30.立太子の儀
そして、翌日、予定通りレンの立太子の儀が執り行われた。
皇帝から正式に皇太子として認められるための儀式である。基本的には皇帝の間で、皇帝より指名され、自らが皇太子であることを宣言するものだ。
事前に様々な書類は処理されているため、儀式としては、皇太子としての証である、冠を皇帝から授けられる。
そしてら民衆の前にでて宣言する。
それだけの儀式だ。
いつもなら自然に髪を下ろしているレンだが、今日は正装に合わせて髪も後ろに流され整えられている。
白と紺を基調とし、金色の縁取りをした服が眩しく輝く。首元のブローチにはさりげなく薄紫色の石が入っている。
皇帝の間は、金を基調とした煌びやかな部屋だった。天井はアーチ状に広がっており、帝国内の様々な領地の風景が描かれている。
今日この皇帝の間で立太子の儀に参列しているのは、王族及びそれを支える上級貴族である。あとは城内の別室に他の貴族もいるが、ここに入ることができるのはほんの一握りである。
フェリシアはレンの婚約者とは言え帝国の貴族ではない。本来であれば参列できる立場とは言い難いのだが、レンだっての希望によりアマディアの家に縁のあるものとして参加していた。
上座にはすでに皇帝の姿があり、正装をしたレンが入り口からゆっくりと入ってきた。赤い絨毯の上を進む姿は、普段のレンからは想像できないほど、どうどうとしており、フェリシアも見惚れるほどだった。
レンは皇帝の前まで行くと、さっと膝を床に着き、首を垂れる。
朗々と皇帝が祝詞を読み上げた後、最後の一言をいう。
「其方を我が後継と認め、この冠を授ける」
その姿を見下ろす皇帝は、側近から太子の冠を受け取るとそっとその頭に載せた。
レンはそれを受け、ゆっくりと立ち上がる。
すると一斉に割れんばかりの拍手が湧き起こる。これが立太子した証拠であるとばかりだ。フェリシアもその立派な姿に感慨深い気持ちになり思わず大きく拍手をした。
一方レンは静かにどこかを見据え、何かを決意したような表情だった。
しかしそんな拍手の鳴り止まないなか、フェリシアは嫌な予感がした。
胸にチリリと痛みが生じ、フェリシアは思わず胸を抑える。胸元を抑える自分の手を見ると、ふと自分の服装に目が行く。
今日のドレスは深い濃紺のドレスだった。ところどころにまるで星のように真珠が散りばめられたとねも美しいドレスだ。
これはレンがフェリシアのために用意してくれたものである。これを着て立太子の儀に参加してほしいと言っていたレン。
迷惑はかけたくない。
そう思いながらも、フェリシアには痛みを制御する術がない。どんどんと痛みが強くなり、立っているのが強くなる。
横に並んで立っていたアマディアがそれに気づきフェリシアの顔色を見て、まずいと思ったのかどこかへ連れて行こうとしたが、フェリシアは慌てて止める。
この儀式を中断させたくない。
その思いで、フェリシアはアマディアの腕を掴み首を横に振る。すでに変な脂汗が出ている気がしたがどうすることもできない。
もう少しだけ、耐えて!
あとはレンがこの参列者の間を抜けて歩いていけばほぼ儀式としては終了である。別の場所でまつ他の貴族たちへの挨拶や、バルコニーに立ち平民たちへの挨拶があるが、ここさえ乗り切ればフェリシアは問題ないはずだ。
そう思っていても痛みはどんどん増して行く。
皇帝の前にいたレンは、一度礼をするとゆっくりとまた赤い絨毯の上を歩き始める。
一歩ずつ歩みを進めるが、その歩みはやがて止まった。顔が上げられないフェリシアには状況がわからない。フェリシアからはレンの足下だけが見える。
……どうして?
レンが歩いて行かない限りこの場の終わりはない。苦しい中少しだけ視線を上げてみると、レンと目が合った。そのせいかさらに痛みがひどくなり、フェリシアは目の前が真っ白になった。




