31.立太子の儀(レン視点)
レンはフェリシアと目が合うとすぐに、フェリシアのそばに駆け寄った。今にも倒れそうなフェリシアをなんとか抱き止め、頭上に冠していたものはすぐに近くにいたアマディアに渡してしまう。
フェリシアが気を失ったのを見て、手早くどこからか不思議な輝きを持つ液体の入った小瓶を取り出した。躊躇うことなくその小瓶の蓋を中身を呷る。
そして、周りの目など気にすることもなく、ぐったりとした様子のフェリシアになんの躊躇いもなく自分の唇を重ねた。
明らかに、誰の目から見ても、皇太子とその婚約者が口付けをしている、そんな光景だった。
目を閉じて意識のないフェリシアと比べて、レンは目を開けたままだ。レンはうっすらと開いている彼女の唇をさらに開かせると、口に含んでいた薬を流し込む。
程なくしてこくりとフェリシアの喉が鳴るのが聞こえた。
フェリシアが飲んだことを確認するとレンはゆっくりと彼女から唇を離した。
周りの貴族の様子といえば当然皆顔を赤らめなんともいえない表情をしていた。一部の女性たちはキャーキャーと声を上げる始末だ。
そんな周りの様子を知ってか知らずか、レンはフェリシアを抱き上げて立ち上がる。
「それ、乗せてくれ」
アマディアに顎で指したのは、太子の冠である。
「良いけど、女王様は置いて行った方がいいんじゃないか?」
こそこそと話しながらも、アマディアはレンの頭に冠を乗せ直す。
「いや、丁度良い」
そう言ったレンにアマディアは呆れた顔をする。
「目覚めた女王様に怒られるぞ」
「フェリシアになら、怒られるのもいいな」
「……どうしようもないな」
お手上げのポーズをとったアマディアにレンが笑った。そのまま眠るように起きないフェリシアを抱き上げたまま、レンはまた赤い絨毯の上をゆっくりと、そして、咎められることなど何もないと言わんばかりの堂々たる様子で歩いて行った。
他の貴族たちの待つ部屋へ周った際に、カイゼント卿と目が合った気がしたが、レンは薄く笑って見せた。そして口々に何が囁き合う貴族たちに牽制をする。
「誰も邪魔するな。私は他の女性など望まないし、この女性は私のものだ」
いつもより低いレンの声が部屋に響き、その言葉に部屋はシンと静まり返った。言葉を受け入れた者たちは、皆慌てて頭を下げていく。カイゼント卿だけがそれに続かずにいたため、レンは立ち止まり彼に視線を向け続ける。
フェリシアがカイゼント卿を望むなら考えたけど、望まないなら、渡す気なんてない。
長い沈黙の後、カイゼント卿が他の貴族同様頭を下げる様子を確認して、レンは先へと進んだ。
そして、儀式の最後。
城のバルコニーからレンが姿を現すと、外から大歓声が上がる。誰もが手に抱えられている人物について疑問に思っただろうが、新しい皇太子の誕生に誰もが湧いた。
そんな大歓声のなか、フェリシアは身じろぎした。いつの間にか痛みは退き、大きな音が耳に入り、重たい瞼をなんとか持ち上げる。
視界に入ったのは青空とレンの顔だった。
「え……?」
訳がわからず、フェリシアは瞬きをする。割れんばかりの拍手の音のなか、レンとの距離が近い。しかも地面に立っていない感覚に恐ろしさを感じて近くに合った物を掴む。
よく見れば今日レンが来ていたあの白と紺の正装だ。
掴まれてフェリシアが起きたことに気づいたらしいレンが視線を向ける。
するととても嬉しそうな表情を向けてくるレンがいた。満面の笑みでフェリシアを見る。
「よかった。前より早く目覚めたね」
「……どういう状況」
聞きたくないと思いながらフェリシアは口にした。レンは眼下の状況とフェリシアを見比べる。
「民衆の拍手を浴びてる。立太子の儀の最後だよ」
フェリシアは予感が当たって、ひゅっと喉が変な音を立てる。
「なんで抱えてるの。私倒れなかった……?」
どうレンを責めていいかわからずフェリシアは心の中で頭を抱える。とりあえず民衆と目を合わせるのは嫌で、レンの方へ顔を無意識に寄せた。
「フェリシアを誰かに預けるなんてできないからさ」
「そこは預けなさいよ!近くにマラディア卿もいたでしょう⁉︎」
小声で怒りをぶつけるが、レンはにこにこと民衆に笑顔を向けているだけでフェリシアの言葉は全く聞こえていないようだ。
「こんなことしたら、レンの新しい婚約者が出てこなくてなるわよ‼︎」
レンも困るでしょ⁉︎と暗に問いかけているのだが、レンは少し視線をフェリシアに送ると微笑んだ。
「フェリシアも笑い掛ける?」
いやいやいや、なんでそうなるの?笑い事じゃないわよ⁉︎もしかして結婚なんかどうでもいいと思ってるの⁉︎
勝手に動くこともできないフェリシアは、もう気絶したフリをすることを選んだ。
レンダリオ=リア=タラスの立太子の儀はこうして幕を下ろした。
ここが書きたかったのです!長かった!




