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12.皇帝陛下とお茶会

本日2話版更新です

 そう思って挑んだお茶の席は、皇帝と二人きりだった。しかも、侍女たちも下がっている。

 丸いテーブルの席に向かい合うように座っているが、さすがに近い距離で緊張する。皇帝陛下は、レンと同じ濃い藍色の髪で、全ての髪を後ろに流している。レンとは違い男らしいという言葉が似合う。おそらく歳も40代前半と思われ、まだ若いことがわかる。


 なんで呼ばれたのかしら。やっぱり百年の眠りから覚めたような怪しいやつなんてって、感じかしら。


 そんなことを考えながらも相手が一国の主人なので、フェリシアは、自然と女王だっころの雰囲気を取り戻す。決して相手に弱みは見せないため、決まった穏やかな笑顔を振り撒く。

 レンの婚約者として振る舞うのであればもっと違う対応をすべきだったのかもしれないが、身体に染みついた反射的な対応は変えられなかった。


 そして気になるのがじっと見つめられるところだ。


「まだ信じられないのだが、君は本当に彼の国の?」

 最初の謁見の間ではその外見から信じるとは言っていたがやはり信じがたいものがあるのだろう。

「証明する術がありません」

 フェリシアは事実を端的に言った。今彼女の身分を保証してくれるのはケルティアの王がくれたペンダントだけだ。フェリシア自身の血統を証明はできない。


 しかも今は精霊も見えない。


「ご不安でしたら、殿下との婚約破棄については受け入れますが」

「いや、そうじゃない。帝国の者であれば、誰もが憧れ、恐る存在なのだよ」

 フェリシアには意味のわからない言葉だ。

「私もあと十ぐらい若ければなぁ」

 じっと別の意味の瞳で見つめられる、フェリシアは耐え難くなる。あまりに強い視線で見つめられるためフェリシアは耐えきれなくなって目を逸らした。多分今は顔が赤い。

「ご冗談を……」

 フェリシアの言葉に皇帝は笑うだけだった。

 

「しかし、レンほどの熱意が足りなかったのだろうな。君と話している時のレンはあまりみたことのないほどいきいきしていた」

「…….他の方に聞いた時にも思ったのですが、私の知っているレンとは、違うようです」

「あいつがあんな風に誰かに甘えてるのは珍しい。君だからだろう」


 甘えてるの?あれは。


 肯定しがたくて眉を寄せると皇帝がお茶をすすめてくる。お茶の席でお茶を飲まないわけにもいかず、フェリシアは目の前のカップを口にした。

 爽やかな香りが広がるお茶ですっきりとして飲みやすい。


「あれでも人一倍プレッシャーを感じてるはずだ。根が真面目で、勉強や剣術、学問と称されるまのは何でも淡々と取り組んでいた。だが、ある時から少し様子が変わったんだ」

 確かに侍女もレンが勤勉であると言っていた。フェリシアはあまりそんな様子をみたことはないが、どうやら事実のようだ。


「突然、精霊に関心を持つようになってな」

「精霊ですか」

「あぁ」

「城中の精霊に書かれた本を読み漁っていた」

 旅は精霊に関わるところを巡っていたと言っていたので、その本の影響なのかもしれない。


 ウィードに会ったのがきっかけかしら。


「旅をしたいと言ってきたときは驚いた。そういうタイプだとは思っていなかったから、まさか国から出て行きたいなどと言うとは思わなかった」

 懐かしむように話す皇帝は今の表情としては穏やかな気がするが、当時はどう思われていたかはわからない。唯一の後継者が、戻ってこない可能性だってゼロでは無い。


「まぁ、でもよかったと思っている。顔つきも変わった。君を大事に抱えて帰ってきたときは驚いたものだ」

「それは!」

 恥ずかしくなってフェリシアが声を上げるが皇帝は楽しそうに笑うだけだった。


 これ、もしかして色んな人から言われるのかしら……。


 そんな風に思いながら顔を赤らめていると、皇帝がふと顔を上げて入り口の扉を見た。

「もう来たか」

 フェリシアにはなんのことかわからず首を傾げると、突然入り口の扉が開いた。


「フェリシア‼︎」

 何故か焦った様子のレンが扉を開けて入ってきたのだ。フェリシアは訳がわからず瞬きをしているが、皇帝は楽しそうに含み笑いをしている。

 レンは素早くフェリシアの隣に立つと、皇帝を睨みつけている。

「どうしてフェリシアと二人きりでお茶をする必要があるんだよ」

「少し話をしてみたかったのだ」

「オレがいたっていいだろ」

「お前は立太子の件で忙しいだろう?」

 皇帝の言葉にレンがギョッとした顔をする。そして不安げにフェリシアを見た。


 私に言ってないものねぇ。クデリから聞いたけど。


「客人をもてなすのも皇帝の仕事だろう?」

「客人じゃなくてオレの婚約者だ」

「私に牽制なんてしなくていいから、さっさと戻りなさい」

「……フェリシアも部屋に戻るよ」

 レンの言葉に皇帝が呆れたように手を振った。


「お菓子は後で部屋に持って行かせよう」

 テーブルに置かれた手をつけられなかったお菓子についていっているのだろう。少し食べてみたかったのでフェリシアとしては嬉しい。

「ありがとうございます」

 そうお礼を言うとレンがフェリシアの手を掴み、引っ張られるように部屋を出ることになった。


 扉がパタンと閉まるとレンがフェリシアの両肩を掴む。

「何もされてない⁉︎」

「されないわよ」

「口説かれてない⁉︎」

「ない、かな」

「何で言い淀むの⁉︎」

「十ぐらい若ければって言われたぐらいだから」

 レンの目の色が変わりもう一度部屋に戻ろうとするので、フェリシアは慌ててレンの腕を掴み止める。

「陛下の冗談でしょう!」

「は?何言ってんの。今皇后いないからあの人は選びたい放題だよ。フェリシアのことだって本気になれば……」

「だから、本気じゃないから出ていくのを許したんでしょう?」

 フェリシアの言葉に、レンが少し落ち着きを取り戻す。


「貴方にとっても私は仮の婚約者でしょ?そんなにむきになってくれなくていいわ」

 そう言うと何故か悲しげな視線を向けられる。

「そうだとしても、オレは自分の婚約者を無碍にしたりしない」

 レン向けてくる強い視線は皇帝に向けられたものとよく似ていて戸惑う。


「そ、それより、立太子って聞いてないんだけど!」

「あ」

 レンの顔がしまったという顔に変わり、視線を逸らしてくる。フェリシアはむっとして、レンの頬をつねる。


「いてっ‼︎」

「婚約者を無碍にしないのよねぇ?私が他の人から情報聞いてどう思うか考えたのかしら?」

 フェリシアの怒りの声にレンが慌てる。

「ごめん!違う!フェリシアには迷惑かけないようにと思って!」

「立太子という大事な行事を除け者にされる婚約者はどうなの?」

「ごめんって‼︎」

「これからはちゃんと教えて。仮の婚約者だって、それなりに婚約者としてちゃんと働くわよ。いい待遇受けてるんだし」

「はい……」

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