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40.結婚式とその夜

 そして、半年の婚約期間を終えるとタラス帝国内の大聖堂で、皇太子の盛大な結婚式が執り行われた。


 新婦であるフェリシアは、真っ白な裾の長いドレスに身を包み、淡い金色の髪を結いあげ、白いベールを頭から被っている。

 先ほどクデリから渡された白い花を集められたブーケを手にすると、急に現実味が出て来て緊張し始める。



 婚約期間が終わったら結婚って、ホントに期間終了の次の日にすることないでしょ!



 心の中でそんな文句をいいながら、フェリシアは何度も深呼吸を繰り返す。深く息を吸っても酸素が少ない気がして焦る。


 頭上で声が聞こえた気がして上に視線を送ると、赤紫の光が飛んでいるのが見えた。

「フォルテ、来てくれたのね」

 闇の精霊である彼女はひらひらとフェリシアの頭上でくるくると飛んで見せた。キラキラと光る赤紫の粒子がフェリシアに降りかかる。控えめに微笑むとそのままどこかへ消えてしまった。



「フェリシア様、お時間です」

 そう声をかけられて、手伝ってもらいながら控室を出る。出た先には同じように白い正装で立つレンの姿があった。彼の濃い藍色の髪がよく映えてとても似合っている。

 背筋をピンとして立つレンは、フェリシアを見ると嬉しそうに微笑みかける。



「フェリシア、すごく綺麗だ」


 そうはっきり言ったレンの満足げな笑みに、フェリシアは赤くなる。

「……レンも、かっこいいわよ」

 少し照れながらもそう返すとレンは驚きの表情でフェリシアを見た。


「フェリシアに格好いいって言われたの初めてな気がする……」

「え?そう?」

 そんな返しが来るとは思わずフェリシアは首を傾げる。

「そうだよ。いつもいつも弟みたいって」

「もしかして結構根に持ってるの?」

「そりゃ好きな人に男としてみられてないなんて悲しすぎるだろ」

 恨み言を言われて焦るフェリシアだが、レンは直ぐに笑顔になる。

 

「でも、いいんだ。ちゃんとフェリシアと結婚できるんだから」

 本当に幸せそうに笑ってくれるレンに、フェリシアもつられて笑う。こんなに喜んでくれるなら、この選択もよかったのかもしれないと思う。そして自分の心の中も幸せな気持ちで溢れていることを改めて気付かされる。


「……レン、ありがとう」

「ん?」

「目覚めさせに来てくれて」


 タラス帝国からフェリシアの祖国は決して近いとは言い難い。精霊の助言があったとは言え、普通ならそんなお伽話のようなことを信じて行こうとは思わないだろう。もしかしたら永遠に眠っていた可能性だってゼロではない。

 いつかは目覚めた可能性もあるが、それがどんな時代でどんな人によるものかはわからない。やはりレンが目を覚まさせてくれたのはとても幸運なことだったと思う。

 

 レンがウィードを見れなければ精霊に興味を持つこともなく、フェリシアに興味を持つこともなかっただろう。そう考えるとレンがウィードを見れるようになったのはやはり何か意味があるのかと思ってしまう。


 レンはフェリシアの言葉を聞くと嬉しそうに微笑む。

「オレ、フェリシアとの縁はあの人たちが繋げてくれたと思ってるよ」

 まるでフェリシアの考えを読んだように言うレンに驚く。

「あの人たちって……」

「ウィードの好きな人たち」


 フェリシアは連れて行ってもらった旧帝国時代の城を思い出す。その最奥の部屋に飾られた肖像画。フェリシアとよく似た色彩を持つ、同じ祖国の皇后と、レンとよく似た姿の皇帝。

 ウィードが守るその部屋は、彼らの優しさや温かさが詰まったような部屋だった。


「オレがウィードを見れるのもその人たちの意思なんじゃないかなと思う」

「……、そうかも」


 そもそも特定の精霊しか見えないという現象はフェリシアも聞いたことがない。大体は見えるか見えないかで、見えてもぼんやりとした光を感じるぐらいな場合があるかどうかぐらいだ。


「でも、この気持ちはちゃんとオレの意思だよ」

 そう言ってレンはフェリシアの右手を取り、指先に口付ける。指先が熱くなる気がして、フェリシアは手を離したかったがレンにそのまま手を握られる。


「行こう」

 レンは掴んだフェリシアの手を自分の腕に絡ませると、大きな両開きの扉の方を向く。すると、控えていた者たちがその扉を開き、二人が中へ入ることを促した。



 聖堂の天井は高く、奥には大きなステンドグラスが見える。花をモチーフにしたようなステンドグラスは様々な色のガラスが嵌め込まれており、外の光で取り込み室内を色とりどりの光で満たす。精霊の光とは違うはずなのに、まるでさまざまな精霊たちが祝福してくれているかのように見えた。


