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28.束の間の休息

 執務机で書類と格闘していたレンはふとした扉の音に反応して顔を上げる。するとそこにフェリシアの姿を見つけて、驚いて二度見した。 


「え?フェリシア?どうして」

「忙しくて倒れそうって聞いて、休憩でもどう?」

 レンは隣にいたマラディアを見ると、彼はレンに目配せした。どうやらフェリシアに伝えたのはマラディアらしい。

 フェリシアはお茶菓子を持ってきてくれたらしい。後ろにはクデリがティーセットを持って控えている。


「……、する」

 疲れた顔のレンが頷くので、フェリシアは少し笑った。


 フェリシアとレンは向かい合うようにテーブルのソファ席につき、クデリが二人分のお茶を準備してくれる。

 最近のレンは立太子の準備でまともに顔も合わせていない。朝食も一緒に取れない状況が続いていたので、レンと顔を合わせるのも久しぶりだ。


 クデリが入れてくれたお茶を飲むと二人してホッと息を吐くタイミングが揃い、どちらともなく笑う。その間にクデリはそっと部屋を出ていく。


「もう明日だものね」

 レンの立太子の儀はすでに明日に迫っていた。

「式自体は短いのに何でこんなにやることあるんだか」

「式だから覚えることが多いんじゃないの?」

「そういうのは得意だからいい。でもなんか手続き用の書類が大量でさ。あと、まだ立太式終わってないのに親父の仕事流れてきてるし」

 文句を言うレンはどこからどう見ても眠たそうで、フェリシアは見てて心配になる。


「寝れてない?」

「え?」

「顔が疲れてるし、とても眠そう。お茶もいいけど、少し眠ったら?」

「いい、フェリシア来てくれたのに」

 そう言ってお茶を飲もうとするレンに、フェリシアは席を立つ。レンの隣に立つと、レンの腕を捕まえる。

「寝ましょ。これじゃあ明日になる前に倒れてしまうわ」


 レンの部屋はフェリシアの部屋とほぼ同じ構造になっており、寝室の場所はなんとなくわかる。レンを引っ張って扉を開けると予想した通り寝室だった。フェリシアの寝室と違い、濃い青色に統一された部屋だ。そこには大きなベッドが一つある。


「さ、寝て」

「……フェリシア、婚約者とはいえ、男の部屋の寝室に入るなんてよくないよ」

「そういう注意は今日はいらないわ」

「フェリシアが来てくれたのに寝るのは嫌だ。ちゃんと夜に寝るよ」

「そう言って寝ないからマラディア卿が困ってるのよ」

 レンをベッドの側まで連れてくると、フェリシアは勢いよくレンを押した。案外簡単にベッドに沈んだレンはおそらくかなり疲れているからだろう。その上に上掛けを掛けてしまう。


「寝るまでここで見張ってるから」

 フェリシアがそういうとレンは諦めたように靴を脱ぎベッドの外に落とした。

「……、寝てもここにいて」

 レンが珍しく寂しそうな目でそう言ってくるので、フェリシアは思わずレンの頭を撫でる。

「ここにいるわ。安心して寝なさい」

 フェリシアのその言葉に頷くと、レンはゆっくりと瞼を閉じ、程なくして眠りについた。

 


「こんなに早く寝るなんて、よほど疲れてたのね」

 レンの濃い藍色の髪が乱れているのに気づき、フェリシアは髪を整えてる。眠ると幼くなる顔が微笑ましく、フェリシアは自然と笑みが溢れた。


「ホント、真面目なのね。寝ないで仕事するなんてやりすぎよ」

 最初の出会いではわからなかったレンの姿を、この城に来てからたくさん見るようになった。


「私にまで気をつかっていたら、大変でしょう?」

 眠っているレンには聞こえていないとわかっていながら、フェリシアは話しかけた。

 レンは最初の頃に言ってい通り、一時的な婚約者の存在を無碍にしたりしない。立太式のフェリシアのドレスの準備のあれやこれやまでしっかりと手配されていた。


「レンが本当に結婚する人は幸せね」


 そう思って口にしたのに、ズキリと心臓が痛んだ気がした。誰か違う人がレンの隣にいる想像をすると、胸が痛む。


 よくないわ。私はあくまでも仮初めの婚約者なんだから。


 フェリシアはしばらくレンの寝顔を静かに見つめていた。

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