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婚約破棄と追放

 エミリアはついこの間まではこの国、アストレイ王国の聖女だった。

 聖女とは、奇跡を行使して人々を守り、癒す存在。

 回復魔法を行使できるほか、固有の能力を行使できる。

 世界に祝福を受け、愛された存在、それが聖女だ。


 その存在は、大抵発見され次第国に保護されるのがお決まりになっている。

 元々エミリアは平民出身だった。

 どこにでもいる、裕福でもないが貧しくもない商人の家に生まれた長女。

 商人として生きるための勉強をしながら、両親や弟、妹とともに、仲良くつつましく暮らしていた。


 ある日、聖女にしか使えない回復魔法が発現するまでは。

 たまたまけがをした弟を見た際に、無意識に回復魔法を使って傷を治していた。

 エミリアのうわさはあっという間に広まり、あれよあれよという間に聖女としてアストレイ王国に迎え入れられた。

 さらに、アストレイ王国の第一王子と婚約することになった。


 家族と離れて暮らすのは怖かったしさみしかったが、国のためになることや、家族にも補償金が支払われること、加えて手紙などでやり取りが可能であることも教えられた。

 


 国のため、家族のため、そして自分の幸せのため。

 全部叶えるためにエミリアは聖女になろうと決意した。

 そしてこの一年間、頑張ってきた。



 しかしあっさり追放されたのだ。

 隣国から、彼女よりも有能な聖女が見つかったらしく、エミリアは用済みということで捨てられた。

 加えて、エミリアはアストレイ王国の第一王子と婚約していたのだが、それも一方的に破棄されてしまった。

 辺境にて回復魔法を使って聖女を必要としているらしく、そこの修道院に派遣されることがすでに決まっている。



 平民上がりのエミリアにとっては、間違いなく出世。

 それは間違いない。

 だが、どれだけ取り繕ったところで左遷されたことには変わりない。



「王都から、町の名前も知らない辺境の田舎まで左遷なんて、それも一週間後に荷物をまとめて出立しろだなんて。家族に会えないかもしれないだなんて」


 

 聖女というのは、国に選ばれた存在だ。

 聖女に認定された時点で、動向は国家によって管理され、自由はほとんど与えられない。

 だから辺境に派遣されるとなれば、王都の平民街にいる家族とも二度と会えない可能性がある。

 これまでも会えなかったし、手紙でやり取りはしていたが、今回の左遷は二度と会うことができないと宣告されるようなものだった。


 そしてそれ以上に、エミリアには耐えがたいことがあった。



「好きだったのにな……」



 自分の部屋にて、窓の外を眺めながらため息を吐く。



 エミリアは、婚約者だったイサーク第一王子のことを思い出していた。

 昨日、パーティにて何の前触れもなく、エミリアとの婚約破棄並びに、エミリアの辺境への追放を宣言。

 そして、すぐさま隣国の優秀な聖女との婚約を発表した。

 彼に会えるのが嬉しくて、ドレスを着て、おめかしをして。

 それが馬鹿みたいに思えて、泣きながら大広間を飛び出していった。

 傍から見れば滑稽にも思えたかもしれないが、エミリアにはどうでもよかった。

 それくらい、彼のことが好きだった。



 人生で初めて、異性として好きになった人だったから。



 少し厳しくて、態度は荒々しいことがあって。

 けれども天使のように美しくて、王族らしい気品があって、誰よりも誇り高くて。

 本当に、理想の王子様だった。ほんの昨日までは。



「私の何がいけなかったんだろう」



 エミリアの口から、本心が漏れ出てしまう。

 眦から、涙が零れ落ちてしまう。

 婚約破棄をたたきつけられたときに、ボロボロ泣いて、もう枯れ果てたと思っていたのに。

 まだ涙が出てしまうのか。


 ああ、これはダメだ。

 余計なことは、考えてはいけない。

 暗いことを考えていてはいけない。

 考えるのみならず、口に出すのはもっといけない。

 明るく復讐するって決めたんじゃないか。


 聖女とは、光を司る存在だ。

 心にある光、正の感情を魔力に変換して、回復魔法をはじめとした奇跡を行使する。

 暗い情念を言葉や行動で発しては、聖女の力が失われる。

 それは、今後の生計が断たれることも意味している。

 復讐のために、自分が犠牲になってはいけない。

 それでは両親や友人にも申し訳が立たない。


 だから、暗いことを考えるのではなく、明るく復讐しよう。

 そしてスッキリしたらたくさん泣いて、笑顔で辺境に行ってまた聖女として生きるのだ。



 「よし!」


 エミリアは、洗面所へ向かい、顔を洗い、タオルで水を拭いてさっぱりした気持ちになった。

 優雅さとは無縁の、最近まで庶民だった彼女なりの気合の入れ方だ。

 まずは、旅に必要な物を買い集めよう。着替えとか化粧品とか……。

 それから、それから……。

 お腹すいたので何か食べてから考えよう、と考えてエミリアはまず食事を求めて護衛とともに貴族街へ出た。


 因みに、この時点では復讐の段取りは全く考えていない。

次回は明日更新します。


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