 真っ赤な絨毯の上をゆっくりと歩く二人を多くの貴族たちがじっと見つめていたが、その視線も気にならないほど美しい光景にフェリシアは自然と微笑んだ。



 祭壇の前にたった二人は、夫婦の誓いを結んだ。



***



「ま、待って、レン……」

「ん?」

「本当に、するの……?」


 フェリシアはベッドの上でレンと向かい合っている。フェリシアはベッドの真ん中で座り、レンはベッドに腰掛けている状態だ。


「……、フェリシア、もしかして初夜を知らない?フェリシアの時代ってまさかそう言う文化が……」

「あるわよ!あるけど……!」

「女王陛下なら即位前に、閨の……」

「もうそれ以上言わないで‼︎」


 真っ赤になって耳を塞ぐフェリシアが可愛くて仕方ない。婚約者とは何もなかったと聞いているし、この反応だとフェリシアも初めてだなと確信する。初めてだろうがそうでなかろうが別に構わないのだが、自分が初めてなのでホッとする。


 レンとて流石に寝室に来るまではものすごく緊張していた。マラディアに「なんかアドバイス!」と泣きついたのはフェリシアには内緒だ。全く意味をなさなかったけど。

 ちなみにこの寝室は二人の部屋の間にある部屋で、今まで閉ざされていたが、結婚式を終えたことで使用できるようになった。


 結婚式が終われば当然新しい夫婦は初夜を迎える。

 目の前のフェリシアは白い滑らかな絹の夜着を着ており、露出が多いような夜着ではないがいつものドレスとは違う魅力があり、レンとしてはもうこれ以上待てない状況だ。


 それでなくてもフェリシアと気持ちが通じ合った後も、結婚前に手を出すなど言語道断と宰相が目を光らせており、碌に触れることすら叶わなかった。


 そんな我慢し続けてようやく今日を迎えたと言うのに、まだフェリシアは何かにつけてレンの動きをとめようとしてくる。


「だって、相手がレンなんて……」

「さっき夫婦の誓いしたとこなのにそれはひどくない?」

「そうだけど……」

「オレは最初からフェリシアしか見えてないから、ようやくここまできた自分を盛大に褒め称えたい」

「何言ってるの」


 呆れた言葉が帰って来たが、レンはそんな言葉を気にする様子もなくフェリシアとの距離を縮める。

 この部屋に来るまでにあった緊張も、フェリシアの様子をみたらどこかに飛んでいってしまった。


 フェリシアの白い肌がいつもに増して際立って見え、さらさらと流れる長い金色の髪が胸元を隠しているのが残念に思える。


 ずっともっと見たい、触れたいと思っていたフェリシアがこんな目の前にいて、ちゃんと結婚もしたのにお預けを食らうなどたまったものではない。


「キスしていい?」

 これまで薬を口移しで行うために唇を重ねたことは何度かあったが、純粋な口付けは結婚式のみだ。

「え……」

「えって何」


 フェリシアが固まってしまったため、レンは彼女の返事は諦めたとばかりに、手を伸ばす。フェリシアの白い頬を撫でるように触れると、ふるりと体を震わせる。そのまま奥の耳を撫でると、こそばゆそうに身じろぎする。


「……、なんでレンはそんな慣れてる感じなの?」

 むっとしたようなフェリシアの言葉にレンは笑う。

「触りたいところを触ってるだけだよ。触れたいところあり過ぎて困る」


 そう言ってレンはさらに距離を詰めると、フェリシアに口付けした。

 啄むような触れるだけのキスを何度か繰り返す。それだけじゃ足りなくて、角度を変えてフェリシアの唇を求める。彼女が息を吸うために口を開いたところを狙って、さらに自分の唇を重ねる。少し深追いしたら、びくりとフェリシアが体を震わせたのがわかったが、やめられそうにない。

 フェリシアの唇を味わいながらもゆっくりと離す。


 キスだけで息の上がったフェリシアは、レンを恨めしそうに見るが、レンは笑う。

「そんな顔しても可愛いだけだって」

 そう言ってレンは再び唇を重ねるとそのまま、レンがトンっとフェリシアを軽く押すと、フェリシアはベッドに押し倒された形になった。

 レンに見下ろされ、フェリシアは恥ずかしさに手で顔を隠す。


「もっと他に隠さなくていい?」

 そんな風に言ったレンは、フェリシアの着ている夜着の細い紐をあっという間に引っ張ってしまう。フェリシアがハッとしたがもう遅い。


「フェリシア、夜は長いよ」


 そう言って楽しそうに笑ったレンに、フェリシアはなす術なく全てを受け入れる他なかった。

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