35.真っ暗闇で思うこと
ふと気がつくと、そこは真っ暗闇だった。
何も見えず、何も聞こえない。
「もしかして、……私、死んじゃった?」
あたりを見回しても1つの光もなく、自分の手元すら見ることができない。本当の暗闇に、フェリシアは何もできずに座り込んだ。
暗闇にいると考えてしまう。果たして自分が生きているのは正しいことなのだろうかと。
百年前だって死んでいてもおかしくなかった。フェリシアのことを攻撃したのも精霊で、助けてくれたのもまた精霊だ。自分のことを助けてくれた精霊が誰かはなんとなくわかっている。
でも精霊の姿も見えなくなってしまい、その子がどうなったのかもフェリシアにはわからなかった。
「最後に、フォンセに会いたかったな……」
今のフェリシアには叶わない願いだ。精霊の見えないフェリシアには助けてくれた彼女を見ることも叶わない。精霊の生まれる滝でウィードが精霊を見せてくれてが、探してみたものの、近くにフォンセの姿はなかった。
もしかしたら森にいるのかもしれないと思っていたが、体の中の氷が溶けない限り探すこともできない。フェリシアが氷が溶けたらやりたかったことは、フォンセを探すことだった。
フォンセは数少ない闇の精霊だった。黒髪に黒い瞳で、赤紫のような光を纏った少女のような外見の精霊だった。昔森に行った時に泣いていたのを見かけて声をかけたのが始まりだった。
それからフォンセはよくフェリシアの側を飛ぶようになった。契約や取引をしているわけではなく、ただ側にいるだけだったが、精霊の割にとても静かなフォンセとは気があった。
「ごめんね、フォンセ。守ってくれたのに、直接お礼も言えなかった……」
いつも控えめに笑う闇の精霊を思い出して、フェリシアは目を閉じた。
真っ暗な場所は、時間を忘れさせフェリシアに様々なことを考えさせる。
次に頭に浮かんだのは、レンだった。少年のように微笑む姿や、最近見せる男らしい表情にフェリシアは無意識にため息をついた。
「どうせ死ぬなら、もっと素直に認めたらよかったかな」
傾きかけていた気持ちはもうとっくに最後まで倒れている。フェリシアをあれだけ大切にして、いつも助けてくれていたレンに惹かれないはずがない。
「ちょっとどうかと思うところもあるけど……」
口移しで何度も薬を飲ませるのはどうなんだと、命を救ってもらっておいてなんだが、フェリシアとて乙女なのでそんな風に思ってしまう。きっとそんな風に恥ずかしいと思っているのも自分だけなのだろうと思うと少し空しい。
「でも、レンは帝国の皇太子だし。私4つも上だし……」
結局言い訳ばかり並べる自分に悲しくなり、慌てて首を横に振る。
「そうじゃなくて、……ちゃんと自分の気持ちを言えたらよかったなぁ」
死んでからそんなことを思っても意味がない。やりたいことや伝えたいことは生きている間にやらなければ意味がない。後からする後悔ほど虚しいものはないと百年眠っていたフェリシアは分かっていたはずなのに。
「全然わかってなかった」
暗い闇の中にフェリシアの声だけが響いた。
無意識に涙が溢れた。漆黒の闇の中、フェリシアの涙が落ちると突然辺りが眩しい光で溢れる。目を閉じていても分かる強い光だ。
驚いて目を開くとフェリシアの周りが真っ白な光で輝いていることに気づく。
「私も、後悔は嫌いだ。氷は溶かした。うるさく泣いているやつを早くどうにかしてくれ」
そう頭の中に初めて聞く低い声が響くと、フェリシアは白く強い光に飲み込まれた。




