63 魔物の軍隊
ルガレア王国は魔物の軍隊が進行しているという報告を受けて騒ぎとなっていた。かつてサザンがイル・ネクロを討伐した時の記憶は、箱庭の記憶統制により国民から消えている。記憶が残っていればあの時のように迅速な対処が出来たかもしれない。だが、今のルガレア王国は箱庭内の箱庭外の両方が入り混じり、さらに星龍教団によってかき乱されている。力を持たぬ国民は慌てふためき逃げることしか出来なかった。
そんな中、一部の冒険者たちは魔物を迎え撃つために武器を取り城門を守る戦いへと身を投じる。
城門の冒険者たちは遠くから魔物たちが進んでくるのを確認すると、己の得物を再度確認し準備を整える。
「あれほどの群れと戦うのは初めてだが……やるしかねえな」
「どちらにしろ生物が生きられる土地はそう多くはありませんから、王国を攻め落とされたら戦う力を持たない国民はまず生き残れないでしょうね」
サザンが身を挺して守った範囲の外は濃度の高い魔力で満たされており、生物が少しでも触れれば即座に異常を来す。そのため生物が生きられる範囲自体がそう多くは無く、さらに凶悪な魔物の跋扈するこの世界においては、力を持たない者などあっという間に食われるか孕み袋にされるのが関の山である。
魔物軍隊が近づいた時、最初に動いたのはランだった。オリハルコンの剣を抜き植物型の魔物に斬りかかる。ランの四肢を拘束しようとツルを伸ばす魔物の攻撃をするりと避け、懐に跳びこむと同時に斬り上げる。オリハルコンの剣の切れ味は凄まじく、そこにランの実力も相まって魔物は真っ二つになった。
「流石はランさん! 元勇者パーティだったってのも頷けるっす!」
「よし、俺たちも続くぞ!」
ランに続いて他の近接戦闘を得意とする冒険者たちが前へ出る。同時に、銃や弓、魔法などの遠距離攻撃を得意とする冒険者たちが後ろで援護を始める。
最初の内は善戦していた冒険者たちだったが、どれだけ倒しても後から次々と湧き続ける魔物たちに体力を消耗していく。そして気付いた時には城門近くへと押し返されており、後に引けない状況となってしまう。
「まだだ、私たちはまだ戦える!」
ランの鼓舞を受け冒険者たちは何とか魔物たちを押し戻そうとする。しかし数に物を言わせた魔物の軍隊は、そう簡単に押し返せるようなものでは無かった。それに、ほとんどの魔物は大した脅威ではない中、数十体に一体の割合で強力な魔物が混ざりこんでいるのだ。冒険者の中でそういった魔物に対抗できる者はそう多くは無く、対処のために陣形が乱れてしまうことが多々あった。
ランも例外では無く、他の冒険者では敵わない魔物の対処を行うために消耗を強いられてしまう。そしてついに限界が訪れてしまうのだった。
「うぐっ……」
疲労によってランに一瞬の隙が生まれてしまう。そのほんの少しの、一瞬の隙に魔物の攻撃を受けてしまった。そうしてアキレス腱を損傷してしまったランは上手く歩くことが出来ず、戦力外になってしまう。そしてランが戦えなくなってしまったため陣形に穴が開き、そこから魔物が漏れ出てしまった。
回復魔法を使える冒険者がランの負傷に気付くよりも速く、魔物は城門へと突っ込んでいく。仮に気付けたとしても詠唱が終わる前に魔物の侵入を許してしまうだろう。
城門のそばに王国騎士が待機しているものの、星龍教団によって弱体化された彼らでは強力な魔物の侵入に対処することは出来ない。
続々と抜け出る魔物たち。遠距離攻撃ではその勢いを止めることは出来ず、城門のすぐそばまで迫られてしまう。
「グラウンドインパクト!!」
突如、女性の掛け声と共に地面から突き出した岩の塊によって城門へと迫った魔物たちが空中へと打ち上げられる。
「ウインドスクエア!」
今度は男性の掛け声とともに四方から風の壁が迫り、魔物を切り刻む。
「ランさん、大丈夫ですか!?」
「君は……ギラ!?」
岩の塊を突き出す斧スキル『グラウンドインパクト』を放ったのは、かつて別の道を選び別れた重戦士の女性ギラだった。
「何故君がここに?」
「王国に魔物の軍隊が迫っているというのを聞いて、急いで駆け付けたんです。そうしたらランさんが魔戦っているのが見えて……」
「話は後にしてくれ。今は魔物の対処が先だ」
ギラに話しかけてきたのは一人の男性。先ほど鋭利な風を四方から放ち対象を斬り刻む風魔法『ウインドスクエア』を放ったその男は、次元迷宮での一件の後姿をくらませていた偽の勇者、ルカだった。
「……二人はなぜ一緒に?」
「腕を磨くための旅の道中で出会ったんです!」
「……成り行きでしかないがな」
ランは二人が何故一緒に居るのかを聞く。やけに嬉しそうに話すギラと少し目を反らしながらそう言うルカの様子を見て、ランはこの二人と自分自身の関係性が単純なものでは無いことに気付く。自身の事を好いているルカと、そのルカに好意を抱いているギラ。自分が面倒な関係に巻き込まれていることを理解し、心の中でため息をする。
少しして回復職の冒険者に回復してもらったランは落ち着いて考えた。一つの疑問点に行きついたのだ。何故自分はこの二人と面識があるのか。ルカとギラが旅の途中で出会っているという事は、勇者パーティから追放されてからエルフの里で傭兵をやるまでの間にギラと出会ったことになるのだ。
しかしその間の記憶があやふやであり、上手く思い出せない。大事な人がいたことは何となく思い出せるものの、鮮明にその存在を思い出すことが出来ないでいる。
「話は終わりだ。まずは魔物を殲滅する」
「そ、そうだな!」
ランはルカの声で我に返り、剣を持ち立ち上がる。
「必ず勝って見せるぞ!」
「当然だ」
「当然ですよ!」
ラン、ルカ、ギラの3人は魔物の軍隊に向かって突き進んでいく。ランとギラが弱い魔物を斬り倒しながら強力な魔物の気を引き、ルカが魔法を使い魔物たちをまとめて一層する。3人の活躍によって無限とも思われた魔物はその数を減らしていく。
「そこまでですよ」
「誰だ!」
上空から一人の男から降りてくる。その男はこの魔物の軍隊を王国へと攻め込ませた張本人である司祭だった。
「これほどまでに強い冒険者がいたのは想定の範囲外ですが……所詮この程度の魔物では無理でしたか。さて、ここからはそうはいきませんよ」
司祭は懐から小瓶を取り出し、一気に飲み干す。
「あれがサザンが言っていた祝福の薬と言うヤツか!?」
「あがぁっ……くっ想像していた以上の苦痛ですが……うぐっ問題はありません……!!」
体中の肉が引き裂かれ、中から甲殻や植物の皮、角や魚のエラなど様々なものが生える。そうして恐ろしい音を立てながら体を変貌させていく司祭。何の魔物かの判別も付かない程に異形と化したその姿は、この場にいる者を恐怖させた。
「はぁ……はぁ……。さて……誰から血祭りにあげれば良いのでしょうかね?」
異形のクリーチャーと化した司祭は冒険者たちに襲い掛かるのだった。




