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14.図書室と騎士

 城での生活に慣れ始めた頃、時間を持て余すようになったため、フェリシアは図書室へ通うことにした。

 城内の一角に図書室があり、自由に行き来してよいと言われたため、クデリを連れてフェリシアは図書室へ向かった。


 図書室には窓がなかった。壁の全面が書架となっており、所狭しと本が並べられているその光景は圧巻だ。


 フェリシアの時代から文字はそれほど変わっていないため、背表紙に書かれているタイトルは問題なく読めた。その中から、タラス帝国の歴史に関する本をクデリが見つけ出してくれ、図書室に置かれた書見台でその本の一つを読み始めた。


 フェリシアは自分の記憶の差を埋めたいと考えてここにきた。フェリシアは百年分の知識が欠けている。日常生活には、困らないものの、タラス帝国や自分の国、その他周辺国についての知識が欠けていることが気になっていた。

 自分の国がどうなったかは気になることではあったが、まだ文字としてそれを受け入れる勇気がなかったため、フェリシアはタラス帝国の歴史について知ることにしたのだ。


 フェリシアの時代にもタラス帝国は存在しており、その頃も強大な国であることに変わり無い。ただ北東の国境の位置がフェリシアが知っているときよりもさらに北へ上がっている気がした。


「確か結構戦争も辞さない皇帝だったのよね」

 フェリシアの記憶では、タラス帝国のイメージはあまり良く無い。他国からの入国者を徹底的に捕らえていた時期もあり、何百人の人が捕えられたという話もあった。


 しかし、現在のタラス帝国にそんなイメージはない。百年でずいぶん変わったようだ。


「まぁ、皇帝の色なのよね、きっと」


 現皇帝は無駄なことはしなさそうなタイプに見えた。決して穏やかな性格とは思わなかったが、くだらないことはやらない、はっきりとしたタイプだと感じた。


 ページを捲り読み進めて行くと、タラス帝国の前身の国、旧帝国に関する記述があった。フェリシアにもあまり馴染みがなく、旧帝国について知っていることはない。せいぜい、過去にフェリシアの国から精霊姫と呼ばれた姫が嫁いだことがあるということぐらいだ。


「力の差が激しすぎるわよね」


 旧帝国は現在のタラス帝国とさして規模は変わらない。フェリシアの国は、昔からの小国である。精霊が住まう国として神聖視されているため、周辺国から攻撃を受けることのない弱小国家だ。


「精霊姫はこんな大きな国に嫁いで幸せだったのかしら」

 フェリシアには知りようがないことである。


 別の新しい本を手にしようと立ち上がると、入り口から誰かが入ってきて目があった。

 明るい茶色の短い髪に、緑色の瞳の背の高い精悍な男性で、フェリシアを見るとサッと頭を下げる。一方のフェリシアは誰かわからないため、どう反応していいのかわからない。


「えっと……」

「申し訳ありません。いつも人がいないので、何の確認もせず入ってしまいました」

 フェリシアが先にいたための謝罪ということだろうか。図書室なのだか誰がどう入っても問題ないはずだとは思うが、彼が腰につけている剣を見て騎士なのだろうと判断する。城内で帯剣を許されるのは皇帝に忠誠を誓った騎士たちだけである。


「いえ、気にしないでください。どうぞご自由に」

 フェリシアはそう答えると、新しい本を選ぶために書架の方へ歩いた。


 確か帝国は立派な騎士団を持っていたわよね。歴史は何となくわかったから騎士団について書かれた本でもみようかしら。


 そう思いながら図書室の書架を眺めていく。フェリシアは書架に並べられた本を眺めるのも好きだった。不揃いな本の背表紙を見たり、本の持つ独特の匂いや空気が好きなのだ。ゆっくりと歩いて眺めているだけでも気が休まる。

 気になった本があり手を伸ばすが届かず、残念ながらクデリの背でも届かない。

「梯子を持って参ります」

 そう言ってクデリが離れると、少ししてさっきの茶色の髪の騎士がやってきた。


「どちらの本ですか?」

 そう問われて、フェリシアが指で本を指し示す。しかし、「帝国騎士団の成り立ち」という題名の本で、彼の剣を見てこれを読もうとしたのだから若干恥ずかしい。

 そんなフェリシアの考えを知ってか知らずか、騎士と思われる青年はひょいと本を取り出してくれる。そして、梯子をとりに行ったクデリに対しても「必要ありませんよ」と伝えてくれる。


