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10.酔っ払いは厄介です

 いくらなんでも、知らなさすぎるわ。


 フェリシアは、形だけとはいえレンの婚約者としてどう言う立ち回りが必要なのか考えておく必要があると感じていた。


 仮とは言え、婚約者だものそれなりにしないとね?


 部屋に戻ると、クデリがフェリシアを待っていた。

「お部屋を移動することになりましたので、ご案内します」

「え?移動するの?」

「レンダリオ殿下の婚約者様ですから」

 先ほど決まったばかりだというのに、もうクデリにまで話がいっているらしい。

「お部屋の準備は終わっておりますので、ご案内させて頂きます」

 

 早くない?


 そう思っても流石に口にはしなかった。

 クデリの後をついて歩きながら、城の中を上がっていくことにフェリシアは嫌な予感しかしなかった。


「ねぇ、そんな上に行くの?」

「はい。レンダリオ殿下の婚約者様ですからもちろんです」

 城というのは基本的に上に行くほど、上位の者が住んでいる。つまり、婚約者になったフェリシアもそういう扱いがされているということなのだろう。


「クデリから見て、レンはどういう人物なの?」

 少しでも情報が欲しいフェリシアは前を歩くクデリにそんなことを聞いてみた。

「レンダリオ殿下ですか?フェリシア様の方がよくご存知かと思いますが、真面目で堅いイメージが強いでしょうか」

 

 真面目で、堅い?


 フェリシアの知っているレンとかけ離れたイメージで、思わず首を傾げた。

「昔から勤勉な方だと聞き及んでおります」

 

 勤勉?旅に出てるのに?


 ますますレンのことがわからなくなりフェリシアはさらに首を傾けることになる。

 首を捻りながら聞いた情報を考えてみたものの、全く繋がらず諦めた。


 程なくしてクデリの足が止まった。

「こちらのお部屋でございます」

 そう言ってクデリが示した部屋の扉が、あまりに豪華でフェリシアは目を細めた。


 一時的な婚約者なんだけどな……。


 申し訳ない気分になるが、クデリの笑顔を見て何も言えなくなる。仕方なくフェリシアは、すすめられるがまま部屋の中に入った。


 先ほどまでの1室だけの部屋ではないようで、入った先はテーブルとソファの置かれた部屋になっていた。さらに先に扉が2箇所あり、別の部屋があるようだった。クデリの説明によるとどうやら寝室と浴室らしい。さらに大きなクローゼットもあるようで、仮の婚約者には過分なものだとフェリシアは思った。


「……私には勿体無い気がするのだけど」

 思わずそう呟いてしまうと、クデリが驚くほど真剣な表情で振り返った。

「そんなことはございません!レンダリオ殿下のご婚約者様でございますよ!あのレンダリオ殿下の!」

「そんなに言うほどなの?」

「レンダリオ殿下はずっと婚約はされておりませんでした。どの貴族令嬢にも靡かないレンダリオ殿下でした。それが、それが、おかえりになられた時に一人の女性を抱えて来られたではないですか!あぁこれは間違いないと思いこちらの部屋も準備しておりました!」

 謎にクデリのテンションが上がっていくことにフェリシアは申し訳なさを感じずにはいられない。


 なるほど、だから早かったのね。抱えてたのは、私が意識失っちゃったから仕方なくだね……。


「大切なものを大事に抱えるようにご帰還されたんです!私見てませんけど!もう、みんな大興奮でした!」

 これはきっと侍女たちの中での噂話なのだろうとフェリシアは思う。残念ながら彼女たちが思うようなときめき展開ではない。どちらかというのレンにしてみれば人の命に関わる状況で青ざめていたに違いない。


 否定すべきかどうか迷っている間に、クデリはテンション高いまま出ていってしまった。

「……、まぁ、レンが自分で否定するわよね」


 めんどくさくなったフェリシアは、とりあえず疲れたためソファに深く座り、そのままうとうとと眠り始めてしまった。



 ハッとして目を覚ますと、誰かがソファに座ったままのフェリシアに上掛けをかけてくれたようだつた。


「やっぱり疲れてるのかしら」

 思わず欠伸が出てしまい、フェリシアは手で口元を押さえながら立ち上がる。外はすっかりくらくなっているようで、藍色の空が見えた。星が瞬く様子はフェリシアの住んでいた場所、時代とも変わらない。

