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36.素直な気持ちと懐かしい友人

 ハッと気づいたときには、視界は深い緑になっていた。しかし、足元が地面についている感覚がなく、恐怖に怯えると真下から声がした。


「フェリシア‼︎」

「レン!」


 フェリシアは空中に浮かんだ状態だった。

 名前を呼んだ瞬間一気に重力で落下していくのを感じてフェリシアはぎゅっと目を閉じて、衝撃に備えようとしたが、想像より痛くない反動に恐る恐る目を開ける。そこには、泣きそうな顔をしたレンがいた。レンがフェリシアを受け止めてくれたらしく、彼に抱えられた状態だ。


「フェリシア……!よかった!急に姿が見えなくなったから、オレ、また……!」

 最後まで言葉を言い切らないまま、力強く抱きしめられる。フェリシアももう会えないと思っていたのに、こうして会えたことに嬉しくなり、思わずレンを抱きしめ返す。レンの首に腕を回して、引き寄せるように抱きしめた。


「レン……、好き」

「え?……、え?」


 小さな声で呟くように溢れた声だったが、レンの耳が近かったせいか彼にはしっかり聞こえたようだった。聞き返されて、急に恥ずかしくなったフェリシアは、腕を外すこともできずレンの体に顔を埋めたままだ。


「レン、好きよ。……死ぬんだったら、言っておけばよかったと思って」

 そう言うと急に、地面に下ろされてレンはフェリシアの顔を見つめて強く肩を揺らす。


「ちょ、死ぬってどう言うこと⁉︎氷が溶けてないから、まさかもうすぐ……!」

 青ざめたレンの言葉に、慌ててフェリシアは否定する。

「違うの!真っ暗なところで一人になったから、もう死ぬのかと思って!……、後悔したことの1つがレンに自分の気持ちを言わなかったことで」

 そこまで言ったところで、再びレンに強く抱きしめられる。


「じゃあ、本当に……」

「レンのこと、好きなの」

「嬉しい!」

 少年のように笑ったかと思うと、頭と腰に回された手がさらに引き寄せられて焦る。


「オレも、フェリシアが好きだ」

 さらにそんな風に返事が来るとは思わず間抜けな声を上げてしまう。

「え?」

 驚いて声をあげると、レンが不満そうな声を返す。

「えって何。オレすごくわかりやすかったと思うけど?」 

「いや、え、だって、私は都合のいい仮の婚約者でしょ?」

「そんなわけないでしょ⁉︎オレずっと好きなことアピールしてたと思うけど!」

「私のことを揶揄ってるのかと……」

「全然通じてないってこと⁉︎」

 ずんとレンの纏う空気が重くなった気がしてフェリシアは慌てる。

「ご、ごめんなさい!だって、仮の婚約者でも大切にしてくれてるんだろうなってぐらいに思ってて……」

「いいよ。これからはもう直接気持ちを伝えていいんだと思うと嬉しい」

 さらに強く抱きしめられて、フェリシアは恥ずかしくなる。


「よかったね〜」

 そんな呑気な声が頭上から聞こえて、フェリシアは上を見上げた。レンの頭の上であぐらをかいている黄緑色の光を纏った精霊が見えて、フェリシアは目を見開く。


「あなたが、ウィードね?」

「え?」

「フェリシア、見えるの?」


 その事実にフェリシアも気がつく。ハッと周りを見渡すと、他の精霊たちがふよふよと森の木々の間を通り抜けていく姿や、ケラケラと笑いながら喋っている様子が目に入った。


「見える……、他の子も見えるわ!」

「氷が溶けたってこと?どうやって?」

 レンは理解できず首を傾げるが、当の本人もよくわからない。ただ1つ言えるのは、あの暗闇の中で最後に聞こえた声、あれこそがフェリシアの氷を溶かしてくれた人なのだろう。


