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幕間:レンの記憶-惹かれるもの-

「……、綺麗な人」


 精霊について知りたくて、古の力を抱く国に関する本を見つけて読んでいた。いくつか挿絵があり、そのうちの一つが、最初で最後の女王と呼ばれる女性の戴冠式の絵だった。

 王冠を頭に乗せ、王笏を手にしたその姿はとても美しかった。白黒の絵だったがまるで輝いているようにレンには見えた。


 そのページから目を離すことができず、レンは長い間ぼんやりとそのページを眺めていた。


 気がつくと30分は経過していたことに驚き、慌ててページを捲る。次のページには彼女がどのように生きたのか、どのような最後だったのかが書かれていたのだが、非常に不思議な記述だった。


「城の中で眠る?……一体どういうこと?」

「寝てるんだよ。氷の中で」

 上から声が降って来てレンは頭上を見上げた。

 

「なんか知ってるのか?」

「僕も直接見たわけじゃなくて、他の精霊たちからずっと昔に伝え聞いただけだけど」

「氷の中ってどういうこと?別にあの地域はそんな寒くないだろ」

「人間の言うような所謂氷じゃない。本当はどちらかと言うと石って感じなんだけど、見た目は氷に似てるから氷って読んでる。精霊同士の力がぶつかって、片方は人間を守ることを選んだんだ。たぶんね」

「ぜんぜん意味がわからない」

「つーまーりー、その子は精霊の作った氷に守られたまま長い眠りについてるってこと」


 ウィードの言うことを理解するのに数分かかった。


「……これ、百年ぐらい前のことだけど」

 この本に書かれた女性の戴冠式の日付は約百年前の出来事として書かれており、彼女の生涯は短いものだったと記載がある。

「誰も起こしてなきゃ、ずっと眠ってるんじゃない?」

「……死んでるってこと?」

「頭悪いな〜。寝てるって言ってるだろー」

「……生きてるの?」

「時間が止まってるのと一緒だからね」

 さも当たり前かのように言ってくるが、レンには理解できない。

 一度めくったページをレンは戻して、挿絵を見る。何度見てもそのページは、光り輝いているように見え、レンはまた意識をそこに引き込まれる。


「その子にくっついてたの、力強い精霊だから並みの精霊じゃその氷を溶かせない。だからたぶんずっとそのまま」

 ウィードは寝そべったような姿勢で空中をふわふわと漂う。

「……ウィードは、溶かせるの?」

「まぁ、僕なら余裕だねー」


 それからレンはその最初で最後の女王と言われる女性に関して記載された本を読み漁った。少しでも情報が欲しくて、同じ内容そうな本でも構わず読んだ。



 それからレンは自室に篭り、部屋から出ない日が続いた。挿絵の彼女を何度も眺めては、彼女の絵を描くようになった。落書きのような描き方では満足できない気がして、大きなキャンバスに彼女の絵を描いてみた。

 それを完成させてもレンの中で何も満たされない、何かが足りない、これじゃないんだと言う気がして、レンは筆を置いた。



「ウィード、オレちょっと出かけてくる。しばらくいないから」

「ふーん。どこ行くの?」

 レンはよく読んでいた本の一冊を示す。それは「古き力を抱く国」と題された本だ。

 

「え、なんで」

「実際に見たくなったんだ」

「……、もしかしてあの子を起こしたいの?」

「え、いや別にそう言うわけじゃ」

 目線を逸らしたレンにウィードが訝しむ。

「……、僕いないとどうにもならないよ」

「別にどうにかしたいわけじゃない。ただ、……本当に眠っているなら、会ってみたい」


 レンの言葉にウィードが呆れる。

「絵に惚れたの?」

「……うるさい」

「絵と本物は違うかもよ?」

「別にいい。オレが会いたいだけだから」


 レンはウィードの言葉を無視して背をむけようとしたが、そんなレンの周りをウィードがくるりと大きく回転して飛んだ。


「……行くんなら相当の覚悟を持って行けよ。会いたいだけ、見たいだけなんてぬるすぎる」

 ウィードの表情は初めて見る怒りの表情で、レンはその顔に一瞬怯んだ。

「相手は百年眠ってるんだ。目覚めた時には自分以外何も残ってない。その状態が、お前に想像できるのか?」


 精霊は人間と比較すると生きる時間は長い。人間と共に生活すればするほど、自分だけが取り残されたような気になる。相手は老いて死に行くのに、自分はなんの変化もなく、周りがいなくなっていく。

 皇帝夫妻を気に入っていたウィードは、あの部屋の中で何を思ったのだろうか。


「一生面倒見るつもりじゃないならやめなよ。関わるな。……可哀想だ」

 ウィードの言っていることは尤もだと思った。百年の眠りについているのなら、周りが全て変わってしまっている。生半可な気持ちで近づいていいわけがない。


 しかし、それを聞いてもレンの中の彼女に会いたい気持ちが治らない。

「オレ、どうしても行きたいんだ。……彼女が目を覚ましたら、オレは彼女の望みを叶えるよ。どんなことでも」


 怒りの表情を崩さないウィードを見据えて言った。その言葉を聞いたウィードは、さっと一回りするとレンの頭の上に座った。


「じゃあ僕も行く」

「は?なんで?」

「言ったでしょ。行くなら目覚めさせる気で行けって。言っとくけど彼女は僕が氷を溶かしただけじゃ、目覚めない。強力な気付け薬が必要だから、山の向こうの南の方の土地に寄って」

「山脈の向こうの南?リフェールかリクイース辺りか?なんで?」


 リフェールもリクイース両国とも、タラス帝国の西側、山脈の向こうに存在する国で、行くなら一度海に出て船を乗り西へ向かった方がいいような場所にある国だ。

「あそこでは昔やっぱり王様が精霊の氷で眠ったんだ。そのとき確か使った薬は、その辺りでしか咲かない花で作られたものだ。今はもう量産されてるんじゃない?」

「その王様も百年眠ってたの?」

「ううん。四年だよ。たった四年だって、薬がないと目覚めなかったんだ。百年なら当然必要だろ」

「その薬でも目覚めなかったら……?」

「目覚めるまで手を尽くすんでしょ?」

「……、それもそうか」

「やるなら全力で、目的を達成してこそでしょ⁉︎」

「……精霊って、みんなそんな熱い感じなの?」

「違うよ、お前が中途半端なこと言うからイライラしてるの!」

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