41.最初の朝のそれぞれの思い
フェリシアの寝顔を隣で見るのは、幸せな気分にもなるし、不安にも駆られる。
初めて一緒のベッドで眠った日、朝起きたら隣にフェリシアがいてとても満たされた気分になった。一緒にいられることをとても幸運だと思った。
それと同時に目を閉じたままのフェリシアは、氷の中にいた時のことを連想してしまい不安に駆られる。
このままずっと目を覚まさなかったらどうしよう。
そんな思いになり胸が苦しくなる。もうフェリシアの中にあった氷はないのだから目を覚まさないなんてことはない。ないはずなのに、それでもやはり不安に思う。
隣で静かに眠るフェリシアをじっと見つめながら、早く起きないかななどと考えてしまう。
いや、でも、絶対疲れてるし……。
それについては大いに反省すべき点があることは重々承知している。フェリシアを自分のものにできるという喜びで若干、いや、かなり無理をさせてしまった気がする。フェリシアは、意外と押しに弱い。レンが強く望めばそれを受け入れてくれる。
だからこんな状態なんだけど。
窓の外はもう明るい。日は上り朝早く動く者たちは仕事を初めている頃だ。クデリによるとフェリシアの朝は早い。もう習慣なのか朝早く目覚めてしまうらしい。おそらくいつもならとっくに起きている時間なのだろが、フェリシアが目を覚ます様子はない。
今日はレンが昨日の時点で侍女たちには呼ぶまで来ないように伝えているため、今朝は誰も来ていない。レンも今日に限っては仕事をしようという気にはなれず、目が覚めてからもベッドの上でただフェリシアを眺めている。
「……、可愛い」
思わず呟くと「うへー」と声が聞こえて少し視線を上げる。侍女たちの人払いはできても、精霊払いはできないらしい。
「ホントそう言うとこは王様そっくり」
「うるさいな。王様にはこういうタイミングで現れたらダメだって言われなかったのか」
「王様は基本僕のこと見えないからね」
「……、は?」
初めて聞いた事実に、レンは驚いて身を起こす。驚きすぎて上掛けがずれてフェリシアの素肌が見えて慌ててかけ直す。
「王様はウィードのこと見えなかったのか?」
「見えないよ」
「見えないのに、そんなに慕ってるのか?」
「たまたま見えるときがあって話す機会があったの。あの人勘も鋭くてさ」
得意気に話すウィードはひらひらとレンの頭上を飛ぶ。
「……、ウィードはなんでオレがウィードのこと見えるんだと思う?」
一番最初にお互いがもった疑問について、もう一度尋ねてみる。パタパタと羽を動かしながらウィードはレンに視線を向けて少しだけ俯いた。
「いつまでも部屋から動かない僕を心配したんだと思う。……あと、お前が二人に似てるから」
そういうとウィードは顔をあげた。あれだけ似てない似ていないと言われたのに意外な言葉に面食らう。
「いつも似てないって言うのにどうした」
「うるさい!」
そう叫ぶとウィードはくるんと回転して姿を消した。
「……、ちょっとは仲良くなれたってことか?」
まだ名前は教えてもらえそうにないが、少しだけウィードとの距離が近づいた気がしてレンは笑った。
***
体の上に重量を感じてフェリシアはゆっくりと瞼を開いた。しかし、視界はあまり良好にはならず、何故か陰った視界に疑問を抱きながら身を起こそうとする。が、先ほど感じた重みが消えないままで動けず、フェリシアは顔だけ上げてみた。
すると間近にレンの寝顔があることに気づき、内心ひどく驚く。しかもレンの肌色の面積が多すぎること、同時に自分も同じであることに気づき、昨日の夜のことを思い出し悶絶する。恥ずかしすぎるあれこれを思い出して、どこかに隠れたくなるが、フェリシアが重いと感じていたものが、レンの腕であることにようやく気がついた。
フェリシアはその状況に耐えきれず、レンの腕を無理やりどかそうとするが逆にさらに強く引き寄せられてしまう。もしかしてと思い、レンの顔を覗き込む。
「起きてるのね?」
「バレた?」
片目を開いたレンが笑う。
「離して」
「やだ」
「やだじゃないわよ。私はもう起きるの。レンは寝ててもいいから」
「フェリシア、冷たい」
「冷たくないわよ」
「今日は何もしなくていいんだよ?もうちょっとイチャイチャしてようよ」
恥ずかしげもなくそんなことを言いながら擦り寄ってくるレンにフェリシアは顔が赤くなる。昨日のことを思い出すとどうしようもなくなってしまう。
「無理……!」
両手で顔を覆ってそういったフェリシアにレンが幸せそうに笑う。
「何を思い出したの?」
「何もかも」
「なんでそんな死にそうな声出すの」
「レンの顔見たくない」
「ちょっ!いくらなんでもそれ酷くない⁉︎」
「何回もダメって言ったのに」
「えぇえ、いや、だってほら、そのさ、ね?そんな風に言ったて、でもオレもとても我慢できる状態じゃなくて……」
頑張ってしどろもどろに言い訳を言おうとするレンに、フェリシアはだんだん面白くなってきて思わず吹き出した。
「フェリシア……」
しょぼくれた顔のレンがフェリシアを見つめる。
「そんな顔しないで」
「オレ、フェリシアに拒否されたら生きていけないよ」
「拒否はしてないけど……」
「じゃあいいじゃん、今日はまだここにいようよ。誰も新婚の夫婦を起こそうなんて野暮なことしないよ」
抱きつくレンが甘えた声でそう言うと、フェリシアが擦り寄ってくるレンの濃い藍色の髪を撫でる。
「……少しだけだからね」
「もちろん!」
レンのお願いに弱い自分を自覚しつつ、フェリシアはため息をつきながらもレンの言葉を受け入れる。そんな言葉に少年のように嬉しそうに笑ったレンが、直ぐに男の顔に変わったことに、恥ずかしさから視線を外してしまったフェリシアは気づかない。
次が最終話です。




