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幕間:倒れたフェリシアと滝の主人

 これは、精霊の生まれる滝と呼ばれる場所で、フェリシアが痛みを感じて意識を失った後のレンの記憶。



「フェリシア‼︎」

 痛みを訴えそのまま動けなくなったフェリシアは、レンの呼びかけにもまともに答えることができない。目の焦点が合わなくなりレンは危機感を覚えた。

 

「ウィード‼︎どうにかできないのか⁉︎」


 頭上で飛ぶ、唯一目に映る精霊に向かってレンは声を荒げた。普段なら絶対にしない声のあげ方に、精霊もびくりと肩を揺らしたが、首を横に振る。ウィードも上空から降りてきてフェリシアの周りを飛ぶが何もできずに羽を振るわせるだけだった。

 どんどんとフェリシアの顔が青ざめていき、胸を押さえていた手の力すら抜けていく。


「フェリシア‼︎」

 何もできない自分にレンが奥歯を噛み締め苦痛の表情をする。


 苦しいのはフェリシアだ!何でオレは何にもできないんだ⁉︎なんのためにフェリシアを目覚めさせたんだ!苦しませたいわけじゃない‼︎



 レンの怒りと悲しみを写すかのように、次第に空が暗い雲に覆われ、先ほどまでの青空を隠す。

 ぽつりぽつりと雨粒が落ち始め、やがて雨は強い音を立てて降り出した。

 

 ザアザアと地面を打ち付ける雨音さえ、レンの耳には届かない。

 レンはフェリシアを抱きしめることしかできず、ぎゅっと彼女の体を抱きしめる。先ほどまで温かかったはずの体が、なぜか温度を失っていく。恐ろしい事態を想像し、レンの手が震える。


 すると、レンの目に再び見えなかったものが見え始める。

 フェリシアの周りに大勢の精霊が集まり、光の波ができている。さらに眩しい光を感じて上を見上げると、そこにはフェリシアによく似た色彩を持つ、精霊よりも人間に近い大きさの女性の姿があった。ただ、フェリシアと比べると中性的な雰囲気がある。


「痛みについては和らげてやろう」


 光を持つ手がフェリシアの胸の辺りに触れると、スッと表情が和らぐ。

 現れた光の女性は、フェリシアに近づき彼女を繁々といろんな角度から眺めて何かを観察しているようだった。


「この子は、氷にでも閉じ込められていたのか?」

 突然話しかけられて、レンは驚きに目を見開きつつも頷いた。

「随分長い間氷の中にいたのだろう。大部分の氷は溶けたようだが、心臓近くの深くに小さな氷が残っている。それが、彼女の中にある本来の力を堰き止めているせいで、体が痛みを感じているのだろう」

 そう言った光の女性は、繁々とフェリシアを見ると、なぜか懐かしそうな優しい表情をする。


「ただ、私の力ではこの体の奥の氷までは溶かすことができない。もっと私よりずっと力のあるものの協力が必要だろう」

「そんな……」


 すると突然レンの頭上に何かが落ちてきた。慌ててそれを受け止めるが、それは透明なガラス瓶に詰められた水色の液体だった。キラキラと虹色に反射する変わった液体に見えた。

「これは……」

「痛みと力を多少放出できる。先ほど私がやったことを薬にした。痛みが現れた時に少量飲ませるんだ。私が助けられればよかったんだが、すまないね」

「いえ、ありがとうございます……」

「痛みが出た始めたらできるだけ早く飲ませるんだ」

「飲ませられなかったら?」

「命に関わるだろう」

 あっさりとした答えにレンは手にした瓶を握りしめた。

 

「それからこの薬には定期的に精霊の力を込めてやらないと効力が消えてしまう。傍にいる精霊の力を借りるんだ」

 虹色に輝く液体はそのままでは輝きを失ってしまうと言うことだろう。レンがウィードを見上げると、ウィードは小さく頷いてくれた。


 何もできないよりよっぽどいい。レンはぎゅっとまだ目覚めないフェリシアを抱きしめた。

「しばらく目を覚さないかもしれないが、体を守るための防衛だと思えばいい。ゆっくり体を休ませてやりなさい」

「わかりました。……、あなたは一体……」

 レンの問いかけに、女性はニッと笑う。


「私は、……そうだな、滝の主人(あるじ)とでも呼んでもらおうか。望むところまで送り届けよう」

 そう言って、大きな光は一瞬で霧散し、レンとフェリシアもまた、一瞬でその場から姿を消した。


 そして、レンはフェリシアをゆっくりと休ませることができる場所として、自分がある程度自由に利用することのできる自らの家と呼ぶべき場所を選ぶこととなった。

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