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いつの間にかの新婚さん

 

 一通りの話を聞いた。


 信じられない。これは驚愕。

 婚約して一年経ったらやる儀式だと言ったのに。騙された。


「だっ、騙したのね!?」


 彼を問いただしてみたが、「婚約している身でありながら騙すも何も無いしそもそも騙されたと思ってるなら騙される方が悪い。君は商人だからそれぐらいは解るだろう?」とあんまりにも饒舌に真剣に言うものだから、そうかと納得。


 確かに。結婚したくなかったなら婚約をなしにして貰うべきだった。そんなコト出来るはずもないけど、それが貴族。そうか。何も騙されてない。だって私も貴族。


「イーサンったら……本当にもっと別の場所で活かしてほしいよ……」

「なんの事ですか」


 ぽつり呟く殿下に、イーサンはキョトンととぼけている。私も何の話かは分からなかった。



 さて。尊いデザートの時間は終わった。

 あとは結果を待つのみ。やれることはやった、伝えたかったことも伝えた。

 とりあえずホッと胸を撫で下ろす。

 そしてそのまま私たちは王宮のそばに構える高級ホテルへと向かう。殿下が気を使ってくださり、わざわざ部屋を取ってくださったのだ。しかも三日間も。一体何故だろう。


「──って何でイーサンまで……ッ!?」

「何言ってるの。これでも幼馴染だからね。結婚祝みたいのものさ。殿下だって仰っていたろう? 夫婦水入らずで、って」

「夫婦、み、水入らず……?」

「はは。エミリー、“そういうコト”だ」

「!!?」

「まさかエミリー、殿下からの祝いを受け取らないわけ、ないよなぁ?」

「ッ……!!」


(そ、そんな大層なものッ……受け取らぬワケにはッ……!)


 いかぬ、となった。

 元々商談に合わせ店の定休日をずらしていたし、今月の納品はほぼほぼ終わらせた。父も、この商談に向けての心労がどっと出てはいけないから、一週間は休んでも大丈夫なように調節してくれた。

(その分父娘で今週は徹夜で何度もゾーンに入ってたけど……。それにそんなに休むつもりもないしね)


 乗り込んだエレベーターは最上階で停まる。そのフロアの宿泊客はただ一組。部屋に入り、商談で使った荷物を置き、ふう、と一息。

 随分と眺めの良いホテルだ。王都が一望できる。

 こんなホテルに私が足を踏み入れるなんてどこの誰が想像しただろう。


 夕影が落ちる街を眺め、染み染みと庶民だった頃に想いを馳せていれば、後ろからぬうっと手が出てきて身体に腕が巻き付いてきた。

 思わず「ひっ!?」と声を上げる。


「嗚呼……エミリー……君は本当に今まで頑張ってきたね」

「へ!?」

「父娘二人でこんな醜い貴族の世界に飛び込んで……様々な視線に晒され裏切られ、本当に本当によく耐えてきたよ」

「っ、イーサン……」

「正直に言うと……君との婚約は非常に不本意だった。親が勝手に持ってきた縁談、しかも新興貴族」

「……」


 後ろから抱きしめられ、耳元で多くの女性が惑わされる声が囁く。

 最近のイーサンは気持ち悪いはずなのに、なぜか今は振りほどけない。


 たぶん、彼が真剣に何かを伝えようとしてるから。


「最初の頃は冷たくあたっていたね。色々順番が間違ってるけど、今更ながら謝りたいと思う。本当に、申し訳なかった」

「そんなこと……」

「君がね、あまりにも輝いていたから、自分の醜い陰の部分がよりハッキリ見えて……だから、見たくなかったんだ」

「醜いなんて、」

「いいや。醜いんだよ。前にも言ったろ? 貴族なんてもの、美しくもなんとも無い。ただ着飾ってるだけ。エミリーは知らないだろうけど、君たちが初めてパーティーに参加したとき、結構噂になってたんだよ」

「そう、なの……?」

「ああ。商人如きが社交界に足を踏み入れて生意気だって、露骨に言う人もいれば、心の奥底で思ってる人が大多数じゃないかな。……俺もそう思ってた」

「っ、」

「でも君ったら瞳をキラキラさせて、ダンスや所作のいちいちに、素直に、純粋に、皆を尊敬するんだもの。そんな君に惹かれた人が多く居たのも事実だ。己の噂を己で覆したんだ。思えば俺も、あのとき……惹かれてしまったのかな」

「えっ?」


(あのとき惹かれた、って……それってまさか、婚約する前にはもう……?)

 私は婚約するまでイーサンのことなど1ミリも知らなかったのに。

 なんだか物凄く申し訳無いような気がして、必死にあのときの事を思い出そうと頑張ってみた。が、やっぱりイーサンが居たかどうかも分からない。


「ふふ、一生懸命思い出してくれてるの? 可愛いね」

「!?」


 窓に映るイーサンと目が合う。

 途端に恥ずかしくなって、思わず顔を背けた。

 白い肌に、ピンクがかったブロンドヘアとペリドットの瞳。本当に女性にモテそうな甘いマスクだ。

 今更ながら、身分不相応。


「んー……、エミリー? これじゃ食べてと言っているようなものだよ」

「ッ、ひゃあ──!?」


 何を言い出したかと思えば、ちゅ、と首筋を吸われた。

 下から上へ上へと口づけがのぼっていって、唇が耳に触れたと同時にきゅんと子宮が疼いてしまった。何たる不覚。


「ふふ。さあ、エミリー。初夜をはじめようか」




 ・・・・・・・暫しの間。




「は??」


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