67 分霊
「驚くのは無理はない。俺がそっちの立場になったら、きっと同じ反応をするだろうからな」
緋星龍は小さく笑みを浮かべながらそう言う。
「さて、聞きたいことも色々あるだろうがまずは俺の話を聞いて欲しい。まず、お前も俺自身も紛れも無くサザンだ。それは良いな?」
「あ、ああ……。理解が追いつかないが、そうなんだろうな」
このありえない状況に、サザンは適応していた。緋星龍から感じ取れる魔力が、紛れも無く自分自身と同じものだったのだ。擬態魔法や変装魔法を使っても術者の魔力自体を変えることは出来ない。必然的に今サザンの目の前にいる者はサザン自身に他ならないということになる。
「細かく説明すると長くなってしまうが、簡単に言うならばお前は俺の分霊だ」
「分霊? 神が行うあの分霊か?」
「そうだ。俺は緋星龍として人々を守った時に、神としての役割を与えられた。だが俺は人であり龍。純粋な神ではない俺は、完全に同じ力を持った分霊を作ることは出来なかったんだ」
「……だから俺は他の形態になれなかったんだな」
「ああ。俺の持つ各形態をいくつかの分霊として分け、各地に散らばらせた。いや、散らばってしまったと言う方が正しいか」
サザンが目覚めた時、その姿は一番最初に龍転身を行った時のものだった。そのことがずっと気がかりだったサザンだが、緋星龍から説明を受けた今、その理由が分かったのだった。サザンは緋星龍である本体から分離した内の一人だったのだ。
「というかその言い方、俺以外にもいるみたいだな」
「お前以外にも巨砲龍、緋砲龍、緋艦龍の力を持った3人がどこかにいるはずだ」
「……となると俺は、一番弱い力だったのか」
「すまん。まあ、こちらも色々とあってな」
緋星龍は申し訳なさそうに謝った。
「確かに、わざわざ分霊を使うってことはそれなりの理由があるんだろ?」
「そうだ。お前は数年前のデオスのことは覚えているか?」
「ああ、世界がこうなっちまった原因だな」
「その時の衝撃波によって、この星は生命が生きることの出来ない濃度の魔力で満たされてしまった。その魔力から人々を守るために、俺は能力の大部分を使用して大規模な結界を張っている」
「なに?」
「だから分霊が必要だったんだ。俺はここから動くことが出来なくなってしまったからな」
緋星龍のその言葉を聞いて、サザンは改めてその体を凝視する。確かに緋星龍の体には、しばらく動いていないことを証明するかのように薄っすらと埃を被っていたのだ。それに体の大部分は損傷がそのままで回復が追いついていなかったのだ。
「俺が動けない以上、メルたちの捜索や魔王の対処などは分霊に任せるしか無かった。だが致命的なことに、分霊には直接干渉することが出来なかったんだ。俺の願いを伝える間もなく各地に散ってしまった。だから、いずれここにやってくるのを待つしか出来なかった」
「そうなのか。……いや待て魔王だって?」
緋星龍がしれっと混ぜていた単語に、サザンは反応する。
「魔王ってのは勇者が倒そうとしているあの魔王か?」
「ああそうか、お前は俺だけど意識は共有していないんだったな。そうだあの魔王だ。箱庭からこの世界に出てきた魔王は俺の張った結界の外に出現した。だから本来はそこで死ぬはずだったんだ……」
緋星龍は表情を曇らせながら話を続けた。
「完全に偶然だった。魔王が出現した場所に偶然デオスの艦隊の破片が転がっていたこと。そして魔王が俺と同じように物体を取り込んで進化出来る力を持っていたこと。この二つが奇跡的に噛み合い、魔王は魔力濃度の高い場所でも生きられる体になったんだ」
「魔王が、俺と同じ力を……?」
「そう、その力を使って魔王は機械の体を手にした。そして今、魔王は軍隊を作りこの結界の中へと攻め込もうとしている」
「何だって!?」
緋星龍から出たその言葉に、サザンは驚きを隠せなかった。同時に、ここで緋星龍に出会えていなければどうなっていたのかとも思ったのだった。
「魔王が攻め込んでくる前に何としてでも他の分霊を見つけないといけない。恐らくお前一人では魔王の軍隊には勝てないだろうからな」
「いや俺が弱いのは力を与えなかったお前がいけないんじゃ……」
「……」
サザンに図星を突かれ、緋星龍は目を反らしたのだった。
「まあいいさ。俺が他の形態の力を持っていなかったのは結果論でしか無いしな」
「そう言ってくれると助かる」
「ただ、魔王とは別にもう一つ聞きたい事がある。お前……星龍教団を知っているだろ?」
「俺を祀り上げる宗教組織だな。俺がこうして結界を張ることに専念できているのも、彼らが色々と取り計らってくれているおかげだ」
「なら話は早い」
サザンは少しづつ表情に怒りを混ぜながら緋星龍に詰め寄っていく。
「お前は、教団がやりたい放題やっていることは知っているのか?」
「……そうだな。お前ならそう反応するだろうと思っていた。俺だって同じだからな」
「ならどうして」
「さっきも言ったが、俺は能力の大部分を結界維持のために使用している。ここから動いて教団の対処をすれば瞬く間に結界は崩壊し、結界内の生命は残らず息絶えるだろう」
「くっ……」
サザンも理解していた。緋星龍の説明を聞いて、彼が対処に動ける状態ではないことは理解していたのだ。しかし、感情はそう簡単に抑えられるものでは無かった。
「俺がいるこの星龍の街。ここは俺の力で治安を維持してきた。だが他の国になって来ると、もう干渉出来る範囲を出てしまうんだ。俺の授けた力を悪用する者が外に出て行き、それがどんどん拡大していった。だが、俺には何も出来なかった……」
「くそ……わかってはいる。わかってはいるんだが……それでも……」
サザンは今までに出会ってきた、教団や祝福の薬の被害にあった者を思い返す。教団によって虐げられてきた者や、薬によって魔物に変えられた者。そして一際強く心に残るのは、生きたまま魔物を産むための装置、マザーにされてしまった者たち。
「力を得た組織は徐々に腐っていく。それがわかっていながら、力を分け与えた俺の落ち度だ。だが、それはあくまでも結界の中の人々を守るためだったということは理解してほしい」
「……ぐっ。ああわかった。……不可能なことを強制する程、俺は理不尽じゃない」
サザンの脳裏に浮かぶ一人の男。かつて理不尽にサザンを追放した憎き男だった。
「俺はあいつの様にはならない」
「……あいつか。もう会うことは無いとは思うが、結界の中は狭い。またどこかで会うことになるのかもしれない」
「そうなったら今度こそ恨みを晴らすだけだ。……ああ、嫌なこと思い出しちまったな」
「……俺もだ」
空気が重くなったその時、洞窟の奥から何かが近づいてくる音がしたのだった。
「……何だ!?」
近づいてくる者を見て、サザンは即座に臨戦態勢を取る。
「その鎧……デオスなのか?」
その者は、デオスの艦隊に使われていた素材と同じもので出来た鎧を身に纏っていた。鎧のせいか魔力を感じ取ることも出来ず、サザンは警戒を強めたのだった。




