72 魔王城
「こっちは魔王城付近へとたどり着いた」
『わかった。俺も前へ出るぞ』
二人のサザンは魔王を倒すために、魔王城へと近づいていた。そんな二人に気付いたのか、魔王城から魔王軍が出陣し、銃弾による厚い弾幕を張り始める。
ガルデが伝えたように、魔王軍は高性能な火薬銃を量産し配備していたのだ。とは言え緋砲龍である二人にはその弾幕はほとんど無意味なものだった。それでもそれは二人が龍の力をもっているからに過ぎず、結界内の人々にとってはこの銃弾の雨は脅威でしかない。
「どうする、このまま攻めるか?」
『それで良いだろう。このまま待っていても状況は変わらないだろうからな』
二人は通信魔法を使ってタイミングを合わせ、同時に魔王城へと突き進む。銃弾が二人の体に当たるたびに火花を散らす。それでも二人の硬い外殻は容易く銃弾を弾き、傷一つ付けさせることは無かった。
「さて、城内に侵入出来たわけだがこれからどうするんだ」
「どうせバレているんだ。このまま突っ切っていこう」
魔王城内へと潜り込んだ二人は隠れもせず、堂々と城内を突き進む。魔王軍には既に侵入がバレているため、今更隠密行動をしても意味は無いのだ。そのためこの判断は間違ったものでは無かった。そもそも緋砲龍の姿のままでは隠れながら進むには無理があるため、隠密のために人化するよりも結果的にその方が安全だった。
城内を少し進むと、二人は少し広めの部屋へとたどり着く。
「あれは……何だ?」
部屋の中央には巨大な機械人形が佇んでいた。次元迷宮内でサザンが見たものと同じようなそれは、静かにその空間内に鎮座している。
しかし二人が横を通り抜けようとしたその時、それまでの静寂を破り突如動作し始めたのだった。機械人形は二人が反応するよりも速く、爆発魔法を発動させた。突然の事に驚きを隠せない二人だが、すぐに状況を理解し機械人形から距離を取る。爆炎と煙が晴れた時にはある程度の距離を確保することが出来ていた。
「くっ……やはり簡単には通してくれないか」
「防衛装置、ということだな。だが……そっちも気付いているだろ?」
サザンは表情を曇らせながらもう片方のサザンに問う。
「ああ。この機械人形から、メルの魔力反応が溢れている」
二人は、何故かメルの魔力反応が機械内部から発せられていることに気付いたのだった。
「……倒せばわかることだ。行くぞ!」
魔力反応の正体を確かめるためにも、この先へと安全に進むためにも、二人には機械人形を倒す選択肢以外無かった。
サザンは二手に分かれ、機械人形を挟むように陣取る。そして機械人形の攻撃魔法を避けながら魔力砲を放つ。
命中した魔力砲は確かに人形の表面を溶かし、ダメージを与えていた。しかしどれだけ損傷を与えても、人形は瞬く間にその傷を修復してしまうのだった。
「この魔力……今度はリアのものだと……?」
二人はさらなる謎に苛まれる。人形が自己修復を行う際に、リアの魔力を放っていたのだ。
「修復されるのは厄介だな」
どれだけの攻撃を与えても即座に修復されてしまい、致命的なダメージを与えることが出来ない。そんな状況にぶち当たったサザン二人はほぼ同時に口を開く。
「「こうなったら一点集中だ」」
同じ記憶、同じ力を持つサザンは考えることも同じだった。何しろ一撃で決めなければならない相手には以前出会ったことがあるのだ。
「魔法を集中させる」
「俺も同案だ」
イル・ネクロとの戦いのときに開発した複数の魔法を集中させる付与魔法。それを使い、一撃の威力を底上げすると言う案だった。
人形を挟むように陣取っていた二人は再度近くに寄り、片方に魔力砲を集中させる。緋砲龍二体の魔力砲が合わさった威力は凄まじいものとなった。
そうして放たれた魔力砲は人形に命中し、その機能を停止させることに成功する。その高い威力によって機械人形の中心部の表面に大きな裂け目が出来ていたのは二人にとって幸いであった。そこから中の様子を確認することが出来るからだ。
そうして二人が穴から人形の中を覗くと、そこには信じたくない光景が広がっていた。
「クソッ……どうして二人が……」
人形の中には、メルとリアの二人がいたのだ。
サザンが二人を助け出そうとするも二人の体は全く動かない。二人の四肢が人形内部の有機金属と直接接合されてしまっていたのだ。二人は意思を奪われただひたすらに魔法を行使するための媒体に成り果てていたのだった。
「……許してくれ」
サザンはメルとリアの四肢を切断し、何とか外に引っ張り出す。切断する瞬間「ぁ……ぁぁ……」と苦しそうなうめき声を上げる二人に、サザンは罪悪感で胸が張り裂けそうになっていた。
「すまない……俺がもっと早く二人と合流出来ていれば……!」
「……俺が四人もいてこのザマか」
二人のサザンは己の罪悪感に耐えつつ、メルとリアに止血魔法と回復能力を強化する魔法を付与して一時的な処置を行う。しかしあくまで一時的なものであるため、サザンはもう一人の自分に二人を連れて結界内へ戻るように促した。
「二人を安全な場所に運んだら戻って来る。それまで耐えてくれ」
「ああ。二人を頼んだ」
サザンはもう一人の自分を見送り、魔王城の奥を目指し始める。潜入していたガルデの作った城内地図によって、サザンは迷うことなく魔王城の奥にある魔王の部屋へとたどり着くことが出来た。
「……おかしい」
しかし、そこに至るまでに敵が一切現れなかった。城内に侵入したことはバレている。なのに自分を排除しようとする敵が一切現れないという不気味な状況に、疑問を感じるのは当然の事だった。
何かしらの罠が仕掛けられている可能性も考慮し、サザンは今まで以上に慎重に魔王の部屋へと入る。魔王の部屋には家具や装飾と言ったものが何もなく、ただただ広大な空間となっていた。しかしサザンが気になったのはそこでは無かった。部屋の中央に、一人の男が立っていたのだ。
それだけならば何もおかしいことは無い。魔王の部屋に男が居るのならそれが魔王なのだと誰もが思う。しかしサザンは今、その判断をすることは出来なかった。
「何故、お前が……」
そこに立っていたのは、かつてパーティからサザンを追放した男。あのグロスだったのだから。




