64 祝福の魔龍
「恐れるな! 後衛は引き続き援護を! 私とギラ、ルカが前へ出る!」
恐怖によって硬直していた冒険者たちをランが鼓舞する。
「よ、よし……俺たちだって危険を承知で冒険者やってるんだ……! 行け、ファイアボール!」
後衛職による援護攻撃が始まり、それに合わせてランたち3人も司祭に向かって踏み込む。
「ふむ、その程度ですか……はぁぁ!!」
「うっ……!?」
冒険者たちの攻撃は司祭に全くダメージを与えなかった。それどころか司祭の放った覇気により戦意喪失状態となってしまった。
「ぐっ……これは凄まじいな」
「でも、ここで私たちが屈してしまったら王国が壊滅してしまいますから」
「この程度、何ということは無い……」
ランたち3人はビリビリと体中を駆け巡る恐怖心に屈せず、立ち続ける。
「おや、どうやら想定外の強さを持っていたのは貴方たちですか。いやはや大したものです。今の覇気を受けて立っていられるとは……」
「何度も危険な戦いを潜り抜けているからな。気迫だけで押し負ける程、私たちは軟では無いぞ」
「そうですか。それでは、これなら如何でしょう」
「くっ……!」
司祭は様々な獣の爪が無造作に生えている腕を振り払い、距離を詰めたランに攻撃をする。その太さからは想像もつかないほどの速さで振り払われたため、ランはギリギリのところで何とか避けることが出来た。
「良い動きですね。ですがこれならどうでしょうか」
司祭はランとギラの二人に比べて後方にいるルカ目掛けて腕を伸ばす。二人に比べて軽装なルカは司祭のあの太い腕で殴られればひとたまりも無いだろう。
「見ればわかります。貴方は魔術師ですね? 魔法職の身体能力では避けることも受けることも難しいでしょう」
「確かに魔術師ならば対処に苦戦していただろう。だが、何故俺が前線に出ているかを考えなかったのか?」
「何ですと?」
ルカはそう言うと魔術師に似合わぬ俊敏さで腕の攻撃を避け、即座に身を翻し短刀で斬りつける。
「ほう、さては魔法戦士ですか」
「こちとら単独で旅をしていたものでな。一人で魔物と戦うには遠距離攻撃も近接戦闘も何もかも一人で出来なくてはならないんだ」
「それはそれは何とも悲しいお話です。私も王国の教団から除け者にされた身。他人事とは思えませんねぇ」
司祭は憎悪に満ちた目をしながらそう呟く。
「ですからこうして力を手に入れ、復讐に来たのです」
司祭は全身から血液とともにさらに大量の爪や牙を突き出す。
「まだ変化するのか……!」
既に異形だった司祭の体はさらに歪なシルエットへと変化し、もはや手足の判別も出来ない塊へと化していた。
少しすると司祭だった塊はラン達の元へと動き始める。その見た目とは裏腹に移動速度は速く、油断は出来ない状況だった。
「うおおぉぉぉ!!」
ランとギラが斬りこんでいく。ランのオリハルコンの剣が無造作に生えた司祭の角や牙を砕く。そして肌が露わになったところにギラの重い一撃が入る。硬い甲殻もこの一撃には耐えられず砕かれてしまう。
「ンギギィィィィ!!」
甲高い悲鳴のような音を出しながら司祭が転げまわる。
「効いてはいるようだな」
「やはり生物である以上、痛みからは逃れられないようですね」
「この隙を利用しない手はない。行くぞ!」
司祭が隙だらけになっている内に、3人はありったけの攻撃を叩きこむ。ランの剣が肉を斬り裂き、ギラの斧が甲殻ごと司祭の一部をえぐり取る。そしてルカの放ったウインドボムが司祭の全身を斬り刻む。
「グギャァァァアアァ!!」
「よし、このままとどめを刺しましょう!」
「いや、待て! 何か様子がおかしい……!」
とどめを刺そうとするギラをランは制止する。転がりまわる司祭の体がさらに変化し始めていることに気付いたのだ。
「不味い、離れるんだ!」
ランの掛け声とともにその場から飛び退く3人。そのすぐ後、司祭は辺り一面に魔力を帯びた植物のツルを伸ばした。あと一歩遅れていたら取り込まれていただろう。
「何が起こって……」
「どうやらまた変化しているようだ。今度はどんな異形になるんだか」
植物のツルに囲まれて球体になる司祭。そして少し経つと植物のツルが外れ、中の司祭の姿が見えてきた。
「なっ……」
中から出てきたのは紛れも無く、龍だった。無造作に生えた爪や牙はそのままではあるものの、先ほどまでのような異形の姿では決してなかった。
「ふぅ……やっと理想の姿になれましたよ」
「……自我が戻ったのか?」
「いやはや、自我を失うと言うのはあまり気持ちが良いものではありませんね」
司祭はポリポリと異様な形の爪で器用に自身の顔を掻きながらそう言う。
「だが、龍であろうと私たちは退くことは出来ない!」
ランは司祭に向かって踏み込み、斬り上げる。しかし、その攻撃は司祭の甲殻に弾かれてしまう。それだけでは無く、オリハルコンで出来ているはずの剣が欠けてしまっていた。
「硬い……!」
「なら私が!」
今度はギラが全力の一撃をぶつけるが、司祭の甲殻に斧が当たった瞬間砕け散ってしまった。
「そ、そんな……!」
「その程度の攻撃、今の私には通用しませんよ」
「ならこれはどうだ」
ルカは司祭の死角に回り込み、ありったけの魔法攻撃を行う。何重にも発動された魔法が司祭の甲殻を斬り裂いていくが、そのどれもが表面に傷を付けるだけで明確なダメージを与える程には至らない。
「何だと……?」
「中々の威力ですが、それでも私には届きませんねぇ」
司祭は余裕の表情を浮かべる。
「それではこちらから行きましょうか」
「何を……うぐっ!?」
司祭は翼で風を巻き起こす。その威力は凄まじく、全身を金属鎧で覆っているギラすらも軽々と吹き飛ばすほどだった。
「がはっ!」
3人は吹き飛ばされた先の木や岩に凄まじい威力で叩きつけられる。
「ぐっ……駄目だ、体に力が……」
「ランさん……私、まだ戦え……がふっ」
3人は今の一撃で満身創痍の状態になってしまった。
「おや、これで終わりですか? 先ほどまでの威勢はどこへやら……」
司祭は徐々に3人に近づいて行く。
「ぐっ……ここまでなのか……」
「待て」
「っ!?」
3人を襲おうとした司祭を制止する声。その声は上空からのものだった。
「司祭……俺はお前を許さない」
「貴方……まさか先ほどの……! それにもうマザーを……? 周りにいた魔物たちはどうやって……」
明らかに困惑する司祭の前に声の主サザンは降り立つ。
「サザン!」
「ラン、それに……」
サザンはギラとルカの二人を見て懐かしそうな表情を浮かべた後、再度司祭の方へ向き直る。
「ギラ、ルカ……二人もありがとう」
「え……あれ、なんで私の名前を……?」
「俺の名前も……いや、サザンと言う名には聞き覚えが……」
何故か名前を知っている目の前の龍に、二人は困惑の表情を浮かべる。
「さあ司祭。覚悟は出来ているんだろうな?」
「おや、私に勝つおつもりですか? どうやって龍の姿になっているのかはわかりませんが、私のこの力……祝福の魔龍の方が遥かに強力であり強大であることに変わりはありません!」
サザンと司祭。龍同士の戦いが、ここに始まるのだった。




