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15.異性の好みと婚約者

 次の日の朝食で、レンの様子が少しおかしかった。

 何故かチラチラとこちらを見ては、目を逸らすということを繰り返しており、フェリシアのほうから声をかける。


「何か言いたいことがあるの?」

「え?あ、いや、そう言うわけじゃ」

 そう言いながら、ちぎったパンを口に放り込むがいつもと違う様子なのは明らかだ。

「何か言いたいことがあるなら言って」

 フェリシアは朝食を食べる手を止めてそう言うと、レンは持っていたパンを皿に置いて、フェリシアを見た。


「クデリから、昨日のこと聞いたんだけど」

 そう言われてフェリシアはピンとくることがなく、首を傾げる。理解してもらえなかったことにレンの方が焦る。

「いや、えっとなんか、昨日図書室で、その騎士と話をしていたって聞いて」


 そういえばクデリがレンに報告するって言ってたわね。


「えぇ、話したわ」

「一体、どんな話を?」

「騎士団の成り立ちについて教えてもらったの」

「え?騎士団?」

「そう。図書室に偶然居合わせて、私が騎士団の成り立ちについて書かれた本を読もうとしてたから、本に沿って解説してくれたの」

「そう、なんだ」

 フェリシアの答えに明らかにホッとした様子のレンに、フェリシアは疑問を持つ。


「私、あまり城にいる人と話をしない方がいいの?」

「え!いや、そう言うわけじゃない!そう言うわけじゃないよ。そんな制限することはしないし、自由にしててもらいたいけど」

「けど?」

 続きがあるのかと思い促したのだが、レンは目を逸らすと首を横に振った。

「何でもない。自由に過ごしてくれていいよ。単にオレが相手できないのが嫌だなって」

「まだ忙しいんでしょ。気にしないで」

 そう言って再びフェリシアは朝食に手をつけ始める。新鮮な野菜は帝国でもとても美味しい。水々しい緑の葉物を口にする。

 

「オレも国の歴史とかは詳しいから、落ち着いたら解説させてよ」

 そう言いながらレンも再び朝食に手をつけ始める。その言葉でふとフェリシアは思い出す。

「そういえば、貴方って、双子の妹がいるの?」

「そうだけど、言ったっけ?」

「会ったの」

「え、えぇ⁉︎」

 レンは先ほどの話より驚くべきことだったのか、カトラリーを取り落とした。


「大丈夫?」

「だ、大丈夫」

「そんなに驚くこと?」

 フェリシアは城内を自由に歩くことを許されているため、城に住んでいるレンの妹姫たちに会っても何もおかしくないだろう。それなのに、何故かレンの様子は先ほどよりも挙動不審だ。

 

「……、なんか変なこと言われたりした?」

 フェリシアは少し前のことを思い出してみるが特に変なことはなかった気がする。

「お兄様をよろしくって」

「……それだけ?」

「えぇ」

 明らかに安心した様子を見せたレンに、フェリシアは首を傾げる。

「仲良くないの?とても可愛らしい子たちだったけれど」

「まぁ、9歳も違うから、そこまで仲が良いわけじゃないかな」

 確かに、レンが19歳で彼女たちが10歳で性別も違うとなかなか一緒に遊ぶと言うことはないかもしれないなと思う。


「そういえば、みんなレンのこと聞くと、真面目で勤勉だって言う答えが返ってくるんだけど、そうなの?」

 フェリシアがそう尋ねるとレンが咽せた。慌てて近くの水を飲み干していたが、変なところに入ってしまったようだ。


「それ、本人に聞く?」

「私のイメージと随分違うから、よくわからなくて」

「……、フェリシアのオレのイメージってどんなんなの」

 どうやらどう思われているのか気になるらしく、レンが視線を向けてくる。


「うーん、そうね。ちょっと子供っぽいけど、しっかりしてる良い子って感じかな」

「オレって、子供っぽい?」

「私から見るとね。やっぱり弟っぽいなって思っちゃうし」

 何故か目の前のレンは深刻な顔している。そんな重い話ではまったくないと思うのだが。

「……、ちなみに図書室であった騎士はどう言うイメージだった?」

「え?騎士だってすぐわかったから、騎士ってイメージしかないけど」

「じゃあ、どんな人だった?」

「いかにも騎士って感じで、精悍な顔つきの男性で、説明も上手だったわ」


 思いながらフェリシアがそう答えた瞬間、レンが何故か顔を伏せた。

「レン?」

「フェリシアにとってはオレなんてガキだろうけど」

「……一体どうしたの?」


 次にレンが顔を上げたときには、何故か悔しそうに顔を歪めていた。

「フェリシアは、そう言うやつが好みなの?」

「好み?」

 言われること全てが疑問だらけで同じ言葉を返すしかない。

「その、騎士みたいな男らしい感じが好きなの?」

「え?」

「フェリシアって、……どう言う男が好みなの?」

「私?」

「うん」

 唐突に話が変わった気がフェリシアにはしたが、レンが意外と真面目な顔で聞いてくるため、フェリシアは真剣に悩むことになる。


「……あんまり異性の好みとか考えたことないんだけれど。私の立場上自分で結婚相手も選ぶことなんてできないし」

「でも結婚してないんでしょ?」

「結婚はしてないけど婚約者はいたわよ」

 フェリシアの発言にレンが目を剥く。

「は⁈何それ聞いてない!本気で言ってる⁈どこのどいつ⁈そいつとはどこまで!」


 席を立ってまで突然話題に食いついてきたレンに驚きつつフェリシアは、手を横に振る。

「形だけの婚約者よ。どちらかと言うと、仲も良くなかったわ。……、最後まで対立していたの」

 フェリシアが思い出したのは、氷に眠ることになる直前の出来事だ。


「私が眠りについたのは、……彼のせいよ」


 あの時記憶は、今でもはっきりと覚えている。彼はフェリシアにとって許し難い行為をした。それを是としないフェリシアと彼は言い争いの末、フェリシアに向かって攻撃を仕掛けた。

 あの氷はフェリシアを助けようとした精霊による防御の結果である。フェリシアを助けた精霊は非常に力の強い精霊だったため、他の精霊はフェリシアを氷から助けることができなかったのだろうと推測している。

 または、他の精霊たちの行動を彼が制限した可能性も高い。


「……、私は彼を許さない。けれど、止められなかった自分のことはもっと許せない」


 いつも明るく振る舞うフェリシアが初めてみせた苦痛の表情だった。レンが助けた時に一度だけ涙を流したが、フェリシアはそれ以降は決して弱音を吐いたりはしなかった。


「フェリシア……」

「って、ごめんね朝から辛気臭い話しちゃって。食べましょう。朝ごはんは重要よ」

 いつもほ明るい声でそう言ったフェリシアに、レンは悔しさに唇を噛むしかなかった。

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