「森の主人の姿はなかったけど、氷を溶かしてくれたのかも」

「森の主人のところへ行けたの?」

「真っ暗な場所で、何も見えなかったわ。でも、最後に知らない声が聞こえて。氷を溶かしたって。あと、泣いているやつを早くどうにかしてくれって言われたんだけど……」

 あの声が果たして森の主人だったのか、確かめる術はない。


「そういえば、ずっと泣き声が聞こえるな。またあいつか」

 そんなウィードの言葉で耳を澄ましてみると、他の精霊の笑い声などに紛れて微かに泣き声が聞こえる。


 しくしくしくしく。

 しくしくしくしく。


 その声を探すようにフェリシアは森の中を歩き始めた。


 だんだんと泣き声が大きく聞こえて、声の主にフェリシアは心当たりがあった。大きな卵形の石が地面に転がっており、その中から声が聞こえる気がした。


「フォンセ!」


 思わずフェリシアが名前を呼びかけると、石の上にひょっこりと見慣れた赤紫の光をまとった精霊の姿が現れる。


「……、フェリシア。フェリシア⁉︎嘘!氷から目覚めたの⁉︎」

 驚きと混乱の表情で石の中から飛び出してきた懐かしい友に、フェリシアは泣きたくなった。

「良かった、フォンセ……」

 手のひらを向けると、フォンセはちょこんとそこに座ってくれる。以前はよくやったやり取りに、フェリシアは涙が込み上げてきそうになる。

「フォンセが私を守ってくれたのよね。ありがとう」

「……でも、氷にして守るぐらいしかできなくて。しかもそのとき力をたくさん使ったせいで、氷を溶かすこともできなくて……!ごめんなさい!」

「ううん、ありがとう。今こうしていられるのは、フォンセのおかげよ」


 そこへひらひらと黄緑色の精霊が近づいてくる。腰に手を当ててフォンセを見下ろす。知り合いなのか、ウィードの視線は厳しいものだ。

「お前の氷溶かしたの僕だからな。感謝しろよ」

 頭上から厳しい声を投げてくるウィードにフォンセはびくりとしつつも、ちゃんとお礼を言っていた。

 

「ありがとう。私また大事な物を失ったのかと思って」

 再び涙を流し始めたフォンセに、優しく頭を撫でる。


「大丈夫よ。ありがとう」

 再び会いたかった精霊に会うことができ、フェリシアは幸せな気持ちでいっぱいになった。



 そんな幸せなはずの帰りの馬車はなんともいえない恥ずかしさで、フェリシアは死にそうだった。


「ねぇ、こんなにひっつく必要は、なくない?」

 行きは向かい合うように座っていたはずなのに、帰りは何故かレンが隣に座っている。しかも、ずっと抱きしめられている状態だ。フェリシアの疑問にレンは気にした様子もなく答える。


「ある」

「ないでしょ」

「フェリシア、オレが一体どれだけ我慢してたと思ってるの?これぐらい許してよ」

「そんなこと言ったって、近すぎるわよ」

「本当は膝に乗って欲しかったんだけど」

「無理だから!」

 いくら馬車の中とはいえ、護衛騎士たちも並んで走っているのにそんな恥ずかしいことはできない。


「フェリシアはオレに触られるのイヤ?」

 寂しそうな顔で覗き込んでくるレンは、男らしさをどこに置いてきたのかフェリシアが思わず可愛い

と思ってしまうような顔で聞いてくる。

「イヤなわけじゃないけど……。恥ずかしいからダメ」

 フェリシアが少し上目遣いにそう言うとレンが固まった。

 

「ねぇ、それわざとやってるの?オレどうすべきなの?本当にダメなのか、それとももっと触れていい?」

「ダメって言ってるんだから、普通にダメに決まってるでしょ‼︎」

 不服そうなレンは結局、隣で大人しく座ることを選んだが、馬車にいる間ずっと見つめられている気がして、恥ずかしくてしかたなかった。

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