の彼女だった子のことが頭に浮かんだ。

 前世で私と交通事故に遭い、私は死亡して異世界転生してしまったが、あの子は無事だったのだろうか。

 あの時、私は下校途中で学校に忘れ物をして取りに戻り、彼女を待たせてしまった。

 そのせいで、私と彼女は居眠り運転のトラックに巻き込まれて交通事故に遭ってしまった。

 忘れ物に気付かず、そのまま一緒に下校していたら、お互いに平穏だった筈だ。

 可能ならば、一言でも彼女に謝りたい。

 もしかしたら、この現状は前世の彼女が私を恨んで望んだ結果かもしれない。

 それで許されるのなら、甘んじて死を受け入れるしかない。


「おい、そこにいるのはエルフか?」


 誰かの声がする。

 仲間のエルフ達は全滅し、考えられる最悪のパターンが私の脳裏を(よぎ)った。

 敵対しているダークエルフだ。

 微かな望みで冒険者と願いたいところだが、ここはエルフとダークエルフが争っている紛争地域。

 好き好んで足を踏み入れるところではない。


「やはりエルフか」


 燃えさかる炎のシルエットの中、私に近付く一人の影。

 その正体は褐色肌が特徴的で長髪の銀髪をなびかせているダークエルフだった。

 最早、抵抗する力もない。


(もうダメか……)


 死を悟った私は目を瞑り、最期の時を迎える覚悟をした。

 その時だった。


「しっかりしろ。まだ歩けるか?」


 信じられないことに私に対して、トドメを刺すどころか身を案じてくれたのだ。

 油断させるための罠かと思ったが、こんなボロボロの私に罠を仕掛けたところで、虫の息である私に対して意味はない。

 私は体力が底を突きそうになり何も返答することができず意識が遠退(とおの)く中、首を縦に振るのが精一杯であった。


「君は……なのか!」


 ダークエルフは私に触れると、驚くような声で何かを叫んでいる。

 炎はさらに勢いを増して、いよいよ意識は深い闇へ墜ちていこうとする。


「君を絶対に死なせたりはしないからな!」


 有ろう事か、ダークエルフが私を懸命に両手でお姫様抱っこをする。

 そこで私の意識は完全に失い、焼け焦げる森の中で覚えているのはそこまでだった。

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