表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/49

閑話:皇帝の願い

12と共に公開です

「旅に出たい……?」


 息子の言う言葉に耳を疑った。昔から聞き分けが良い子で苦労したことはなかった。やらなければならない学問や稽古も全て受け入れてこなしていた。とても真面目である意味要領のいい子だと思った。


 そんな息子が最近授業を休んでいると言うのは聞いていた。まぁ、たまに休むぐらいいいだろうと思っていた。与えられるものをただ享受するより、自分で考えるべきだ。

 

 そうは思っていたが、その願いはあまりにも意外過ぎた。


「一体なんのための旅だ?」

「……オレが会いたい人がいるから」

 それも意外な答えだった。

「ならば呼び寄せればいい。お前は帝国の皇子だぞ?」

 大半の者がそれに従う。わざわざ出向く必要などない。

「いや、生きてないって言うと語弊があるけど、意識もないからそんな命令は意味がない」

 全く言っていることに理解が出来ず、眉を寄せる。息子も理解されていないと言うことがわかったのか、頭を掻きながら説明をしようとする。


「ざっくり言うよ?古の力を抱く国って知ってるだろ?そこの城で眠る女王様に会いたいんだ」


 ざっくりと言った言葉は、さらに理解に苦しむ言葉だった。

 古の力を抱く国とかつて言われていた国は、とうの昔に滅んでいる。その滅んだ国の女王に会いにいくことを望んでいるなど、まるでお伽話のような話だ。


「百年ぐらいずっと眠ってるらしい」


 まさにお伽話だ。

 全く我が息子らしくない発言だ。しかし、その表情は嘘偽りを言っているようには見えず、首を傾げたくなる。


「……、その人に会ったら戻ってくるのか?」

「うん」


 一つ気になっていたとすれば、レンの執着のなさだ。物にも人にもこだわっていない様子が気になっていた。欲しいものがなければ、人は欲を出しようがない。

 珍しく自分のやりたいことを述べる息子に、否とは言えない。


「だが、お前ももう直ぐ20歳だ」

「……わかってるよ」

「立太子も、結婚も決める必要がある」

「わかってる」

「特に結婚は……」

「わかってるって!結婚相手ぐらい自分で見つけるよ。帰った時には連れてくるから!オレのいない間に勝手に決めるなよ!」

「わかってるならいい」


 いつもなら結婚相手すら考えることを放棄して、親の決めたことに従いそうなのに珍しいなと思う。


 女か。女王って、まさか、そう言うことなのか?

 今まで全く女性に興味のかけらも持たなかったやつが?突然?


 意外すぎる展開に息子の考えが気にはなったが、おそらくはっきりとは答えないだろうと思い、聞くことは諦めた。

 これは認めるしかないのだろうなと思う。じっと黙って見つめてくるレンに重々しく頷いた。


「必ず帰って来なさい」

「ありがとう!」


 まだ少年のように笑う息子に、困ったように微笑むしかなかった。息子を信じてはいるものの心配になる。

 普通に考えれば百年も経っていれば人は死ぬ。眠っているとは生命活動の維持を意味しているのか?考えたところでわかりはしない。


 まぁ、何もなければ余計に早く帰ってくるだけだろう。



 そう思ったのだが、まさか本当に連れ帰ってくるとは思わなかった。しかも、伝承の姫そのものの姿の女性を。伝承の姫は、彼の国の姫のことだったのだなと今更思う。すでに国は無くなり、その色彩は失われたはずなのに。


「これは、参ったな」

 本当に百年眠ってたのか?よくそれを目覚めさせようなどと思ったなぁ……。

 

 目の前で繰り広げられる、レンと女王のやり取りは見ていてとても微笑ましい。


 なかなかお似合いだが、女王様の方はさっぱりレンには気がなさそうで、……これは見ものだな。


 面白さに口が緩むのを感じながらなるべく真剣な顔をしてみせる皇帝だった。

周りの人がどう思ってるとか書くのも結構好きです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