幕間:伝承の姫の正体
「もう、古の力を抱く国はないんだろ?」
「姫様の生まれた国はないね。僕もずいぶん人間の世界に詳しくなったもんだ」
自画自賛するウィードのことは無視して、気になることを聞く。
「ウィードが言う、姫様って誰を言ってるんだ?」
ずいぶんウィードと話をするようになったレンは、本を読みながら頭上を飛ぶ精霊に話しかけていた。
「姫様は姫様だよ」
「だからそれが誰かって聞いてるの。……あの肖像画の人?」
その問いにウィードは答えなかったが、おそらく沈黙は肯定だ。ウィードはあの肖像画の人たちをとても大切に思っていることは間違いない。
ってとこは、やっぱり古の力を抱く国から唯一旧帝国に輿入れした姫のことを姫様って呼んでるのか。
古城で肖像画を見たレンはすぐにあの肖像画に描かれた人物を調べた。旧帝国時代であることは明白だったし、女性は特徴的な色彩だったため調べてしまえば答えは早かった。
政略結婚で古の力を抱く国から旧帝国へ輿入れをした姫は、精霊姫と呼ばれる、強い力を持つ女性だったとされている。政略結婚ではあったものの、当時の皇帝はその姫を寵愛し、彼女の希望はなんでも叶えたと言われている。彼女の祖国への道の整備も非常に早い段階で行われ、また彼女の護衛のために騎士団を新設するなど様々なことを行なっている。
確かにレンが見たあの肖像画の二人はとても仲睦まじいように見えた。
しかしそれ以降は古を抱く国からの輿入れは記録上ない。
また面白いことにその皇后は、自然を操る力を持ち、裏切りものは天罰が下るなどと言う記述が存在する。そして、彼女の色彩は金色の髪に、紫色の瞳。
「もしかして、この人が、伝承の姫ってことか」
これまで伝承の姫が具体的に誰かということを考えたことなどなかったが、不思議な力を持つとされている精霊姫を指すならばそれも納得できる気がする。そして、多くの帝国貴族はそれを信じている。
「ここら辺の話は、どういうことなんだ?」
「あー、それね。王様がわざとそういう風に流したの。側室とかいれたくなくて。姫様が怒ると災害が起きるって適当なこと言ってた。たしかそんな感じ」
ひらひらと舞ってそう言うウィードを見ながらレンは言葉を変換する。
王様とは王様を指さない。当時の皇帝のことだと言うのはレンもだんだんとわかって来た。肖像画の二人のことをこの精霊は、姫様と王様という呼び方をする。正しくは帝国の皇后と皇帝なのだが、ずっとそう言う呼び方をしているのだろう。
「実際にさ、自然災害の起こらないはずの国で災害が起きたら、みんなびっくりするでしょ?見ちゃったら信じるよね〜」
能天気にそう言うウィードに眉を寄せる。
「精霊姫の祖国にってこと?」
「そう。歴史的な豪雨だから、本にも載ってるんじゃない?」
そう言われるとそんなような文章を読んだ記憶がある。
「王様は、基本的に姫様のためならなんでもする人だったからさ。使えるものはなんでも使う。ある意味いい性格してると思うよ」
「でも好きなんだろ?」
「筋が通ってるからね。ぶれないよ。あの人」
懐かしそうに笑って言うウィードはとても楽しそうだった。
「あの部屋はなんなの?」
ウィードが大切していた肖像画の飾られた部屋。あの場所だけ部屋が綺麗に保たれており、まるで違う時代の空間のようだった。
「姫様たちが僕にくれた」
ウィードはそれだけ端的に言うとレンの頭の上に座り込む。
「……人間はなんであんなに生きてる時間が短いんだろ」
その掠れた声は泣いているようにも聞こえた。
「でも僕は、なんでお前が見えるのかの方が不思議だよ。ねーなんで見えるの?」
「そんなことはオレが聞きたい」
「王様に似てるのはその髪と目の色ぐらいだよね」
再びひらひらと飛び始めたウィードはレンの周りを飛び回りレンを観察する。どうやらこの濃い藍色の髪は彼の敬愛する皇帝にしているらしい。
「王様はもっとしっかりしてるし、頼り甲斐があるし、かっこいいし、足長い」
「足の長さ関係ある⁉︎ったく、すぐに比べてオレを貶してくるのはやめろ」
すでに何度も言われているが、いつも真面目で優秀と言われるレンにはなかなか心外な言葉だ。
「……わかってる。僕の記憶だって薄れ始めてるって」
悲し気な声を残してパッとウィードは消えてしまい、レンは少し自分の言った言葉に後悔した。




