11.わからないことがたくさんあります
次の日、目を覚ますととてもにこにこしたクデリがいた。何を言っても言い訳しているように聞こえる気がして、フェリシアは何かを言うことは諦めてその温かい目を受け入れることにした。
「朝食をレンダリオ殿下がご一緒されたいそうです」
「わかったわ」
起きた後の準備はクデリが進めてくれる。顔を洗い、ドレスに着替える。これについてはフェリシアも特に文句はない。ドレスもシンプルなものを選んで貰えているお陰で動くのは楽だ。
百年も経っているためおそらく今の流行りがこういうシンプルなデザインなのだろう。薄緑色のドレスに袖を通すと、化粧や髪整えられる。
クデリについて部屋の外へ出ると、丁度昨日の扉からレンが出てくるところだった。レンと目が合うと、レンは目を見開いて驚きの表情でフェリシアの側までやってくる。
その間にクデリがすすっと下がって行ったのは言うまでもない。そこまではいいとして、レンの次に発した言葉にフェリシアは衝撃を受ける。
「どうしてそこの扉から出てきたの⁉︎」
「え?」
「フェリシアの部屋って下の階だっただろ?」
「……部屋を移動するって言われたわ。貴方の婚約者だからって」
昨日と同じ言葉を繰り返してみると、レンがまたしても驚いた顔をする。
「じゃあオレの部屋の隣になるってこと⁉︎」
昨日話したはずなのに本気で驚いている様子のレンにフェリシアの記憶がおかしいのだろうかと思ってしまう。
まさか夢だった?
「昨日夜、話したわよね?」
「え、夜?昨日の夜はお酒いっぱい飲んじゃったからさ、早く寝ちゃったんだよね」
「記憶ない系の酔っ払いだったのね」
「え?なんの話?」
ってことは、あの恥ずかしい思いさせられた匂い嗅がれた件はまったく覚えてないってことね⁉︎なんかよくわかんないけどイラッとする!
「昨日夜私と話したのよ」
「え⁉︎そんな覚えひとつもないけど⁉︎」
「今みたいに廊下で出くわして、私に水差しをくれたわ」
「……確かに今朝いつも置いてあるはずの机の水差しがなかった」
匂いを嗅いできたことも言ってやろうかと思ったが、話すこっちが恥ずかしくなりそうでやめておいた。
「……もういいわ。朝食はどこで食べるの?」
「あ、案内する」
自分の記憶がないところでフェリシアと話しているらしいということに少し動揺したのか、レンは思案しながら歩いていくが、どうやら全く思い出せないようだ。
朝食は丸いテーブルに向かい合うように座る形だぅた。いくつもお皿が並べられており、パンや卵、ハム、ソーセージ、野菜や果物などが乗っており、どれもとても美味しそうに見えた。
旅ではパンにスープだけで特に文句もない二人だったので不思議な感じだ。
「フェリシアは嫌いな食べ物とか、食べれないものはない?」
「特にないわ。レンは?」
「ホントは豆が好きじゃない」
「そうなの?でもスープとか食べてたじゃない」
「旅の最中に食べ物選んでたら生きてけないし」
「それもそうね」
二人でのんびりと話しながら食べる朝食は意外にも楽しかった。
「オレちょっと忙しくなりそうで」
「私のことは気にしないで」
「いや、そういうわけにも」
「旅に行っていた分やること溜まってるんじゃない?」
図星だったようでレンは苦い顔をする。
「オレも息抜きはしたいから、その時は付き合ってよ。あと朝食だけは一緒に取ろ?」
「それぐらいならいいわよ。ところで私ってどれぐらい自由に移動は許されるの?」
「城の中のこと?この階にから下は自由にでいりしていいよ。あと敷地内も別にいいかな。ただ、城の敷地からは出ないで。どうしても出たい時はオレを呼んで」
「わかったわ」
「知らない人について行っちゃダメだからね」
「私をなんだと思ってるの?」
***
どうやらレンが忙しくなるのは戻ってきたばかりだからというわけだけではないようだ。
「立太子?」
「えぇ。お聞きになっていませんか?」
クデリが言葉にフェリシアは笑って誤魔化した。
聞いてない。
立太子するということは、皇帝の後継者として認められるということである。おそらくなんらかの式典などもあり、その準備にいそがしくなるのだろう。
まぁ、私は一時的な婚約者だものね。全部言えるわけないわ。
フェリシアはそう考えた。納得してお茶を飲んでいるとクデリが恐ろしい事を言ってきた。
「午後は皇帝陛下からお茶のお誘いがございます」
「え?皇帝陛下?」
「はい」
「何で……?」
「そこまでは私もわかりかねます」
申し訳なさそうに謝るクデリだが、皇帝の意図などわかるはずがない。聞いたフェリシアの方がまちがっているのだから、フェリシアは聞いたことを謝った。
どうして皇帝陛下が?
あ、もしかしてレンと三人でってこと?