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7.見知らぬ部屋

短いです

 フェリシアが次に気がついた時には、見知らぬベッドの上にいた。燕脂色の天井が見えて、フェリシアは瞬きを繰り返し、手触りのよい上掛けに首を傾げた。


「記憶では、滝の前だったんだけど、……私、また何かあった?」


 氷の中で百年眠っていたように、また何か起きたのかと思い、フェリシアは慌てて身を起こした。腕や足を見てみたりするが変わった様子はない。しかし、部屋を見まわしてもみたことのない場所で、頭の中が混乱する。しかも部屋の装飾品などはとても立派で、ベッドや上掛けなども明らかに上質なものである。そして着ているものも、滑らかな絹の夜着でいつのまにか着替えている。


 どういうこと?


 しかし、その時ふいに部屋の扉が開いた。

 そこから現れたのは見知ったレンの姿でフェリシアは思わずホッとして息を吐いた。

 レンの方もフェリシアが起きていることに気づき扉から駆け寄ってくる。


「フェリシア!」

 目の前に現れたレンは泣きそうな顔をしながら、両手を広げ、ベッドにいたフェリシアを抱きしめた。

「良かった気がついて!」


 抱きついてきたレンの体はフェリシアが想像していたよりずっと男らしかった。一度宿で見た時にも確かに鍛えているなとは思ったが、いつも少年のように話し、笑うため、年齢より幼く見えていたのだ。今からながらレンは十分に男だと言うことを意識する。

 一度意識してしまうと、それは止まらない。


 フェリシアは抱きしめられている今の状態にドキドキしてしまい、体が火照るのを感じた。しかも今のフェリシアは薄い夜着を着ているだけなので、余計にレンの体つきを感じてしまう。


 変に意識してどうするのよ!


「だ、大丈夫よ」

 安心させようと目の前にいるレンの体をぽんぽんと優しく叩く。

「ほんと?なんか顔赤いけどまだやっぱり万全じゃない?医者呼んでくるよ」

「それはいいから!大丈夫だから!」


 実際にフェリシアの体から痛みはなくなっていた。あの時の心臓の痛みは今は全くなく、何だったのだろうと言う気になる。


 フェリシアはまだ抱きしめてくるままのレンの体を押し返して、なんとか距離を取る。


「……また起きなくなるのかと思った」


 少し距離を取ったレンはそれでも離れ難いのか、フェリシアの側から離れない。いまだに不安げな表情を隠さないレンに、フェリシアが首を傾げる。


「少し倒れたぐらいでしょ?」


 そのフェリシアの言葉に、レンが冷たい表情を見せてくる。


「5日間」

「え?」

「5日間だよ。目を覚まさなかったの。……オレやらかしたのかと思ってホント、どうしようかと……」


 はぁと大きなため息をついて、その場でしゃがみこんだレンに、フェリシアは流石に申し訳なくなった。


「ご、ごめんなさい、まさかそんなに寝ていたとは」

「オレの心臓が止まるかと思ったよ。ホント。でも、今のフェリシアはまたこう言うことが起きるかもしれないって言ってた」

「え?誰が?」

「滝の主人(あるじ)

「滝の、……主人?」


 耳慣れぬ言葉にフェリシアは眉を寄せた。

「あの滝は精霊を生み出す場所だって言ってただろう?あの滝で精霊を生み出す存在が滝の主人らしい」

「そう、なんだ?」

 フェリシアも知らない事実に頷くほかない。


 フェリシアは精霊を見ることかできたが、歴代の力がある人達には遠く及ばないことを自覚していた。フェリシアが知らない事実はまだまだ多い。


「体の中で、フェリシアを守っていた氷が一部残っていて、それがフェリシアの本来の力を堰き止めてるらしい。だからその氷を溶かせば、力は戻るって」

「そうなの?」

 フェリシアにとっての唯一の自慢は、精霊の見える力だった。たとえ歴代の人たちに及ばずとも、精霊が多くいる国の女王として、それが誇りでもあった。


 取り戻せるならば、取り戻したい。そしたら、フェリシアを助けてくれたであろう友人を探すこともできるかもしれない。

 そんな思いが出てくる。


「でもその氷の溶かし方は、滝の主人もわからないって。滝の主人は、まだ主人になって日が浅くて知識が足りないらしい」

「主人って、そんなふうに突然なるものなの?」

「いや、流石にオレもよくわかんないけど。そうやっていってた」

「そっか……」


 ただ、今は取り戻す方法があるかも知らないことがわかっただけでも良しとしよう。それより……。


「ごめんね、早速迷惑をかけて」

「いい。無事ならそれで」

 前に下りてきた藍色の髪の前髪をかきあげながら、しゃがんだままフェリシアを見上げる。

 またしてもどきりとしてしまい、フェリシアは話を変えることを選んだ。


「ねぇ、ここってどこなの?」

「ここは、オレの家。いつ目覚めるかもわからなかったから、長くいられる場所がいいと思って」

「そうなんだ。じゃあ、レンのおうちの人にも迷惑をかけたのね」

「そんなことは気にしなくていい」

「でもご挨拶とかしないと」

「もう少し落ち着いてからでいいよ。侍女を呼んでくるから待ってて」

 レンはそう言うとフェリシアにここにいるように何度も注意してから、部屋を出ていった。

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