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★CCS《サイボーグ犯罪対応班》シーナ★  作者: 湖灯
★士官候補生シーナ
3/127

【道場で①(at the dojo)】

***登場人物紹介***

挿絵(By みてみん)

シーナ・クラウチ (鞍内 椎名)

 階級 士官候補生

 身長 170㎝

 体重 57㎏

 20歳のCCS最年少隊員。

 父親は医療機器メーカー『クラウチ製作所』の社長で、肢体不自由者が完全なかたちで社会復帰するために必要なサイボーグシステムの開発者でもある。

 活発な性格で、どこにでもいる人懐っこい普通の大学生風だが、事件になると周囲の制止も聞かない無鉄砲な性格に豹変してしまう。

 格闘技は合気道やムエタイなどを幼いころから学んでいて、対サイボーグ柔術の生みの親として現場では非常に優れた格闘能力を発揮する。

 車の運転は、超が付くほど荒い。



挿絵(By みてみん)

 バーン‼


 基地内にある道場で畳を叩く音が響く。


「遅い‼ 実戦では、道着の数十倍も重い防弾スーツを着ているんだ。もっと早く!」


「オーケー」


 勤務時間を終えた後、道場での稽古はシーナの日課。

 そしてお相手はいつもシーナの目付け役であるコーエン伍長は、身長192㎝、体重95㎏の堂々とした体格を誇る細マッチョ。

 対するシーナは身長170㎝、体重は自己申告で57㎏。


 バーン‼


 再び畳に打ち付けられるコーエン。

 仰向けになった道着の胸からは、隆々と盛り上がった汗だくの大胸筋が激しく上下に揺れていた。


「もう一回‼」と大声で叫びながら起き上がるコーエン。


「私の手ばかりに気を取られずに、もっと体の動きに注意をはらえ!」


 シーナがコーエンにアドバイスを与える。


「ウッス‼」


 勇ましい声とは反対に、コーエンの表情はOK寸前のボクサーのように赤く、足取りもフラフラ。


 そう。

 道場ここではシーナの方が、はるかに強い。


 キュッキュッキュッ。

 畳の擦れる音、そしてまたバーン!と受け身を取る音が聞こえた。


「チキショー、なんで上手くいかねえんだ。才能ねえ……」


 投げ飛ばされて、畳の上で仰向けに寝転んだままコーエンが天井を見上げて言う。


「誰にも才能なんてない」


 コーエンの隣に腰を下ろし、同じように仰向けで寝転んだシーナが言う。


「それを言うなら“誰にも才能はある”じゃねえのか?」


「いや、これでいい」

「なぜ?」


「私たちは機械の様に、あらかじめ動作をインプットされているわけではないだろう? 全ての能力は経験に基づくものだ。だから私達にはもともと何の才能もないってこと」


「慰めを言うなよ。じゃあビアンキ中佐はどうなる?俺より1つ年上の26だけど、11歳で名門大学の医学部に入り、そこを卒業した後に入った士官学校もトップで卒業して、もう中佐だぜ。あれは才能じゃねえって言うのか?」


「才能じゃないよ。どんなにIQが高くても勉強することや努力することが好きでなければ、只の危ない人間に成り下がってしまう。コーエンは学生時代なんのスポーツをしていたの?」


「高校ではバスケと野球、大学ではアメフトの選手だった」


「だから足が速いのか」


「背が高けえぶん、足も長いからな」


「それは違うと思う。コーエン。君は走るのが好きだった。 違うか?」


「ああ、好きだった。 でもなんで分かる?」


「足の長い全ての人が、足が速いわけではない。走るのが好きで、早く走るために努力や研究をして、その上に足が長いから君は人より速く走れるようになった。そうだろう?」


「じゃあシーナは? シーナは俺よりも身長で22㎝、体重では40㎏近く軽いんだぜ。いくら合気道の達人でも体格的なハンデは大きくないのか?」


「経験年数が違う。私が合気道を始めたのは5歳の時で、それから今まで合気道を忘れた日なんてない。15年間も努力してきた。それに合気道は“力の勝負”ではない」


「柔よく剛を制すか」


「バカ、それは柔道よ。合気道は、人間の体のつくりを利用した体格差や体力によらない護身術よ」


「それは理解しているつもりだが、何故あれほどまでに人間の力を越えた強化パーツを装着した奴らまで倒せるんだ? 俺にはシーナの才能としか思えないぜ」


「それは相手が人間だからよ」


「人間だから?」


「いくら腕や足に強化パーツを装着していても、その他の大部分は人間よ。言ってみれば違法に改造されたサイボーグパーツは人間の一部分であって全部じゃない。だからいくら強化パーツを装着したところで人間の体は一定以上の力に耐えられないし、バランス感覚は目や耳からの情報を脳で処理するのだから、人間には猫や猿のような器用なことは出来っこないのよ。相手を強いと思ってはダメ」


「わかった」


 コーエンが先に起き上がり、まだ畳の上であおむけに寝転がっているシーナに手を差し伸べる。


「ありがとう」

「なんのなんの」


 笑顔が戻ったコーエンにシーナが上達のヒントを授け、コーエンの手を借りて起き上がる。

 目の前に立つ巨体を見上げてシーナが笑って言う。


「やっぱり、たいした力ね。私なんか何もなかったように引き上げる」


「ああサンダース軍曹には敵わないが、実は力も俺の自慢の一つだ」


「もうひとつ」

「もうひとつ?」


「そう。もうひとつ大切なことを教えてあげるわ。それは過剰に相手に勝とうと思わないことね。あと力自慢もね」


「それは何故?」


「勝とうと思うと力が入るため、筋肉が硬くなって動きが鈍くなる。そしてその力のために柔軟性を損なうことになるのよ。頑張れウォルター・コーエン」


 ポンと軽くコーエンの肩を叩いて励ますと、シーナは道場を後にした。

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