70 再臨せし緋砲龍
「……何ですかこれは。何故ラパル様を貫通して大剣を……。カイリ様……あなた、自分のしていることが分かっているのですか……」
「ああ、この手は使いたくなかった。痛いのは嫌だもんな」
「痛い……? 痛いでは済まないでしょう……。確かに胸を貫通しているのですよ? 心臓は止まっている……もう回復魔法も間に合わない……なのにどうして……」
「それは私が、星龍様の加護を受けているからよ」
「ラパル……様?」
カイリに大剣で貫かれ死が確定していたはずのラパルが平然とした顔でそう答える。
「私たちは星龍様の加護によって、即死しない限り復活することが出来るの」
「そ、そんなの卑怯ですよ……。ですが、それならこちらにも手があります」
教団員は祝福の薬を取り出し、飲み干す。
「はぁ……はぁ……この薬は凝縮に凝縮を重ねた特別なもの。いくらあなた方であろうと、倒すことは出来ないのです!!」
教団員の体に変化が表れ始める。皮膚は破け、内側から金属質な鱗が生えていく。同時に体が巨大化していき、あっという間に天井を破壊する。
「不味い! 今すぐ建物から出るぞ!」
カイリとラパルの二人は建物の崩壊に巻き込まれないように外へと向かって走る。幸い他の教団員はおらず、崩壊に巻き込まれた者はいなかった。
「おおおぉぉぉぉぉ!!」
建物を崩壊してなお、さらに巨大化していく教団員。そしてその過程で、胸の中央に巨大な砲塔が構築されていく。
「はぁ……はぁ……。これが私の新たな姿……緋砲龍と言うのですね」
教団員が変異したその姿。金属質の甲殻に覆われた体に巨大な砲塔。紛れも無く緋砲龍のものだった。
「……おやおやお二人共。そんなに小さいあなた方に一体何が出来るのでしょうかねぇ」
「どれだけの大きさの差があろうが、俺たちは決して戦わずして逃げることはしない!」
「その通りだ! 行くぞカイリ!」
二人は緋砲龍の右足と左足に向かって行く。
「震地斬!」
カイリは大剣を大きく振りかぶり、大地を震えさせるほどの一撃を叩きこむ。
「旋回跳躍……螺旋斬り!!」
緋砲龍の足を蹴り上げ、周囲を回転するように上空へと跳躍したラパルはそのままの勢いで双剣による斬撃を与えて行く。
洗練された二人の攻撃は、並みの魔物であれば瞬く間に無力化できるだろう。しかし緋砲龍の金属質な外殻は両者の全力の一撃をものともしない。
「嘘……だろ……?」
大剣は弾かれ、カイリは大きく体勢を崩す。
「そんな……」
螺旋斬りによる連続攻撃は剣への負担が大きく、ラパルの双剣は大きく刃こぼれを起こしてしまったのだった。
「うーん、何も感じませんよ。その程度の攻撃では私にダメージなど与えられません」
「ぐっ……だがそれでも俺は!!」
カイリは再度大きく踏み込み、大剣で薙ぎ払う。しかし緋砲龍の足に全力で叩きつけられた衝撃で、大剣は真っ二つに折れてしまったのだった。
「勝負ありですね。それではお二方には消えていただきましょう」
緋砲龍は砲塔を二人へ向け、魔力を集中させて行く。
「この街ごと俺らを吹き飛ばすつもりか……!?」
「駄目だ……私たちではヤツを止めることは……」
「さあ、消えなさい!」
緋砲龍が魔力砲を撃とうとした時、突然遠方から飛んできた魔力砲により緋砲龍は大きく体勢を崩した。
「ぐぁ!?」
「何だ!」
二人が魔力砲の飛んできた方角を見ると、そこにはもう一体の緋砲龍が砲塔から煙を出しながら立っていたのだった。
「お二方! こちらへ!」
あまりにも現実離れしている目の前の光景に、二人はただ茫然と見ることしか出来なかった。そんな二人を大きな斧を担いだ一人の女性、ギラが誘導する。
「ギラ、状況はどうなっている」
「幸いお二方とも大きな怪我はしていないようです」
「そうか。後はアイツに、サザンに任せるしか無いな」
ルカとギラは二人を連れてこの場から離れたのだった。
「……私と同じ力。なるほど、あの爪の持ち主という事ですか」
目の前にいる緋砲龍に、教団員は驚きを隠せずにいる。しかしそれもすぐに落ち着き、自分なりの答えに辿り着いたのだった。
教団員が祝福の薬の凝縮に利用していたのは緋砲龍の爪だった。その爪が持っていた魔力によって教団員は緋砲龍の力を手に入れることが出来たのだ。
「ですが同じ力だと言うのであれば、私が負ける道理はありません!」
教団員はサザンに砲塔を向け、魔力砲の準備を始めた。しかし魔力を集めきる前に、再びサザンの砲撃を受けてしまう。
「ぐぁあぁっ!? 何故、何故これほどまでに速く砲撃を行える……!?」
応戦しようと魔力をためる教団員。その間にもサザンは何発もの魔力砲を放ち、教団員の体に大穴を開けて行く。
「ぐふっ……。おかしい……同じ力を持つはずなのに……」
「同じ力だって?」
「貴方のその力も、私のこの力も、どちらも緋砲龍のはずです……!」
「見た目はな。だがお前のその力、所詮は偽物だ。見た目が緋砲龍の姿をしているだけで、魔力の使い方も魔力量自体も、俺には遠く及ばない」
サザンは教団員にそう言い放ち、次々に魔力砲を命中させていく。
「いやだ……せっかく力を手に入れたのです! 私はこの力で頂点へ上り詰めるのです……あがぁあぁぁあっっぁ」
度重なる魔力砲の命中によって、教団員の鱗も甲殻も爪も、立派な砲塔も、その全てが蒸発していく。
そして消えた緋砲龍と入れ替わるように、巨砲龍が現れた。他の分霊を探すために別の街に向かっていたサザンが転移魔法で星龍の街へと戻って来たのだ。教団員に対抗するために人化を解除したものの、緋砲龍のサザンによって教団員は倒されたのだった。
「……もう終わったのか」
「そうか。ランたちの言っていたサザンはお前だな」
「ランたちに会ったのか?」
「ああ。なんか俺が俺じゃないとか言っていたが……」
「あー……まあ詳しい話はこの街にいる俺から聞いてくれ」
「まだ俺がいるのか!?」
緋砲龍のサザンはまだ他にもサザンがいるという事実に驚愕する。
「なんなら追加で2人いるらしい」
「……どういうことだ?」
「まあまずは人の姿に戻ろう」
「そ、そうだな」
二人は人化の魔法を使い、人の姿に戻る。そして緋星龍のサザンの元へと向かうのだった。その道中、教団員の亡骸から緋砲龍の爪が転がり落ちたのを見て、サザンはそれを拾って行った。巨砲龍の時と同じように、自らに取り込むことで能力を取り戻すことが出来ると考えての事だった。
「早速他の俺を見つけたみたいだな」
「ああ。まあ見つけたというか、向こうからやってきてくれたって感じだが」
「本当に俺がもう一人いるだと……?」
緋星龍のいる地下洞窟にやってきた緋砲龍のサザンは、サザンが最初にここにやって来た時と同じような反応を示す。
「はあ。もう一度説明し直しか」
「まだあと二人いるからな」
「こんなことなら分霊をたくさん作るんじゃなかった」
緋星龍は露骨に嫌そうな表情を浮かべる。
「まあいい。さて、どこから話したものか……」
緋星龍は新たにやって来た緋砲龍のサザンに、すべてを伝えるのだった。




