19.旧帝国時代の皇城(レン視点)
旧帝国の城には絶対一緒に行くと言って聞かないレンに、フェリシアが目の前で呆れていた。
「忙しいんだから、無理しなくてもいいのよ」
「無理じゃないから!それに、……フェリシアに何かあったら困る。ここで待ってても何も手につかなくなるだけだから」
フェリシアはお願いに対して結構甘い。レンが絶対に折れないとわかると、フェリシアは大抵先に折れてくれる気がする。
誰にでもそうじゃないといいんだけど……。
結局はレンの粘りがちで、レンを無碍にはできないらしいフェリシアは仕方なく頷いてくれた。
そして二人はピクニックという体で、出かけることにした。当然護衛付きだ。
「フェリシア」
先に馬上に乗ったレンは、フェリシアを呼び手を差し出すが、フェリシアはその手を取ることを躊躇った。
「……なんで馬車じゃないのよ」
「馬の方が早いから」
「私が馬に乗れないのは事前に確認したでしょ⁉︎」
「まぁ、いいかなって」
「なんのための確認よ……」
しかし後ろでは騎士たちが待っている状態で、ここまで準備されて拒否するわけにもいかないと思ったのだろう、フェリシアはレンの手を取った。
フェリシアの手を握るとぐっと力強くレンが引っ張り上げて、なんとかフェリシアも馬に乗ることが出来た。フェリシアはドレスだったため跨ぐことはできず、レンに横抱きにされた状態だ。
「じゃあ行こうか」
とフェリシアに声をかけたが、とても不安そうな表情であることに気づく。
「もしかして怖い?」
レンの声掛けにフェリシアは俯き加減に無言で頷く。
……やらかした。単純に一緒に乗りたかっただけなんだけど、そんなに怖がるとは思ってなかった。
思わずフェリシアを自分の方にさらに引き寄せる。
「ごめん。絶対落としたりしないし、速度も遅めにするよ。怖かったらオレに捕まって」
レンがそういうとフェリシアは頷いて、レンにぴとっとくっつき服を掴んだ。
……可愛すぎるんだが。なんなの。まじで溜まってた疲れ吹っ飛ぶ。
「……じゃあ、行くよ」
そう言ってレンは片手でフェリシアを支えつつ、馬を走らせ始めた。
一人で乗る時とは違い速度や揺れに気をつけながら馬を走らせる。
目的の場所はしばらく走るとすぐに見えてきた。小高い丘の上にある赤い尖塔を持つ城は、かつての栄華を示すかのように佇んでいる。
馬の速度を落としてレンはフェリシアに声を掛ける。
「フェリシア、見えて来たよ」
ずっと景色も見ずレンの服にしがみついたままだったフェリシアがようやく少しだけ顔を上げる。怯えた様子でとても申し訳なくなる。
丘の上にある城を見ると、フェリシアの表情がようやく変わる。
「すごく立派なお城ね」
「うん、ほんとだよね」
何故わざわざ皇都を移したのだろうかと思わせる城だ。
「行けるところまでは馬で行くよ」
レンがそう言うとフェリシアは動く予感がしたのか、再びレンの服にしがみつく。
なんかもうずっとこのままでいいんだけど。
フェリシアは相変わらずレンのことを弟のように扱い、レンが全く男としてみられてないことは明らかだ。それでも少しずつでも意識してもらえるように行動しているのだが、成果が出ているのかは全くわからない。
フェリシアは怖いんだろうけど、オレはめっちゃ癒される。
再び馬を走らせながら、フェリシアが触れられるほど近くにいることを嬉しく感じる。
「フェリシアって、なんか良い匂いするよね」
なんとなく呟いたのだが、フェリシアかびくりと反応した。
「甘い、花みたいな」
「花?」
「うん。オレこの匂い好き」
「ダメ」
「え?」
少し顔を上げたフェリシアは何故か顔が赤い。
「すんすんしちゃダメよ」
「そんなことしないし!」
「したから言ってるの!」
「いつ⁉︎」
「酔っ払ってたから覚えてないのよ」
「えぇ⁉︎……本気で言ってる?」