 青年は取った本をフェリシアに差し出してくれた。

「ありがとうございます」

「騎士団に興味がおありですか?」

 そう問われたフェリシアは若干気まずくなるが、素直に答えることにした。

「まだここに来て日が浅くて、帝国のいろんなことを学ぼうと思っているんです。丁度貴方を見て、騎士団があったことを思い出したので読もうかと思って……」

 そんな風に答えたフェリシアに、青年は笑った。

「騎士団に所属している、ルアルカ=カイゼントと申します。騎士団に興味を持って頂けてありがたいです。よければこの本で私から説明させてください」

 フェリシアは恥ずかしさと申し訳なさもあり、カイゼント卿の提案に頷いた。クデリが若干何か言いた気な顔をしていたのが気になったが、結局彼に説明をお願いすることになった。



 二人はフェリシアが先ほどまで使っていた書見台に本を置き、隣り合うように並んで本を見ていた。カイゼント卿は「帝国騎士団の成り立ち」という本を利用しながら、旧帝国時代の騎士団からの古い成り立ちから教えてくれた。


 現在の帝国は、旧帝国時代の形を強く受けているらしい。元々旧帝国時代は、1つの騎士団が存在するだけだったが、ある時から大きく3つの騎士団に分かれている。皇帝一族を守るための白の騎士団、皇都内に常駐する黒の騎士団、領土内の各地に送られる青の騎士団。なんでもある皇帝が、皇后を守るためだけに作った騎士団が始まりともされていると言うことでなかなか面白い。昔は各領地に所属する騎士たちもいたのだが、それが許されなくなり青の騎士団が出来上がったとされている。

 所属する騎士には所属する騎士団ごとの制服が支給されており、基本は冠する名前の色の制服を着ることになっている。


「カイゼント卿は、青の騎士団なのですか?」

 彼の腰についている剣は青色の飾りがついているため、そう聞くとカイゼント卿は首を横に振った。

「ついこの間までは青の騎士団に所属していたのですが、最近になって白の騎士団の所属に移動になりまして。ただまだ正式に制服と剣を支給されていなくて、明後日にはもらえるはずです。今は支給待ちで暇を持て余しているのですよ」

 だから騎士なのに日中に図書室に来ていたと言うことらしい。


 現在の帝国の騎士団も、その旧帝国時代の騎士団を受け継いてでおり、変わらず三色の騎士団が同じように存在しているらしい。

 ざっくりと本を流しつつ説明をしてくれたが、本をただ読むより面白くわかりやすかった気がする。


「ありがとうございました」

「いえ、お役に立てたならよかったです」

 柔らかな微笑みだが、騎士なのだからきっと剣を握ったら変わるのだろうなと言う感想を持つ。

 ふと視界にクデリが視界に入り、そのクデリが珍しく「そろそろ」というような身振りをするため、フェリシアはそれに頷く。


「それでは、私はこれで」

 フェリシアが頭を下げて図書室を出て行こうとすると、カイゼント卿が「あ」と引き留めるように手を挙げた。どうしたのかと思い振り返るが、彼はそっと手を下ろす。

「お気をつけて」

 帰りを心配されたのだろうか。よくわからなかったがフェリシアは小さく頷いてお礼を言った。

「ありがとうございます」

 そうしてフェリシアは図書室を後にした。

 


 自室に戻ってくると、クデリが珍しくフェリシアに不安気な表情を向けた。

「フェリシア様、あんな風に他の男性とお話しされるのはあまり良くありません」

「え?でも、騎士でしょう?」

 他の男性と言っても国の所属の騎士である。

「レンダリオ殿下が悲しまれます」

「それはないと思うけど」

 なんせたまたま連れて来てしまったせいで、しかもレンの都合で納まった仮の婚約者の立場である。

「フェリシア様にも変なお噂が立つかもしれません」

「私は別に気にしないけど、それはあのカイゼント卿に申し訳ないわね」

 そういうとクデリが大きくため息をついた。

 

「フェリシア様はわかっておりません」

「えぇ?」

「このことは、殿下にご報告させて頂きます」

「別によいけれど」

 クデリの心配の理由が全くわからず、フェリシアは首を傾げた。

タイトル若干変えてます…もうこれできっと最後です

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