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第五話 霜月さんとの学校

 俺は今日も学校に向かう。だが俺は正直言って怖い。彼女がもうすでに俺に飽きてるかもしれないと言うことが。


 もしかしたら俺が学校に行ったら、昨日のことなど何もなかったかのように今まで通り、モブの一人として全く接してくれないかもしれない。その場合はそれはそれで割り切るしか無いかもしれない。ただ、それがただの女子だったらいい。しかし、その子は俺の好きな子なのだ。そんなことになった場合、俺の精神が持つか分からない。


 俺は学校に着くやいなや、すぐに椅子に座る。俺になど皆興味がないから、俺もおはようみたいな挨拶をしないで椅子に座る。おはようなど言うのは友達のいる人の特権だ。俺には関係がない。


「おはよう! 有村くん」


 おはようなどと言うのは友達のいる人の特権だと言ったのは誰だ?


「おはようございます!」

「なんで敬語なのよ」


 挨拶された。こんなの学校生活初である。まさかこんな日が来るとは思わなかった。それにその人が好きな人なのである。こんなに幸せなことはない。


「それはそうと、いつも学校くるの早いの?」

「まあ大体遅刻がこわいから十分前には来てるな」

「偉いね」


 彼女は俺を褒める。


「そんなこと言ったらあなただっていつも俺より前に来てるじゃないですか」

「あなたってなんですか? 私には奈由香というちゃんとした名前があるんだから」

「いや、なんか名前を呼ぶのって恥ずかしくて」

「じゃあ次からちゃんと名前で呼び合いましょう!」

「わかった奈由香さん」

「うん、雄太くん」


 まさか名前で呼べる権利をもらえるとは。幸せだ。だが、周りの視線が気になるな。まあそれは仕方ないことだろう。俺以外にも奈由香さんのことを好きな人はたくさんいるのだ。俺なんかが奈由香さんと話してておかしいと思っているのだろう。


「そうだ!」


 奈由香さんが急に思い立ったように話しかける。


「なんか学校で出来ることはないかな?」

「学校で出来ることですか?」


 聞き返す。


「うん。私も放課後だけじゃなくて、学校でも遊びたいからさ」


 友達なんてたくさんいるだろうに、おかしなことを言うな。


「ならまずはお弁当を一緒に食べるとか、休み時間に雑談するとかですかね」

「そうね」

「ところでいつもは学校で何をしているんですか?」


 奈由香さんはいつも友達と楽しそうに話していることは知ってはいるが、念のために聞く。


「友達と遊んでるよ。でもいつもたわいのない話ばっかりだからあんまり大声では言えないけど、あんまり面白くない」


 そうだったのか、いつも楽しそうにしてたのはただの演技だったというわけか。


「だから私は今は雄太くんと話す方が楽しいな」


 全くこの人は自分の可愛さを理解してない。そんなこと言われたら俺じゃなくても男子はイチコロだよ。


「だからホームルームまで、五分だけだけど話そう?」

「いいですね」

「そういや今日も敬語抜けてなくない?」

「ああ、すみません」

「だから敬語禁止だって。別に私が上なわけじゃないし」

「そうだな」

「それでいいの。今日はどれぐらいいけるだろうね」

「まあ、俺は元々敬語を結構使いますし、どうでしょうかね」

「また敬語使っちゃってるじゃん。罰則をつけようか?」

「罰則?」

「うん、次敬語使ったら罰として何がいいだろう」


 奈由香さんは考え込む。


「そうだ! 私がビンタしてあげる」

「それは怖いですよ」


 そう言うと奈由香さんが手を振り上げてる。


「もう始まってるの!?」


 そして軽くビンタされる。


「あんまり痛くない?」

「当たり前よ、私をなんだと思ってるの。私はそこまで酷い人間じゃないよ」


 どうやら奈由香さんは手加減してくれていたようだ。ということは俺は単に好きな人からビンタされるというプラスのことしか起きてないようだ。


「そういえばそろそろチャイム鳴り、鳴るな」


 俺は敬語にしかけたところで敬語になってると気づきタメ口に戻した。


「今危なかったねー。もう少しで手をまた振り上げてたどこだよ」

「勘弁してくださ、くれ。というか俺は別にビンタを罰ゲームとして認めたつもりはないんですが」

「それは私の意思で決められるから」

「傲慢だな」


 キンコンカンコンキンコンカンコンとチャイムが鳴った。


「あ、なったね。じゃあね」

「ああ、また」


 はあ、疲れた。と心の中で思った。敬語には慣れてないし、好きな人と喋るのは楽しいけど疲れる。


「ただいまー」

「おかえり」


 ホームルーム終了後に奈由香さんが帰ってきた。


「そういや友達とかはいいのか?」

「うん! 別に私がいなくても彼女たちは上手くやってるし」

「そうか、それなら良かった」


 俺的に怖かったのは、奈由香さんの友達の勝手な嫉妬だった。もしかしたら奈由香さんの友達に私たちを捨ててあの男子と遊びやがって、あの男子が誘惑したんだ、とか言われたら困る。


「そういえばさー。あの後お母さんにはなんで説明したの?」

「ああ、別に彼女じゃなくて友達って何回も説明してやっとわかってもらえた」


 正確に言えば、母さんは俺が奈由香さんのことを好きなのを知っていたから、俺がきちんと説明して、こんなこんな幸せなイベントがあったんだよと、興奮しながら喋っていた。しかし、こんなことを奈由香さんに知られるわけにはいかないから嘘をついておく。


「よく納得してくれたね。私みたいな美少女が来たのに」

「ああ、なんとか説明したよ。その美少女がただの友達であることを」


 少しずつタメ口にも慣れてきたかもしれない。


「ツッコんでよ」

「でも実際奈由香さんは美少女ですから」

「ありがとう。ところで、友達止まりでもいいの?」

「え?」

「揶揄ってみただけ」

「なんですかそれは」


 揶揄じゃなかったらいいのにと、心の底から思う。友達に慣れて満足しているが、本当のことを言えば彼女彼氏の関係になりたいのだ。たしかにこんなところで満足していてはいけない。



「キンコンカンコンキンコンカンコン」


「あ、もう十分たっちゃったね。じゃあまた」

「ああ」


 そして彼女は走って行った。今から始まる苦痛な授業も彼女と後で話せると考えれば気分が楽になる。今からもう楽しみだ!

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