37.展開がわかりません
そして、二人はまた帝国の皇城へと戻ってきた。
「良かった、無事に帰って来れて」
「えぇ、本当に。ありがとう、レン」
穏やかな笑顔でそう言ったフェリシアに、レンは微笑み返す。
「じゃあフェリシア、これからは結婚式の準備ね」
満面の笑みでそう言ったレンに、フェリシアは理解できずに目が点になる。
「……結婚、式?もしかして、新しい婚約者が決まったの?」
いつの間にか正式な婚約者が決まっていたのだろうか。レンの隣に並ぶのは誰なのか、フェリシアは不安にかられる。しかし、レンは将来皇帝になる立場なのだから、きちんとした相手であるべきだとも思う。
しかし、そんなフェリシアの考えにレンの方が驚いて目を見開いた。
「は⁉︎何言ってるの⁉︎オレちゃんと自分の気持ち言ったよね。フェリシアも言ってくれたよね⁉︎」
「そうだけど、でも、結婚は別かなって……」
「なんでそうなるの!オレはフェリシア以外と結婚する気ないから!」
「でもほら、将来皇帝になるなら有力な後ろ盾とか必要でしょ?」
「大丈夫、そこらへんもちゃんと考えてあるから」
「えぇ?でも」
「大丈夫だから!安心して準備進めて。残りの婚約期間終わったらすぐ結婚式だし」
「え?どういうこと?」
レンの言っていることが半分も理解できずフェリシアの頭の中は疑問符だらけだ。
「もう結婚式の準備進めてるから、婚約期間終わればすぐに結婚できるよ」
そんな言葉にフェリシアは眉を寄せる。
「……、まさか貴方ずっと忙しかったのって、立太子の儀じゃなくて」
「結婚の準備を並行して進めてたから、かもね?」
「ちょっと聞いてないけど⁉︎」
「フェリシアが頷いてくれるかわかんなかったし」
「まだ結婚に頷いた覚えはないけど⁉︎」
レンが少し目を逸らして口を開く。
「帝国の決まりで、結婚するには半年間の婚約期間が必須なんだ。少し前の時代で貴族で結婚してすぐに離婚みたいなことが増えて、必ず半年間の婚約期間を設けることってなってるんだ」
「……、え?貴方、私に半年だけ婚約してって言ってたけど」
「まぁ、結婚するためには必須な期間だからさ」
「……、20歳になるまでの自由な時間のための婚約じゃないの?」
「そう言ったら、フェリシアは優しいからしてくれるでしょ?」
「……私、その時点で騙されてるの?」
「違うよ!あのときはオレも焦ってたの。そもそも自分の言ったこと忘れてたし。でも、せっかくだから、フェリシアを引き止める手段に使っただけ。でも、今はそうしておいて良かったと思ってる。オレ、一刻も早く結婚したい」
そう言ったレンに、フェリシアは疑問が湧く。
「ねぇ……、私はレンのこと好きになったって自覚が出たのは最近だけど、レンはどうなの?」
そう聞かれたレンはさらに目を逸らす。
「その話は、またいつか機会があれば!」
そう言って逃げていったが、その台詞は言う気がないときの台詞だろうと、フェリシアは心の中でため息をついた。
皇城の入り口でレンに置いて行かれたフェリシアの元に来たのは、意外な人物だった。
マラディア卿が歳を取ったらこんな感じになるのだろうなと思わせる外見からすぐに誰であるかは検討がついた。
「ノイゼン宰相殿……」
「殿下には困ったものです。御伽話のような存在を追いかけて、連れて来るなど前代未聞です」
なんとなくあまり好かれてはいないなとは思ってが、その認識で正しそうだ。
「カイゼント卿もぬる過ぎる。いざという時の決断ができないのではないかと心配になりますな」
「カイゼント卿に仮の婚約者だと伝えたのは、貴方でしたか」
「事実なのですから、問題はないでしょう」
ある種の意図を持って伝えたとしか思えないが、フェリシアは言い返せない。
「しかし、約束は約束ですからね」
「……、一体なんの話ですか」
フェリシアは宰相との約束事などない。そんなことをした覚えがないのだが、ノイゼンは薄く笑う。
「殿下と陛下と約束していたのですよ。さぁ、フェリシア嬢、我が家へ参りましょうか」
「……、はい?」
***
城の自室へ戻る気満々でいたフェリシアは、そこへ戻ることは許されず、ノイゼン宰相の準備した馬車へ乗り込むことになった。移動した場所は、皇城から程近い大きな屋敷だった。
フェリシアが降りると、使用人たちがノイゼン宰相に向かって一斉に並んで頭を下げるのが見えた。
え、どう言うこと?
おそらくノイゼン宰相の屋敷だと思われるが、なぜ連れてこられたのかフェリシアには全く意味がわからない。混乱しているものの、隣にいつの間にかクデリがいてホッとする。
ノイゼン宰相が視線だけで振り返り、フェリシアについてくるように促す。あまりこういう指示をされたことが今までないため、少しイラッとしてしまうのは仕方ない。
通された屋敷の中はとても豪華な作りだった。代々帝国に使える家柄なだけはあると思っていると、どこからか見知った顔の青年が現れた。
「女王様、ご無沙汰しております」
フェリシアのことをそう呼ぶのは一人しかいない。
「マラディア卿」
ノイゼン宰相の一人息子で、レンの友人であり側近でもある。彼がこの屋敷にいることは別段何もおかしくはない。
「これからよろしくお願いしますね。姉上」
「……え?」
訳がわからず、ノイゼン宰相を見ると無表情のままで頷かれる。
「フェリシア嬢には、ノイゼン家の養女になって頂きます」
「……、はい⁉︎」
思わず声を上げてしまうが、どう考えても仕方ないことだ。理解できずにマラディア卿をみるが、マラディア卿もうんうんと頷いている。
「女王様の祖国の名前は出せないし、なんかどっかの家に入ってもらわないといけないけど、レンが頼れるのがうちぐらいしかなくて、親父たちとなんか約束事をしたらしいです」
「ノイゼン宰相たちと約束事?」
マラディア卿が3本の指を立ててフェリシアに示す。
「レンが女王様しか結婚したくないって主張するから、陛下とうちの親父との話し合いで決めたらしいですよ。女王様がレンのことを好きになる、女王様の抱えている問題を解決する、女王様がレンとの結婚を望む。どれもちゃんと解決したら、うちの家に入ってもらって結婚を認めるって」
3つ目は果たして解決しているのだろうかと思いつつ、フェリシアは聞いていた。
「一応どれも果たしてるってレンからは聞いてますけど、合ってます?」
「……、多分」
よく考えるとフェリシアがそれを認めること自体が恥ずかし過ぎることで、素直に頷くのは難しい。しかしフェリシアの答えに、マラディア卿は嬉しそうに笑った。
「あーよかった。あいつホント、女王様のこと好きでさ。安心した」
「マラディア、呼び方に注意しろ」
ノイゼン宰相のピシャリとした言葉に、マラディア卿も「はいはい」と軽い返事をする。
「姉上、お部屋をご案内いたしますよ」
それから、フェリシアはノイゼン公爵家の養子となり、皇太子妃教育の生活が始まった。