 それなのになんだか寂しい気分になってしまう。


「よくない考えね」


 水差しを見つけてグラスに注ぐとフェリシアは一気に飲み干した。爽やかな香りのする水で、すっと心が落ち着く気がした。

 どうやら喉が渇いていたらしく、水差しの水はあっという間になくなってしまう。


「もう少し飲みたい、かも」


 フェリシアは出入り口の扉へ向かうとゆっくりと扉を開いた。廊下は規則正しく設置されたランプの灯りで灯されている。

 まだあまりこの城の構造をわかっていないフェリシアからすると少し怖さを感じる。


「クデリはどこに控えてるのかしら」

 彼女を見つけられればいいのだが、廊下に人が見当たらない。


 そんな時少し離れた場所の扉がガチャリと音を立てて開いたり。フェリシアはびくりと肩が揺れる。が、出てきた人物が知った顔でホッとする。


「なんだ、レンか……」

 ホッとして呟くと相手も気づいたらしく、フェリシアの方に顔を向けると、嬉しそうに微笑みながらこちらに寄ってくる。

 側まで来てから気づいたのだが、なんだかいつもと様子が違う。頬が赤く上気しており、何より酒の匂いがする。


「いっぱいお酒飲んだのね」

思わず呆れた顔でそう言ってみたものの、レンは気にせずフェリシアに話しかける。

「なんでフェリシアがこの階に?」

「部屋を移動するって言われたわ。貴方の婚約者だからって」

聞いてなかったのかレンは驚いた顔をしたが、とても嬉しそうに笑う。

「そうなんだ。じゃあ、すぐ会えるね」

「どう言うこと?」

「そこがオレの部屋だから」

 先ほど出てきた扉を指して言うレンに、フェリシアはなるほどなと思う。婚約者にしては、待遇がおかしいなと思うが、侍女のあの感じだと、よほどレンに婚約者ができること自体がめでたいことのようだ。


 何か小言を言おうかと思ったが、赤い顔をしてにこにこしているレンに何を言っても無駄そうだなと思い、フェリシアはやめておいた。


「貴方、お酒飲み過ぎなんじゃない?寝なさい。あ、その前に、お水が欲しいんだけどどこにいったら貰える?」

「オレの部屋にあるから持ってていいよ」

 そう言ってレンは自分の部屋の方に戻っていく。ふらふらとした様子が心配で、フェリシアは仕方なくその後ろを歩いて着いていく。


 部屋の中に入ると、フェリシアの部屋と似たような作りになっていたが、入った部屋には大きな執務机のようなものもあった。

 扉に近いテーブルには何本か酒瓶と思われる殻瓶が置かれていた。使用済みのグラスが二つ置かれており、どうやら一人で飲んだわけではないようだ。


「誰とこんなになるまで飲むのよ」

「友達。久しぶり帰ってきたから」


 執務机の方に置かれていた水差しをレンが手にしてフェリシアの方に戻ってくる。ぐらぐらと揺れており、とても見ていて不安だ。

 慌てて水差しを受け取ろうと近づくと、レンとの距離がとても近いものになる。受け取って離れようとしたところで、レンが水差しを持っていない方の手で、フェリシアの腰を引き寄せた。


「え、なに⁉︎」

「フェリシアってなんかいい匂いするよね」

 目を閉じて胸元に鼻を近づけてくるレンに、フェリシアが呆れて顔を退けようとする。

「すんすんしないで」

「えーだってすごくいい匂い。もっと嗅ぎたい」

「やめなさい!変態に思われるわよ!」

 酔っ払っているせいか、非常に近い距離に寄ってきて、フェリシアの胸元の匂いを嗅ぐレンに流石のフェリシアも恥ずかしさに襲われる。


「もうやめなさいって!」

「もうちょっとだけ」

「レン!やめてって!」


 その時、扉がギィと軋む音が部屋に響く。その音に視線を向けるとそこには真っ赤な顔をしたクデリがいた。

「も!申し訳ございません!扉が開いていたので閉めようとしたのですが!すぐに離れますので!」

 バタンと大きな音を立てて閉められた扉と廊下を走り去る音にフェリシアはため息をついた。


「絶対誤解されたわよ」

「何が?」

 まだ匂いを嗅ごうとしているレンの頭を軽く叩くと、フェリシアはレンが手にしていた水差しを受け取る。

「貴方は今すぐベッドに行きなさい」

 フェリシアが寝室と思われる扉を指さすと、レンはしかたなさそうにフェリシアから手を離した。

「わかったよ……」

 トボトボと歩いていく背中が寝室に入るのを見送ると、フェリシアは息をついて自分の部屋へと戻った。


「ん?レンは一体なんのために部屋を出たのかしら?」

 それは結局分からずじまいだった。

書いてて楽しかったです。

そしてタイトルちょっと変更しました。

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