「当たり前でしょ」
何故フェリシアが顔を赤らめるのかが気になりすぎる。
「え、なんかそんな、フェリシアが赤くなるようなこと?」
「ものすごい近づいて来たの!鼻が体に触れそうなぐらい近づいて来て」
「……、記憶ないからやり直して良い?」
無意識に顔を近づけるとフェリシアに全力で拒否された。
「いいわけないでしょ!」
丘の上にまで来て馬を停止させた。後ろでも騎士たちが馬を止め、そのうち一人がレンたちの馬の側による。レンの近衛として来ている白の騎士団の一人だ。
「フェリシア様」
馬上のフェリシアに降りるための手を差し伸べたのは、フェリシアが図書室で知り合った騎士、ルアルカ=カイゼントだった。レンは自身の近衛を自分では選んでいない。特に重要視していなかったのだ。
「カイゼント卿」
フェリシアは馬の上を怖がっているため、レンが先に降りて手伝うより、カイゼント卿が手伝った方が安全である。
正直なところフェリシアの手に触れるなんて許せないが、安全を優先するなら仕方ない。
フェリシアがカイゼント卿の手を借り、馬から降りる。さりげなくフェリシアの腰あたりに触れたのをレンは見逃さない。フェリシアがバランスを崩さないようにだとわかっていても意図のある触れ方だと勘繰ってしまう。
あいつ、次は許さんって言ったのに……。
レンが馬上で怒りを感じている間に、フェリシアはカイゼント卿にお礼を言い短いやり取りをしている。怒りを抑えられないまま馬を降りると、カイゼント卿は一礼だけして後ろに下がって行った。
なんか、絶対まだフェリシアのこと諦めてなくない?絶対諦めてないよな⁉︎
しかし嫉妬心を出したところで、また子供扱いされるのが目に見えていたため、レンはなんとか口にすることを我慢した。
「……、行こう。フェリシア」
「えぇ」
この場所は、帝国の管理地になっており、勝手に誰かが踏み込める場所ではない。
城内にはいると、中は瓦礫などが散乱し、足元が悪い。今回はフェリシアもいるため、それらを避けながらゆっくりと奥へと進んでいく。
最奥の部屋の扉は今は閉じられているが、レンの側にはウィードが飛んでおり扉を開けてくれるだろう。
レンは騎士たちにはその場で待機するように指示し、ウィードを見た。ウィードは一度ひらりと空中で回転したあと、扉のノブに何かを振りかける。
すると一人でに扉が開く。
レンがその扉に手をかけ、フェリシアと共に中へ入り扉を閉めた。
「わぁ……」
フェリシアは思わずと言うように声を上げた。部屋は相変わらず、ここまで来た時とは違い時間が止まったかのように埃ひとつない綺麗に整えられた部屋だった。
部屋自体は白色を基調にし、淡い緑色などが配色されている。
あの時は壁に掛けられた大きな肖像画ばかりが印象に残っていたが、部屋には様々なものが置かれていた。まるで誰か人でも住んでいるかのように、テーブルと椅子、小さな本棚や、飾り棚まで置かれている。
フェリシアは、肖像画の前まで行くとじっとその絵を見つめた。
肖像画の女性は、フェリシアの色彩によく似ていた。淡い金色に薄紫色の瞳は同じ色だと言っても過言ではない。
「とても力が強い方だっと聞いています。きっと、ウィードにとってとても大切な人だったのね」
ウィードのことは見えていないだろうが、フェリシアはまるでウィードに話しかけているようだった。
「こちらの男性は、レンによく似てるわ」
レンを振り返ってフェリシアがそう言うと、レンは首を横に振る。
「ウィードに言わせると色だけだってさ。中身は似てないって」
そんなレンの言葉にフェリシアは笑う。ようやく不安な表情がなくなった気がしてホッとする。
もう馬はやめよう。オレだけ楽しいなんて意味がない。
「本棚、触っていいかしら」
フェリシアの言葉にウィードが小さく頷く。
「いいって」
「ありがとう」




