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8.驚きと怒りと若干の殺意

 するとしばらくして侍女が一人やってきた。


「お世話をさせて頂きます、クデリと申します」

 入ってきたのは若い侍女で、にこにこと笑顔で自己紹介をしてきた。


 侍女がいるってことは、結構大きな家なのかしら?


 流石のフェリシアも貴族と平民との違いは理解している。外であったレンはそんなかしこまった格好はしていないし、口もどちらかと言うと悪いが、どうやら良いところの家系のようだ。


 まぁ、自由に旅ができるってことはそれなりの身分じゃないと逆に難しいわよね。

 今更そんなことを思う。



 侍女はフェリシアを連れて浴室に行くと、頭の上からつま先までしっかり洗ってくれた。なんだか懐かしい気分になり、あまりに気持ちよくなってフェリシアはうっかり寝そうになり浴槽に沈みかけた。


「ありがとう、クデリ」

「いえ!勿体無いお言葉です!」

 そう言いながらにこにこと微笑むクデリは可愛らしく、フェリシアも釣られて笑った。


 湯浴みを終えると、フェリシアはシンプルな水色のドレスを着せられた。準備が終わったのを見計らってか、レンが現れる。レンが現れると、クデリはさっと表情を引き締めると一礼して部屋を出ていった。



「困ったことなかった?」

「えぇ、大丈夫。ありがとう」

「……もう少し休んででほしいところなんだけど、親父が早く紹介しろってうるさくて」

 気まずげに言うレンにたいして、フェリシアは首を横に振る。むしろ、全く見ず知らずの人が家にいたら、家長としては当然気になるところだろう。挨拶は早くすべきである。

「いいえ。もう大丈夫だから。すぐにご挨拶に伺いたいわ」

「でも」

「大丈夫よ」

「フェリシアの大丈夫はいまいち信用に欠けるんだけど」

「失礼ね!」



 二人は部屋を出て廊下を歩き始めて、フェリシアは気がついた。一つの部屋の中にいたときは気づかなかった。


 ここ、……大きいわ。って言うか、窓の外に尖塔とか見えるけど、……ここ、お城じゃない?

 

 何も言ってこないレンに、フェリシアの勝手な想像だけが膨らむ。


 まぁ、貴族の中でも城持ちがいないわけじゃないからおかしくはないか。帝国は領土も広いし。だとしてもうちのお城より大きい……。

 でもレンは「うち」っていってたわよね。


 フェリシアは歩きながらその城の様子をなるべくキョロキョロしないように気をつけてながら観察した。しかし、途中で耐えきれなくなって前を歩くレンに声をかけた。


「ねぇ、レン。ここって……」

 フェリシアの声にレンはすぐに振り返る。すると、「あ」と気がついたように声を上げる。

「ごめん、言い忘れた。ここは、タラス帝国皇城で、今向かってるのは親父のいる、謁見の間」

 あまりにもあっさりとしたいつも通りの口調でフェリシアは自分の理解があっているのか疑問になる。


「もしかしなくても、レンのお父様って」

「現皇帝」

 あっさり答えたレンにさすがのフェリシアも驚きと怒りが湧いてくる。ついでにちょっと殺意も湧いた。

「何でもっと早く言ってくれないのよ!」

「いや、オレだってフェリシアが倒れたことでいっぱいいっぱいで、色んなこと頭から吹っ飛んでたの!」

「それについてはごめんなさい」

 返す言葉もなくなる。


「え、でも、じゃあレンは、皇子様ってこと?」

「柄にもないけどね」

 フェリシアの質問にあっさり答えたレンは、フェリシアが今まで見たことのないタイプの王子だった。


「皇子なのに旅をしてたの?」

「一応ちゃんと許可もらって旅してたの。20歳になったら落ち着く約束しててさ」

「なるほどね」


 驚きの答えではあったものの、フェリシア自身が王族であるため、逆に親しみは沸く。きっとレンも似たような苦労をしてきたかもしれないなどと勝手に想像する。 


「もしかして、レンは愛称?」

 フェリシアの疑問にレンは頷く。おそらく王族や皇族で名前が二文字と短いなどと言うことはない。

「うん。レンダリオ=リア=タラスが正式な名前」

「レンダリオ、ね。覚えておくわ」


 何故レンがフェリシアに対して物怖じしないのか疑問だったのだが、それについてはこの件ですっきりした。元々王族にひれ伏すような立場にいないのだ。


 そして気がつけば謁見の間の扉の前についた。

 フェリシアは久しぶりに感じる緊張に表情が固くなっていた。帝国の皇帝といえば、フェリシアから見ても気を引き締めなければならない相手だ。同じように国を治める主人とはいえ、規模が違いすぎる。


 大きく深呼吸をしていると、隣に立ったレンが笑った。

「フェリシアでも緊張するの?」

「当たり前でしょ。私の時代のタラス帝国の皇帝なんて言ったら特に恐ろしいと言われてたし」

「あー、その時代と比べると全然生ぬるいと思う」

「そうなの?」

「うん。ただの挨拶だし、大丈夫だよ」

 そう言ったレンの言葉を信じてフェリシアは謁見の間に足を踏み入れた。



 のだが、冒頭の通り、レンの適当すぎる発言で、フェリシアはレンの婚約者と言う立場になってしまったのだった。



「色々とひどくない?」

 謁見の間を出たフェリシアは、一緒に出てきたレンに向かってそう言ったが、レンは「そう?怖くなかったでしょ?」と首を傾げた。


「そこじゃないわよ」

 大きなため息をつきながらフェリシアは、レンの婚約者になった自分の立ち位置について考え始めた。

ようやく1.につながりました。

長かった…すみません

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